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三国志  作者: 大田牛二
序章 王朝はこうして衰退する

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江東の虎の初陣

 174年


 当時、会稽の妖賊・許昌きょしょうが句章で挙兵し、陽明皇帝を自称した。その子・許韶きょしょうが諸県を扇動して部衆が万を数えるほどになっていた。


 揚州刺史・臧旻ぞうびんは討伐のため兵の募集を揚州全域にかけた。


 それを受けて立ち上がった男がいた。


 その男は赤い頭巾を身につけており、軽快に笑う男であった。


「ふむ、兵の募集か。よしいざ行かん」


 彼の名は孫堅そんけん、字は文台である。


 呉郡富春の人で、恐らく孫武の後代であると言われている。その辺の真偽は不明である。


 孫堅の家は代々呉に仕え、家は富春にあり、先祖は代々城東に埋葬された。


 ある時、冢(墓)の上にしばしば光怪(光の怪現象)が現れ、雲気が五色になり、上は天に連なって数里に蔓延した。衆人は皆、それを観に行った。


 父老は互いに、


「これは凡気(普通の気)ではない。孫氏が興るだろう」


 と言うようになった。


 孫堅の母が懐妊すると、夢の中で腸が腹から出て呉昌門に巻きついた。母は目が覚めてから懼れて鄰母(隣家の老婦)に告げた。


 鄰母は宥めるように言った。


「どうして吉徴(吉兆)ではないと分かるのですか」


 孫堅が生まれると、容貌は非凡であり、性格は闊達で、奇節(奇特な節操)を好んだ。


 やがて孫堅は若くして県吏になった。


 十七歳の時、父と共に船に乗って銭唐に向かった時があった。


 その時、ちょうど海賊・胡玉こぎょくらが匏里(地名)から陸に上がり、賈人(商人)の財物を奪い取って岸の上で分けていた。


 そのため行旅(旅人)は皆、立ち往生し、船も進めなくなっていた。


 孫堅は海賊の様子を眺めていると突然、父に言った。


「この賊は撃てます。これを討つことを請います」


 驚いた父は、


「汝の手に負えることではない」


 と咎めたが、孫堅はその言葉を無視して、前に進むと刀を持って岸に上がり、手を振って東西を指し示した。その動きはまるで兵の指揮をしているようで、海賊は自分たちを包囲しているように見えた。


 遠くからそれを眺めた海賊たちは官兵が捕まえに来たと思い、急いで財物を棄てて逃げ散っていった。


「今だ」


 孫堅は賊の後を追いかけ、首級一つを斬って還ってみせた。


 孫堅の父を始め周囲の誰もが彼の行動に驚いた。


 この一件があったため孫堅の名が広く知られるようになり、府が召して假尉(恐らく仮の県尉)に任命した。


 そんな彼が自ら兵を募召(募集)し、千余人を得て、討伐軍に参加した。


 臧旻は兵を率いて出発した。孫堅は丹陽太守・陳寅ちんいんの下に付けられ、同行した。


 討伐軍と賊軍がぶつかると孫堅は兵を率いて自ら賊軍へと突っ込んでいった。


「いくぞぉ」


「兄上、前に出過ぎないでくだされ」


 孫静そんせいが諌めるるが、孫堅は聞かずに突き進み敵軍の将を切り捨てていった。


「我が名は孫文台。江東の虎とは我のことよ」


 彼の振るう刀は見事なまでに賊兵の首を飛ばしていった。


 遠くから矢が放たれながらも孫堅は一歩も引くどころか。更に前へと進んでいく。


「兄上を守るぞ。進めぇ」


 孫堅の勇気に感化され、孫静を始めとして孫堅の兵たちも同じように奮闘した。


 これらの孫堅たちの活躍を始め、討伐軍は終始、賊軍を圧倒した。その結果、賊軍は壊滅し平定された。


「兄上、無茶をなさらないでくだされ」


 孫静は数多の血を浴びながら休んでいる孫堅にそう言った。


「いやいや、私は無茶などしていないぞ静よ」


 彼は軽快に笑いながら彼の肩を叩く。


「まあ、お前が後ろにいるからな。安心して前に進むことができるというのもあるかもしれんな」


「兄上……」


「さあ、宴に行こうぜ。せっかくの勝利、祝わないとな」


 明るい笑顔で孫堅は孫静にそう言った。


(兄上はすごい人だ。きっとこの人は……)


 自分よりもはるか先に進むことになるだろう。


(私はその後をついて行けば良い……)


 そう思いながら彼は兄を追った。


 刺史・臧旻は今回の戦いにおいての孫堅の功状を列挙して朝廷に上書した。


 霊帝れいていは詔書を発して孫堅を塩瀆丞(県丞)に任命した。数年後には盱眙丞に遷され、更に下邳丞に遷された。


 孫堅は丁寧に県を治めたため三県の佐(県丞)の至る所で称えられ、吏民が親しんで従った。


 郷里の旧知や時事を好んだり、事業・事績を求める若者たちで、往来する者が常に数百人いたが、孫堅は彼らを受け入れて厚くもてなした。その様子は子弟に対するようであった。







「江東の虎と呼ばれることになる男の初めての輝き、その輝きは決して大きなものではなかったが、それでもその輝きは歴史において大きなものとなっていくことだろう」


 黄色い服の男はそう呟く。


「役者は揃いつつある……さて、残りの二人はどんな輝きを放つのだろうな……」


 彼は面白そうにしながら遠方を見つめた。

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