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三国志  作者: 大田牛二
第四章 天下の命運
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周瑜

『三国志』周りは情報量が多すぎて書ききれない部分が多く出てしまうなあ。



 劉表の旧吏士で曹操そうそう軍に従わされていた者の多くが曹操に叛して劉備りゅうびに帰順したという理由を元に劉備は周瑜しゅうゆから与えられた地が狭く、彼らを収容するには足りなかったため孫権そんけんから荊州北部をもらいたいと主張した。


 このように記載されているが、どちらかと言えば、劉表の旧吏士たちが荊州全域を劉備が要するべきだという主張をし始めたのだろう。


 これに今まで劉備に仕えてきた者たちも同意し始めた。一種の熱狂状態に陥り始めた。


 劉備としてはそんな状態に困惑しながらもならば、孫権と話し合うべきかと思い始めた。


(前回、荊州南部四郡くれた人だしなあ)


 いい人だと呑気なことを劉備が思っているのに対して、諸葛亮しょかつりょうは反対する。


「絶対に孫権の元に行ってはいけません」


「でもさあ」


 諸葛亮としても成功し始めていることに酔い始めている劉備の臣下たちに対して諸葛亮は苛立ちながら止めようとしていた。諸葛亮は孫権に荊州全域を寄越せと言わんばかりの交渉を行うなど言語道断である。


 そもそも周瑜から荊州南部四郡を保証されたと言ってもそれは本来、こちらが実力でもぎ取ったものである。保証される云われは無い。それにも関わらず、孫権に残りの荊州北部を寄越せとなれば、孫権の所有しているものを貸してもらうという印象を天下に与えてしまう。また、そんな交渉を行うことで孫権側の印象を損ねるのも問題である。


 一人、諸葛亮が劉備が孫権の元に行くのを反対するのに対して他の者たちはそれに反感を覚え、諸葛亮を批難していく。


 この状況に劉備は諸葛亮への批難を逸らすためにも独断で孫権の元に行くことを決め。自ら京(現在、孫権が拠点としている場所)を訪ねて孫権に会い、荊州を都督(総領。監督)することを求めた。


 孫権は悩んだ。荊州の人材を劉備が得ており、また彼の勢力に勢いがある。その相手と対立する方向に行くのは曹操という敵を抱えている以上、劉備と対立していくことは今の状況を考えるとそれはよろしくない。しかしそれを許すのは面白くない。


「ならばいっそのこと……」


 孫権は別のやり方を行うことにした。劉備にあることを持ちかけた。自分の妹と婚約しないかというものである。それによって自分たちの友好関係を固めようというのである。


 この頃、劉備の正妻であった甘夫人は世を去っている。劉備の拠点が確立された途端に世を去ったのだから不思議な人である。


 劉備はあっさりと孫権の申し入れに同意した。劉備はこの辺りの感覚が鈍い。


 孫権の妹は才智・性格が敏捷剛猛(才捷剛猛)で、諸兄(孫策・孫権)の気風がある女性である。そんな話しを孫権に聞かされながら、孫権の妹の部屋に行くとそこには彼女の侍婢百余人が皆、刀を持って侍立(立ったまま目上の者に侍ること)していた。


 さすがの劉備もこれには驚き、部屋に入る度に、心中が常に凜凜(畏れる様子)とした。


(嫌がらせではないか?)


 劉備は人の悪意に鈍いところがあるが、これは孫権の悪意だと思った。


(諸葛亮の言うとおりだった)


 微妙に違うが劉備は諸葛亮の言うとおりにするべきだと後悔した。


 そんな中、周瑜は孫権に上疏(上書)した。


「劉備は梟雄の姿をもってし、しかも関羽かんう張飛ちょうひという熊虎の将がいるため、決して久しく屈して人に用いられる者ではありません。私が大計を思いますに、劉備を移して呉に置き、彼のために盛んに宮室を築き、美女・玩好を多くしてその耳目を楽しませるべきです。また、この二人(関羽と張飛)を分けてそれぞれ一方に置き、私のような者に彼らを統率させて共に攻戦できるようにすれば、大事を定めることができましょう。今は妄りに多くの土地を割いて業(劉備の大業、覇業)を助けていますが、この三人が集まって戦場にいれば、恐らく蛟龍が雲雨を得たのと同じで、最後は池の中の物ではなくなるでしょう」


 呂範りょはんも劉備を留めるように勧めた。


 しかし孫権は曹操が北におり、広く英雄を集めるべきだと考えたため、二人の意見に従わなかった。


 そのため劉備は無事に帰還することができた。


 劉備は公安に還って久しくしてからこのことを聞き、嘆息して、


「天下の智謀の士は、見るところがほとんど同じなようだ。当時、孔明が私に行くべきではないと諫めたが、その意もこれを憂慮したのだ。私は正に危急の中にあり、行かなければならなかったが、これは誠に危険な道であり、危うく周瑜の手から免れられなくなるところだった」


 と言った


 劉備を取り逃がしたと思う周瑜は京を訪ねて孫権に会い、こう言った。


「今、曹操は敗れたばかりで、憂いが腹心にありましょう」


 曹操は赤壁の敗戦によって威望が損なわれたため、中原の人の中に敗戦に乗じて謀反する者がいるのではないかと憂いているということである。


「そのため将軍と兵を連ねて交戦しようとはしないでしょう。私が奮威将軍(奮威将軍・孫瑜そんゆ。孫権の弟の子)と共に進み、蜀を取って張魯ちょうろを併合し、それを機に奮威将軍を留めてその地を固守させ、馬超ばちょうと同盟し、私は還ってから将軍と共に襄陽を拠点にして曹操に迫ることを乞います。こうすれば北方を図ることができましょう」


 壮大な計画である。益州を得て、西方の馬超と同盟を組んで曹操と対峙するしかもそれを短期間のうちに成し遂げようというのである。


 ここで彼が馬超との同盟というものを計画に組み入れているところを見ると彼は馬超が曹操と対立するということをわかっていたのだろうか。それともそうなると予想していたのか。どちらのだろうか?


 ともかく孫権はこれに同意した。周瑜ほどの男ならばできるという思いがあったのかもしれない。


 周瑜は受け入れられたことに喜びながら出征の準備をするために江陵に還ろうとした。しかしその道中で病に倒れて重症になった。


 もはや立ち上がることは無いだろうと思った周瑜は孫権に牋(信書。上書)を送った。


「命の長短は天命であるため、誠に惜しむには足りません。ただ微志をまだ展開できず、教命(孫権の命令)を奉じられなくなったことを恨むだけでございます。今は曹操が北におり、辺界が静かになっていません。また、劉備が寄寓しているのは、虎を養っているようなものです。天下の事はまだ結末が分からず、これは朝士が食事を遅らせてでも職務に励む時であり、至尊(孫権)が絶えず思慮する時でもあります。魯粛ろしゅくは忠烈で、事に臨んで疎かにしないため、私に代わることができます。もし進言が採用されるなら、私は死んでも不朽です」


 周瑜は巴丘で死んだ。享年・三十六歳という若さであった。


 赤壁の戦いで曹操に勝利するために天が孫権に与えた人であり、その役割を果たした後はさっさと天は彼の命を刈り取ってしまった。


 孫権は周瑜の死を聞いて哀慟し、こう言った。


「公瑾(周瑜の字)には王佐の資(帝王を輔佐する資質、才能)があった。今、突然短命で死んだが、それでは私は何に頼れば良いのか」


 孫権は自ら蕪湖で周瑜の霊柩を迎えた。


 周瑜には一女と二男がおり、孫権は長子・孫登そんとうに周瑜の娘を娶らせ、周瑜の息子・周循しゅうじゅんを騎都尉に任命して孫権の娘を娶らせ、周胤しゅういんを興業都尉に任命して宗女(宗族の女性、孫魯班そんろはん)を娶らせた。しかしながらどの子も短命であった。


 以前、周瑜が孫策に会って友人になったので、太夫人(呉夫人。孫権の母)は孫権に命じて兄として周瑜を敬わせていた。当時、孫権の位は将軍に過ぎなかったので、諸将や賓客が行う礼はまだ簡単であったが、周瑜だけは率先して敬を尽くし、臣節(臣下としての礼節)を持って孫権に仕えた。


 また、赤壁の戦いの際に一緒に組んだ程普’ていふ)は周瑜より年がかなり上だったため、以前はしばしば周瑜を陵侮(侮って虐げること)していた。しかし周瑜は節を曲げて程普の下になり、最後まで反発しなかった。


 後に程普は自ら敬服して親重し、人にこう告げたという。


「周公瑾と交わるのは、美酒を飲むようなもので、知らないうちに自ら酔ってしまう」


 周瑜は風采、人格、才覚、実力、全てを併せ持つ非の打ち所の無い人であったが、ただ短命であった。悲しいことである。



次回も劉備と孫権サイドの話。

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