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三国志  作者: 大田牛二
第二章 群雄割拠

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青洲の黄巾

投降するのを忘れていました。

 青州の黄巾が兗州へ侵攻した。その数は百万もおり、任城相・鄭遂ていすいを殺してから転じて東平に入った。


 兗州刺史・劉岱りゅうたいという人は強気な人で、百万と称している青州の黄巾を恐れり、これを撃とうと欲した。しかしそれを済北相・鮑信ほうしんが諫めた。


「今、賊の数は百万もおり、百姓が皆震恐して士卒にも闘志がないため、まともに戦えません。賊を観たところ、多数の同類が互いに従っているだけで統率する者がおらず、軍には輜重がなく、ただ略奪によって資(資本。軍需)を為しています。今は士衆の力を蓄えてまず守りを固めた方がいいでしょう。彼らが戦いを欲しても得られず、攻めても攻略できなければ、その形勢は必ず離散することになります。その後、精鋭を選び、要害を拠点にしてこれを撃てば、破ることができましょう」


 しかしながら弱気な意見であると一蹴した劉岱は従わず、東平で黄巾と戦った。結果は言わずもがな戦死した。勇気だけではどうにもならないものである。


 東郡太守・曹操そうそうのもとに一人の男が訪ねた。曹操の配下としては新参である陳宮ちんきゅうである。彼は勇敢な性格で地元の顔役として慕われていたこともあり、推挙されて曹操に仕えたのである。


 彼は曹操に言った。


「今、州には主がおらず、王命も断絶しています。私が州中の綱紀(この「綱紀」は州の別駕や治中諸従事を指す)を説得することを請います。あなた様がすぐに赴いて州牧になり、これを資(資本)にして天下を収めること、これが霸王の業となりましょう」


「素晴らしいやってくれ」


 曹操は彼の言葉に才覚を感じ、すぐさま実行させた。


「陳宮は成功するだろうか?」


 曹操は荀彧に訪ねた。


「成功すると思います」


 荀彧の言葉に曹操も頷く。


「陳宮という男は才覚がある。早く大きな仕事をやらせてみたいと思っていたからな。ちょうど良かった」


「まあそうですね……」


 荀彧は歯切れの悪そうに言った。


「ただ彼には空想癖があると言いますか……なんと言いますか……彼は少し難しいところがありますけどね……」


「ふむ、よくはわからないが……私は才覚を示してくれるのであれば良いと思っているが」


「ええ、そのことは大丈夫だと思います。それでは失礼します」


 荀彧は退出した。


 陳宮は別駕や治中を説得しに行ってこう言った。


「今は天下が分裂していて州に主がいません。東郡の曹操は命世の才(当世に名が知られた才)です。もし迎え入れて州を管理させれば、必ずや民を安寧にできましょう」


 鮑信は曹操と親しんでおり、曹操を主にすることを支持した。その彼の協力もあり、陳宮の説得は順調に行き、州吏・万潜ばんせきらと共に東郡に行って曹操を迎え入れた。


 こうして曹操が兗州刺史を領すことになった。


「青州の黄巾と戦う際、前任者には戦うなと言ったが私はどうするべきかな?」


 曹操が鮑信に問いかけると彼は笑って答えた。


「あなたならば戦えるでしょう」


 曹操も笑い、意気揚々と兵を進めて寿張の東で黄巾と戦うことにした。


 曹操は自ら歩騎千余人を率いて戦地を視察した。


「ここでならば、黄巾と戦うには良い場所でしょう」


 鮑信はこの辺りの地形に詳しいため彼が同行して説明を行う。


 するとそこに兵を数人率いている男が駆け込んできた。


于禁うきん、どうした?」


「鮑信殿、曹操殿。報告します黄巾賊がこちらに向かってきています」


「なんと」


「連中も偵察をこちらに派遣していたようです」


 普通の黄巾賊ではないようである。


「早馬を本軍に出せ」


 曹操はそう指示するとすぐに守りを固めるように指示を出した。


「ここから撤退の準備を初めても追いつかれて敗北する。一旦、相手の攻撃を受け止める」


 鮑信、于禁もそれに同意し、守りを固めた。


 黄巾賊は曹操軍の陣に殺到した。


「強い……」


 以前、皇甫嵩こうほすうの元で戦った黄巾賊とは比べ物にならない強さであった。そのため曹操軍の方ばかりにしかし戦っても利がなく、死者が数百人に上ったため、引き還した。


 すると賊がすぐに前進して来た。黄巾は賊になって久しく、しばしば勝ちに乗じており、兵は皆精悍であった。


「青州の黄巾は強いと聞いていたが、これほどとはな」


 王朝の精兵よりも強いのではないかと思えるほどに彼らの強さは本物であった。


「曹操殿。あなたは先に本陣に逃れられよ」


「汝はどうするのか?」


「私は残る。全員、逃げるというわけにはいかないだろうさ」


 負け戦に耐える将として曹操以外に適任なのは鮑信しかいない。


「だが……」


「あなたは大将だ。大将は死んではならぬよ」


 鮑信は笑顔でそう言った。


「劉邦には紀信がいた。ならば私はあなたの紀信となろう」


 紀信は劉邦の身代わりとなって劉邦を助けた忠臣である。それに自分がなるということは曹操は劉邦のように助かり、彼のような志を果たせということになる。


「鮑信……あいわかった。本陣に帰還し必ずや戻る。殿を頼む」


「承知」


 曹操は于禁に守れながら少数で逃走した。


「さあ、守るぞ」


 鮑信は青洲の黄巾との激闘に身を投じた。


 曹操は本陣に戻った。しかしながら曹操の本軍といっても曹操の旧兵が少なく、新兵も習練しておらず、黄巾に較べて寡弱であった。


 しかも最初の段階で小さな戦闘といっても破れたため、軍を挙げて懼れを抱く者も少なくはなかった。


 そこで曹操は鎧を着て兜を被り、自ら将士を巡視して撫循激励し(軍心を安定させて激励し)、賞罰を明らかにした。そのおかげで兵衆が再び奮起し始めた。


「それでも相手の方が強いのは変わらない。真正面から戦うのは不利だ」


 そこで曹操が軍議を開くとそこに、兵がやってきた。


「曹操様、援軍として参ったと申す者が来ました」


「援軍……?」


 ほぼ全軍を連れてきているだけに援軍となるとはてと思いながら曹操は会うことにした。


「おお、汝だったか」


 援軍としてやってきたのは曹仁そうじんであった。


 彼は曹操の祖父である曹騰の兄の子孫である。彼は黄巾の乱以降の混乱期に家を弟の曹純そうじゅんに任せて、小さな勢力として過ごしていた。曹操に最初に従わずにいたことから彼は天下への野心を持っていたことがわかる。


 しかしながら彼は独立した勢力を持っていることに限界を感じたところに曹操から誘いを受けたために駆けつけたのである。


「曹操殿。何やら大変なようであるが」


「よく来てくれた。さあ早速、力を貸してもらいたい」


 曹操は彼をすぐさま軍議の末席に座らせ、軍議に参加させようとした。


「よろしいのか?」


 いきなり諸将の一人として扱われたことに困惑する曹仁に曹操は言った。


「諸将として共に戦ってもらいたいと思い、招いたのだ。当然であろう」


(これが曹孟徳という男か)


 曹仁は今日からこの人の元で戦うのかと思うと嬉しいという感情が生まれたのが感じた。


 曹操は黄巾賊との戦いで細かく部隊を分けて、奇襲を何度も仕掛けた。この戦いにおいて曹仁が率いてきた騎兵隊は大活躍した。


「曹仁のなんと見事なことか」


 彼は曹操とは違い、独立勢力として動いていただけに曹操の諸将よりも成熟した強さを持っていた。彼の活躍もあり、なんとか黄巾賊を撤退させることに成功した。


「鮑信殿の遺体は見つかりませんでした」


 鮑信の元で戦った兵たちの多くが戦死し、生き残った者から曹操は鮑信が見事に戦い、戦死したことが伝えられていた。しかしながら肝心の鮑信の遺体は見つからなかった。


「鮑信……」


 曹操は彼の戦死と遺体が見つからないことを悲しんだ。

 

 そんな中、黄巾賊から曹操に書が送られた。


「昔、あなたが済南にいた時、神壇を破壊しました。あなたのやり方は黄巾の中黄太乙と同じだったので、道を知っているようでしたが、今また混迷しています。漢行(漢の道、命運)は既に尽きており、黄家が立つべきです。天の大運は、あなたの才力で存続できるものではありません」


 そのような内容であった。この檄書を読んだ曹操はその罪を叱責しつつも、何回も投降の路を開示した。


「投降しないか……」


 そう簡単に投降しないことはわかっている。ならば、何度でも戦おうではないか。


 その後、曹操は伏兵を設け、昼夜を分けずに会戦して、戦うごとに捕虜を得たため、賊がやっと退走した。捕虜を開放する度に曹操は彼らに奨金を懸けて鮑信の死体を求めたが得られなかった。


 鮑信を慕った人々は木を彫って鮑信の像を作り、曹操と人々は祭祀を行って哀哭した。

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