表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志  作者: 大田牛二
第四章 天下の命運
168/372

荊州南部攻略戦

 周瑜しゅうゆは江陵の曹仁そうじんを攻めるのと合わせ、十二月、孫権そんけんは自ら合肥を包囲した。また、張昭ちょうしょうを派遣して九江の当塗も攻撃させた。


 孫権側の大攻勢に対して、曹操そうそう側は危機的な状況であった。特に合肥城の城主である陽州刺史・劉馥りゅうふくが病死しており、城主不在、陽州刺史不在という状況であった。


 曹操は現在、帰還途中で満足いく指示を出すことのできない状況で明らかに孫権側の大攻勢に耐えるのは難しいと思われた。しかし、現実は周瑜の軍も孫権の軍も大苦戦し、張昭は早々に撤退するという状況であった。


 一方、劉備りゅうびは周瑜の許可を得て、南郡から素早く行動に移していた。簡雍かんよう麋竺びじく孫乾そんけんを荊州南部の四郡へ派遣し、諸葛亮しょかつりょうの進言により、上表を行い、劉琦りゅうきを荊州刺史に任命し、自分がそれを補佐するという形を取った。


「名分は大事です」


 諸葛亮は劉備に対してそう言う。こういう回りくどい部分が諸葛亮が関羽かんうに嫌われているのだろう。関羽は劉備のやることは正義であるという考えを持っているところがある。そのため下手な飾り付けは劉備の志を歪めさせてしまうと思っている。


 しかし諸葛亮からすれば、劉備の志はそのような高尚的なものではないと考えている。二人の相性の悪さは劉備の本質を自分の方が知っているという部分もある。


 兵を率いて南下させた劉備は一気に荊州南部四郡を攻略していくことにした。まず、武陵太守・金旋きんせんを降伏させた。金旋の字は元機といい、京兆の人である。黄門郎と漢陽太守を歴任し、朝廷に召されて議郎になり、後に中郎将に遷って武陵太守を兼任することになった人物である。


 この後、金旋がどうなったのかは不明で、劉備と戦って戦死したという説もある。因みに彼の子は金禕きんいという。


 次に劉備は長沙へ向かった。すると長沙に派遣していた麋竺がやってきた。


「長沙太守・韓玄かんげん殿より書簡を預かりました」


 麋竺が持ってきた書簡の内容はこうであった。現在、長沙は韓玄と対立している勢力がいるらしく、その勢力を駆逐してくれるのであれば、投降するというのである。


「どうするべきか?」


 劉備からすれば韓玄と手を結んでも、その対立する勢力と手を結んでも良い立場にある。


「韓玄と組むべきです」


 諸葛亮はそう進言した。諸葛亮は長沙の城を被害が少ない状況で手に入れたいと思っている。それならば別勢力を制圧した方が良いと考えたのである。


「それでその別勢力とは何者かな?」


劉磐りゅうばんです」


「劉表の従子ですね」


 諸葛亮はそう補足する。


「ふむ……」


 劉磐は曹操が荊州制圧した後、曹操と対立して従わず、盗賊まがいのことをしていた。それにより曹操から派遣されていた韓玄に対して対立していたのである。


「彼のことをよく知る者が韓玄の配下にいるそうです。その配下は実力のある方で、我々と組むべきと韓玄に主張されていたそうです」


「ほう、その人にも会ってみたいなあ。韓玄と組むことにしよう」


 劉備がそう決めると再び麋竺が韓玄の元に趣き、戻ってくると少数の兵と共に韓玄の配下らしく男がやってきた。


「私は黄忠こうちゅう、字は漢升と申します。劉表殿の元では中郎将に任命されておりました」


 白く長い髭が目立つものの、眼光の鋭い男である。彼は劉表に仕え、以前は劉磐と共に長沙を守っていた人物である。曹操が荊州を制圧した際に韓玄の元に配下として置かれたため、韓玄の配下となっている。


 同僚であった劉磐とは距離を起き、韓玄側についているのは彼が民衆のことを優先して考えているためである。


「現在、劉磐が要しているのは数千程度の兵です。ですが、その配下に猛将というべき男がおり、その男の強さが中々に厄介で討伐に苦慮しております」


「その男とは?」


魏延ぎえん、字は文長という男です」


 黄忠の言葉になるほどと劉備は頷きながら彼と共に劉磐の討伐へ向かった。


 そのことを知った劉磐に魏延が進言した。


「劉備様は劉表様の長子である劉琦様を補佐されている方です。その方と対立するべきではありません」


 魏延は曹操に従いたくないからこそ韓玄と対立する劉磐に組みしたのである。しかし劉磐は劉備を信用せず、劉備と対立する道を選んだ。


 劉磐はこの進言を受けて、魏延を先陣から外し、劉備軍と激突した。


 劉備軍の先陣を務めるのは張飛ちょうひである。剛力をもって大きな矛を振るっていく。それによって劉磐の軍は蹴散らされていく。


 そこに後陣に配置されていた魏延は部隊を率いて張飛の部隊へ横槍を入れた。それにより張飛の部隊の勢いが弱まる。


「いいところで横槍を入れてきたね」


 後方で眺めている劉備がそう呟く。


「最初から先陣だったら厄介だったかもしれないけど、まあこの戦は勝ったね」


 劉備は視線を別の場所に向けると密かに後方に周り、劉磐の本陣に襲いかかる黄忠の軍を見る。そのまま黄忠が劉磐を打ち取り、勝敗は決した。


 魏延は降伏した。そんな彼を劉備は縄から解くとそのまま将の一員として配下に加えた。


「私は教養がなく、大した身分のものでもなく、敗軍の将に過ぎません」


 魏延が困惑しながら言うと劉備は首を振る。


「そんなものに興味は無い。ただただ君に興味があるだけだよ」


 ただそれだけを言って、劉備は魏延を共に加えて次へ向かった。


 桂陽には趙雲ちょううんを先行させ、向かわせた。桂陽太守・趙範ちょうはんは趙雲の到来を知ると城に招く使者を送ってきた。


「罠では?」


 趙雲の副官の陳到ちんとうがそう言うが、趙雲は、


「彼にそんな度胸はあるまい」


 と言って迷いなく城の中に入ってきた。


 趙範は趙雲に降伏する旨を伝えると共に趙雲に亡き兄の嫁であった樊氏を趙雲の妻にしないかと言ってきた。しかし趙雲はそれを断り、城から戻って趙範の降伏を劉備に伝えた。


「嫁にすれば良かったのに」


 劉備は趙雲から聞いた話ににこやかに言った。すると趙雲はこう答えた。


「趙範は追い詰められて降ったに過ぎません。彼の心は知れたものではありません。それに天下にはまだまだ女性は多くおりましょう」


 劉備は笑って頷いた。


 次の零陵は太守である劉度りゅうどが早々に投降したため、難なく制圧することに成功した。


 また、廬江の賊であった雷緒らいしょが劉備に従えたい旨を伝えてきた。雷緒は曹操が劉馥を揚州刺史にした時、劉馥に帰順した人物である。劉馥が病死した途端これであるため信用のおける男ではなかったが、


「兵数の補充には良いでしょう」


 諸葛亮がそういったため、彼の兵を受け入れた。


 こうして荊州南部四郡を平定した劉備は諸葛亮を軍師中郎将に任命し、零陵、桂陽、長沙の三郡を監督させた。三郡の賦税を徴収して軍実(軍事物資)を充たした。


 偏将軍・趙雲に桂陽太守を兼任させた、


 周瑜が許したのは劉備ができることなどたかがしれていると思っていたためである。しかしこの好機を利用して劉備は曹仁に苦戦する周瑜を尻目にあっという間に荊州南部を制圧してしまった。


 劉備の率いる組織が成熟し人材が揃い始めていることがよくわかる状況であると言えるだろう。このように好調な劉備に対し、孫権側は大苦戦しているのである。




次回は合肥戦

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ