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三国志  作者: 大田牛二
序章 王朝はこうして衰退する

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東羌の平定

 霊帝れいていが詔を発し、謁者・馮禅ふうぜんを派遣して漢陽の散羌(残りの羌人。段熲だんけいに敗れて漢陽の山谷に入った羌人)に投降を説得させることにした。


 段熲は春農で百姓が田野を満たしている時期だったため、羌が暫く投降したとしても県の官府には食糧が無く、必ずやまた盗賊になると考えた。そこで虚に乗じてるべきだと考えた。


(馮禅の説得によって油断している間に兵を放てば、連中を討伐できる)


 そうすれば間違いなく殄滅(殲滅)できるだろうと考えた段熲は自ら軍を指揮して、羌軍が駐屯している凡亭山(「瓦亭山」)から四五十里離れた場所に営を進めた。


 そこから騎司馬・田晏でんあんと假司馬・夏育かいくを派遣し、五千人を率いて先行させた。


 二人は馮禅が説得している最中で油断していた羌軍を撃破した。


「どういうことか」


 馮禅は最初の説得を終えたため、羌軍から離れていたため無事であった。


「彼らを確実に始末するためです」


 段熲はそう言って、さっさと軍を動かした。


 羌軍は東に潰走し、射虎谷で再び集結し、兵を分けて谷の上下の門を守った。


「いちいち逃げられるのは面倒だ」


 段熲は羌人を二度と離散逃走させないために、一挙して滅ぼす策を考えた。


 七月、段熲が千人を西県に派遣し、木を結んで柵を作らせた。柵の広さ(幅。深さ)は二十歩、長さは四十里もあり、羌人の道を遮った。


 ここまでの彼らの戦いの動きを振り返る。


 段熲はまず安定郡高平で東羌を討ち、敗れた羌軍を追って上郡奢延に至り、霊武谷で大勝して安定郡涇陽まで追撃して、諸羌が敗散して漢陽郡の山谷に入り、集結して凡亭山に駐屯したところを破り、射虎谷に集まらせた。


 このように東羌は東から西に移動しているため、段熲は西県に柵を作って道を塞いで逃げ道を無くしたのである。


 段熲は田晏、夏育等に七千人を率いさせて分派させた。それぞれ枚(兵や馬が声を出さないために噛む木の板)をくわえさせ、夜の間に西山に上り、営を築いて塹(堀)を造らせた。その場所は羌から一里許(約一里)しか離れていない場所であった。


 また、司馬・張愷ちょうがいらに三千人を率いて東山を登らせた。


 しかしながらここで羌軍がこれに気づき、西山の田晏らを攻撃し、兵を分けて水を汲む道を遮ることで活路を見出そうとした。


「ちっ」


 段熲は舌打ちしたが、まあ良いと考え、伝令を東山と西山へそれぞれ送ると自ら歩騎を率いて水上(川辺)に進撃し、襲撃を仕掛けた。それにより羌は退却した。


「今だ」


 段熲は漢軍の旗を掲げた。すると東山の張愷らが、西山の田晏、夏育がそれぞれ出陣して挟撃した。更に段熲が兵を放って一撃を加えたことで羌を撃破した


 漢軍が羌を破って谷の上下門まで追撃した。深山深谷の中、各所で羌兵を破り、敵軍以下一万九千級を斬ってみせた。


 ここで馮禅らによて四千人を招降された。四千人は安定、漢陽、隴西の三郡に分けて置かれた。


 こうして東羌が全て平定された。いや、そのように馮禅が報告がされたというべきであろう。彼が説得途中で段熲が奇襲仕掛けたため、ある意味では面目を潰されたようなためである。


 また、段熲は合計百八十戦して三万八千余級を斬り、雑畜(各種家畜)四十二万七千余頭を獲ることができた。そして、軍士の死者は四百余人であった。長い間、戦っていたにしては少ないというべきであり、彼の名将として称えられるのも頷けると言っていい。但しそのためにかかった費用は四十四億という膨大なものであったこともここで平定したとして戦を終えなければいけなかった理由であろう。


 朝廷は段熲を改めて新豊県侯に封じ、邑一万戸にした。


 平定されたと言っても依然として、羌族の中では反乱の火種はくすぶり続けていた。


「だからこそ良いのだ」


 そう呟いた男がいる。その男とは董卓とうたくである。


「段熲めやりすぎだ」


 このまま彼らが全滅してしまっては自分が功績を稼げる場所がなくなるではないか。


 董卓にとって異民族である羌との戦いはやりやすく、己の名誉を高め、出世する上でいい相手であった。


(連中はわかりやすいからなあ)


「簡単に討伐もできるし、彼らの心を得るのも簡単だ」


 単純な思考な連中だと董卓は見下しの気持ちをもって彼らを見ている。


「今は軍を率いる力を示し続けなければな……」


 依然の党錮の禁の際、軍人には王朝は手を出さなかった。


「王朝の連中は腰抜けよ……」


 つまりは軍人としての実力を示し続けていれば、王朝は自分には手を出せないだろう。もはや董卓は王朝に対して見下しの感情しかない。


「ここはいい、物事の形が単純だ」


 強さの上下こそが秩序を構成する要素となる場所である。中原の複雑さがここにはないのである。


「世界は単純で良いのだ」


 董卓がそう呟いた時、


「小さいなあ董卓……」


 董卓は振り向き、所持していた短刀を抜いた。するとそこにはにやにやと笑う黄色い服の男がいた。男は董卓の持っている短刀を見て目を細める。


「その手に持っている短刀が泣いているなあ。董卓」


「貴様、私を愚弄するか」


 董卓は短刀を投げる。それをするりと黄色い服の男は避ける。


「もっと大きなことを考えることだ。なあ董卓よ」


 笑い声を響かせながら黄色い服の男は何処かへと消えた。














「何を遊んでいる?」


 仮面の男が歩く黄色い服の男に言う。


「遊んでいるとは人聞きが悪い。私はいつも大真面目さ」


 彼はそう言うとある場所に至った。


「やあ、久しいな」


 黄色い服の男はそこにいた女性に話しかけた。


「何の用?」


 女が問いかけた。


「ちょっとしたことを伝えようと思ってな……」


 黄色い服の男はにやりと笑うとこう言った。


「項羽の短刀を董卓が持っているぞ」


 女はぴくりと眉を上げる。


「それだけだ」


 黄色い服の男はさっさと去ろうとする。


「何が目的?」


「さあな」


 仮面の男を連れ、黄色い服の男が去っていった。女もいつの間にか何処かへと去っていった。





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