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三国志  作者: 大田牛二
序章 王朝はこうして衰退する

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第二次党錮の禁

昨日投降予定でしたが、間違えて投降してなかったので、今日の12時にも投降します。

 李膺りようらは廃錮(罷免・禁錮)されたが、天下の士大夫は李膺らの生き方や節操を高尚とみなし、朝廷が汚れているとみなした。李膺らを敬慕する者達は先を争って共に標榜しあい(「標榜」は善行美徳を評価すること、褒め称えることです)、特に優れた人士に称号を作った。


 竇武、陳蕃、劉淑りゅうしゅくを「三君」とした。「君」は「一世において宗となる者(「宗」は宗主。思想界等で尊崇を集める代表的な存在のこと)」という意味である。


 李膺、荀翌じゅんよく(または「荀昱」)、杜密とみつ王暢おうちょう劉祐りゅうゆう魏朗ぎろう趙典ちょうてん、朱㝢(しゅぐう)は「八俊」とした。「俊」は「人の世の英才という意味である。


 郭泰かくたい范滂はんぼう尹勳いんくん巴粛はしょくおよび南陽の人・宗慈そうじ、陳留の人・夏馥かふく、汝南の人・蔡衍さいえん、泰山の人・羊陟ようしょくを「八顧」とした。「顧」は「徳によって人を導くことができる者」という意味である。


 張倹ちょうけん翟超てきちょう岑晊しんく苑康えんこう、および山陽の人・劉表りゅうひょう、汝南の人・陳翔ちんしょう、魯国の人・孔昱こういく、山陽の人・檀敷だんしきを「八及」とした。「及」は「人を導いて宗(宗主)を追うことができる者」という意味である。


 度尚どしょうおよび東平の人・張邈ちょうばく王孝おうこう、東郡の人・劉儒りゅうじゅ、泰山の人・胡母班こぼはん、陳留の人・秦周しんしょう、魯国の人・蕃嚮しんきょう、東莱の人・王章おうしょうを「八廚」とした。「廚」は「財によって人を救うことができる者」という意味である。


 陳蕃と竇武が政治を行うようになると、再び李膺らを推挙抜擢したが、陳蕃と竇武が誅されたため、李膺らもまた廃された。


 宦官は李膺らを憎悪した。そのため霊帝れいていが詔書を下す度に、繰り返し党人の禁(党人に対する禁令)を公布した。


 侯覧こうらんは特に依然、墳墓と住宅を破壊し、資財(資産、財産)を没収した張倹を怨んでいた。


 侯覧の郷人・朱並しゅふはかねてから佞邪で、張倹に排斥されたため、侯覧の意向に迎合して上書し、張倹を弾劾した。


「張倹と同郷の二十四人がそれぞれ称号を設けて、共に部党(徒党)を形成し、社稷を危うくしようと図っている。張倹がその魁(筆頭)である」


 という内容である。


 霊帝は詔を発し、刊章(告発した者(ここでは朱並)の姓名を削った文書。逮捕状)によって張倹らを逮捕させた。


 十月、大長秋・曹節そうせつがこの機に有司(官員)を促してこう上奏させた。


「諸鉤党の者(党人。徒党を組んだ者達)は、元司空・虞放ぐほうおよび李膺、杜密、朱㝢、荀翌、翟超、劉儒、范滂らです。州郡に命じて考治(審問)することを請います」


 当時十四歳だった霊帝が曹節らに問うた。


「鉤党とは何だ?」


「鉤党とは即ち党人のことです」


「党人がどのような悪を為したからこれを誅そうと欲するのか?」


「皆、互いに群輩を挙げて(同類同士で推挙しあって)不軌を為そうと欲したのです」


「不軌によって如何しようとしたのか?」


「社稷を図ろうと欲したのです」


 霊帝はなるほどと思い、ついに上奏に同意した。


『資治通鑑』の注釈を行った胡三省はこう述べている。


「『軌』とは法度であり、『君君臣臣(君主が君主らしく、臣下が臣下らしくすること)』とはいわゆる法である。『人臣でありながら社稷を危うくしようと図ることを不法という』、これは誠にその通りである。しかし諸閹(諸宦官)がこの罪を君子に加えたにも関わらず、霊帝は悟らなかった。元帝は『召致廷尉(廷尉に送る)』を『下獄』の意味だと気づかなかったが、霊帝はそれよりもひどく暗愚ではないか。悲しいことである」


 ある人が李膺に、


「去るべきです」


 と言ったが、李膺はこう答えた。


「主に仕えれば、難を辞さず、罪があれば、刑から逃げないのが臣の節である。私の年が既に六十になった。死生には命(天命)がある。去ってどこに行くというのか」


 李膺は詔獄を訪ねて考死(拷問による獄死)した。


 誰もが彼を尊敬し、彼に近づこうと努力した。そんな彼は王朝の闇の中で消えてしまった。


 李膺の門生・故吏も併せて禁錮に処された。


 侍御史・景毅けいこくの子・景顧けいこは李膺の門徒であったが、牒(名簿)に記録されていなかったため、譴(譴責。懲罰)が及ばなかった。


 当時において名士た文士たちは徒を集めて教授しており、多い者は千人を数えた。管理するためそれぞれ姓名を譜牒に記録していた。


 景毅が慨然(感慨、憤慨の様子)として言った。


「元々、李膺が賢才だと思ったからこそ、子を送って師事させたのだ。どうして名籍から漏れているからといって目先の安寧を得ることができようか」


 景毅は自ら上書して官を辞し、帰郷した。


 汝南の督郵・呉導ごどう范滂はんぼう逮捕の詔を受け取り、征羌まで来た。


 征羌に入った呉導は詔書を抱いたまま伝舍を閉ざし、牀(寝床)に伏して泣いた。


 一県(県中。征羌侯国中)の人が何があったのか分からず、どうすればいいか分からなかった。


 これを聞いた范滂が言った、


「私のためにこうしているに違いない」


 范滂は自ら獄を訪ねた。


 県令・郭揖かくそんが大いに驚いて范滂を出迎えた。県令の印綬を解いて共に逃亡しようと誘い、


「天下は大きいのにあなたはなぜここにいるのですか」


 范滂はこう答えた。


「私が死ねば禍が塞がります。どうして罪によってあなたを巻き込むことができましょうか。それに、老母に流離(流浪)させることになります」


 范滂の母が別れを告げに来た。


 范滂が母に言った。


「仲博は孝敬なので供養(親を養うこと)するに足ります。私は龍舒君に従って黄泉に帰します。存亡(生者と死者)はそれぞれいるべき場所がございます。大人(あなた。母親)が忍び難い恩(捨てがたい恩。親子の情)を割くことを願います。悲しむことはありません」


 仲博は范滂の弟の字である。龍舒君は范滂の父・范顕で、龍舒侯の相を勤めた。


 母が言った。


「汝は今、李・杜(李膺・杜密)と名声を並ぼうとしています。死んで何を恨むのでしょうか。既に令名(美名)があるのにまた寿考(長寿)を求めて、どちらも得ることができましょうか」


 范滂は跪いて母の教えを受け、再拝して別れを告げた。


 その後、范滂が振り向いて自分の子に言った。


「私は汝に悪を為させたいと欲するが、悪とは為してはならないものである。私は汝に善を為させたいと欲するが、私は悪を為さなかった」


 少し難解な言葉である。もしかしたら前半の言葉と後半の言葉は本来、逆に書かれたものなのかもしれない。するとこういう意味になる。


 子供に善を行わせたいと思うが、悪を行わなかった自分が結局獄に入れられて処刑されることになってしまった。そのため子供に善を行わせることが本当に正しいのかどうかわからない。


 当時、権勢を握っている者達のように悪を行えば、その身は安全で富貴を得ることもできるだろう。だからこそ子供にも悪を行わせたいと思うが、しかし悪はやはり行ってはならないものだ。


 複雑な心境を述べた言葉である。


 道を行く人でこれを聞いて涙を流さない者はいなかった。この時の范滂の年は三十三歳という若さであった。


 党人の死者は合わせて百余人に上った。妻子は皆、辺境に遷されていった。


 天下の豪桀や行義(品行・道義)がある儒学の学者は全て宦官が党人とみなして弾劾した。怨隙(怨恨対立)がある者がこれを機に互いに陥れ合い、睚眦の忿(目を見開く程度のわずかな怒り)があっただけでも制限なく党人の中に入れていった。


 州郡も朝廷の意向に迎合し、党人と交関(交流・関係)がないのに禍毒を被った者もいた。


 こうして党人に連座して死(死刑)・徙(流刑)・廃(罷免・排斥)・禁(禁錮)に遭った者もまた六七百人を数えていった。


 この事件を「第二次党錮の禁」という。第一次とは違い、多くの者が死に、多くの関係の無い者が憎しみを晴らすために巻き込まれていったことが特徴であり、第一次の比では無い地獄がここにはあった。


 後漢王朝は郷挙里選の中で孝廉を重視し、親孝行のある人々を王朝に取り入れた。それによって血も涙もある人物たちを多く輩出して用いることができたが、そもそも親孝行の基準が曖昧で推薦制であることから、悪意ある者たちが出世しやすくなった。


 宦官に子孫と財産を残す権利を与えたように後漢王朝は今まで人としての立場が低かった宦官に人としての立場を与えた。


 後漢王朝は歴代の王朝の中で優しさのある王朝であった。


 だが、その優しさのある王朝が過去の王朝の中で最も凄まじい地獄を作り上げたことはまさに皮肉としかいいようが無い。

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