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三国志  作者: 大田牛二
第六章 英雄の黄昏

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龐徳

 孫権そんけんが合肥を攻めた。これだけを見ると関羽かんうの北上に合わせたように見える行動である。


 その際、魏の揚州刺史・温恢おんかいが兗州刺史・裴潜はいせんに言った。


「この一帯に賊(孫権)がいるが、憂いるには足りない。しかし今は雨水による大水が発生しており、子孝(曹仁そうじんの字)殿が縣軍(敵地に深入りすること)して遠地の備えがない。関羽は驍猾(勇猛狡猾)ですので、正に征南(征南将軍・曹仁)に変があることを恐れるだけだ」


 関羽は南郡太守・麋芳びほうに江陵を守らせ、将軍・傅士仁ふしじんに公安を守らせ、自ら衆を率いて樊にいる曹仁を攻撃していた。


「樊城、襄陽を陥落させ許昌めで攻め込む」


 関羽は配下の趙累ちょうるい廖化りょうからと息子の関平かんぺいに言った。


劉備りゅうび様……いえ、漢中王が漢中で勝利されましたし、ここで父上が勝利なされれば、我々の勢いを止めるものはいないでしょう」


 関平の言葉に関羽は頷きつつも、心の底ではこれは劉備のための戦いでは無いという思いをもっていた。


(私の正義のための戦いだ)


 関羽としてはそういう思いがある。ここで勝利し、曹操に勝ち。己の正義を天下に示す。


(あの方は変わってしまった)


 劉備の志は本来、もっと崇高なものであったはずであった。しかし諸葛亮しょかつりょうによって変わってしまった。今の彼がやっていることは曹操や袁紹、袁術らのような連中と同じようなものである。


(もうあの木の下でついてこようと思った方では無くなったのだ)


 しかし関羽はそれでも劉備への敬意を忘れているわけではなかった。劉備が忘れてしまった志を自分が果たすことで劉備への敬意の証明になる関羽としてはそう思っている。


(この戦いでそれを証明してみせる)


 関羽はそう思った。


 関羽の北上を受けて長安にいる曹操そうそうは信頼における将の一人である左将軍・于禁うきんを派遣し、曹仁を助けて関羽を撃たせようとした。


 曹仁は宛の侯音を攻略した時、樊城で北上してきた関羽の包囲を受けていた。曹仁はこの包囲をどうにかするためにも于禁や立義将軍・龐徳ほうとくらを樊北に駐屯させ、遊軍として関羽の包囲を崩そうとした。


 しかし八月、大雨が続いており、漢水が溢れて平地の水かさが数丈になり、于禁の軍営に注ぎ込んだ。


 やがて、于禁ら七軍が全て水没したため、于禁は諸将と共に高地に登って水を避けた。


 関羽は大船に乗ってそこに攻撃を仕掛けた。慌てて高地に登ったのであり、ほとんど守りを固めることもできていない状況では耐え切れないと判断した于禁は遂に投降した。


 しかし龐徳は堤防の上におり、甲冑を着て弓を持ち、矢を無駄に放たずに正確に関羽軍の兵を射抜きながら対抗した。


 日の出から力戦して正午を越え、関羽の攻撃がますます激しくなり、矢が尽きたため、短兵で敵兵と接した。


「我が首、取れるものなら取ってみせよ」


 龐徳は戦えば戦うほど憤怒し、気がますます勇壮になるものの、水がしだいに増えていき、吏士がことごとく投降し始めた。


 龐徳は小船に乗って曹仁の営に還ろうと欲したが、水の勢いが盛んなため、小船が転覆した。弓矢を失い、独り水中で転覆した船を抱えているところで、関羽に捕えられた。


 関羽の前に来た龐徳は立ったままでおり、跪くことはなかった。関羽が言った。


「汝の兄は漢中にいる(龐徳の従兄・龐柔ほうじゅうは蜀にいた)。私は汝を将にしたいと欲するが、早く降らないのは何故か?」


 龐徳は関羽を罵った。


「豎子めが、降るとは何だ。魏王には帯甲百万がおり、威が天下に振るっている。汝の劉備は庸才に過ぎない。どうして匹敵できようか。私は国家の鬼になることはあっても、賊将になることはないぞ」


「愚かな」


 関羽は龐徳を殺した。


 この結果を知った魏王・曹操は、


「私は于禁を知って三十年になるが、どうして危機に臨んで難に身を置いた時、却って龐徳に及ばないと予想できただろうか」


 と言い、龐徳の二子を列侯にした。


 関羽が樊城を囲んで更に苛烈に攻め立てた。


 城内に水が入り、所々が崩壊したため、衆人が皆、恟懼(恐惧)した。


 ある人が曹仁に言った。


「今日の危機は、力で支えられるものではありません。関羽の包囲が完成する前に、軽船に乗って夜に走るべきです」


 しかしこれに汝南太守・満寵まんちょうが言った。


「山水は変化が速いので、現状が長く続かないことを期待できます。聞くところによると、関羽は別将を派遣して既に郟下にいるため、許以南の百姓が混乱しています。関羽が敢えて前進しようとしないのは、我が軍が後ろを牽制することを恐れているためです。今、もしも遁走してしまえば、黄河以南が国家のものではなくなってしまいます。将軍は状況が変わるのを待つべきです」


 ここで関羽の進撃をここで止めなければならないのである。


 曹仁はこれに従うことにし、白馬を犠牲にして水に沈め、軍人と盟誓(誓いを立てること)し、同心になって固守した。


 城中の人馬(軍隊)はわずか数千人しかおらず、城で水没していない部分は数板しかなかった。『資治通鑑』胡三省注によると、「板」は城壁の高さの単位で、一板は二尺である。


 関羽は船に乗って城に臨み、すぐに包囲を数重にして内外を断絶させた。


 また、廖化を派遣して襄陽を守る将軍・呂常りょじょうを包囲させた。




次回は曹操サイド。

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