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三国志  作者: 大田牛二
第四章 天下の命運
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官渡の戦い

 曹操そうそう袁紹えんしょうが対峙して月日が経った。最近の戦いで曹操は袁紹の将を斬ったものの、兵の数は少なく、食糧も尽き、士卒は疲弊窮乏していた。


 曹操が物資を輸送する者に会った時、彼らを慰撫し、


「あと十五日で汝らのために袁紹を破ろう。これ以上、汝らを労すことはない」


 と言った。しかしながら今だ打開策は見えなかった。


 十月、袁紹は再び車を使って穀物を運び、その将・淳于瓊じゅんうけい、督将・眭元進すいげんしん、騎督・韓莒子かんきゅうし呂威璜りょいおう趙叡ちょうえいの五人に一万余人の兵を率いて護送させた。袁紹の営から北四十里の地に留まった。


 沮授そじゅが袁紹に言った。


蒋奇しょうきを派遣し、別れて外で別部隊にすることで、曹操の襲撃に備えるべきです」


 しかし袁紹は従わなかった。


 また、許攸きょゆうも袁紹に進言した。


「曹操の兵は少なく、しかも全軍が我々を拒んでいるため、許は残った者だけで守っており、間違いなく空弱になっています。もし兵を分けて軽軍を派遣し、夜間も急行して襲撃すれば、許を抜くことができましょう。許を抜けば、天子を奉迎して曹操を討ちます。そうすれば曹操を虜にできます。もし潰滅できないとしても、曹操を許と官渡の両面で奔走させることになるため、必ずこれを破ることができます」


 危険であるが、曹操を追い詰める策としては良い策である。しかし袁紹は同意せず、こう言った。


「私は先に曹操を取らなければならない」


 袁紹が望んでいたのは目の前の曹操を圧倒的に破ることであった。許攸は自分の策に従わないことに怒りを抱いた。


 ちょうどこの頃、許攸の家の者が法を犯したため、審配しんぱいが逮捕して獄に繋げた。本来であれば、そこまで問題のある行動ではなかったが、行った時が悪かった。


 許攸は先ほどの進言を受けいられず、今回のことで怒りを覚え、曹操に奔った。


 許攸が来たと聞いた曹操は裸足で出迎え、手を叩いて笑いながら言った。


「子遠よ、あなたが来たのだから私の事は成功した」


 と言った。


 許攸が入室して席に座り、曹操に問うた。


「袁氏の軍は盛んです。どのように対するつもりでしょうか。今はどれだけの食糧がありますか?」


「まだ一年は支えることができる」


「それほど多くは無いはずです。本当のことを言ってください」


「半年は支えることができる」


「あなたは袁氏を破りたくないのですか。なぜ真実をお話なさらないのですか?」


「今までの言は戯れただけだ。実際は一カ月を支えられるだけだ。如何するべきだろうか?」


 やっと本来のことを言ったと思った許攸は言った。


「あなたは孤軍で独守し、外には救援が無く、糧穀も既に尽きました。これは危急の時です。しかし袁氏の輜重万余乗が故市、烏巣におり、駐留軍には厳しい備えがありません。今もしも軽兵でこれを襲い、不意を突いてその地に至り、物資の蓄えを焼くことができれば、三日も過ぎずに袁氏は自ら敗れることでしょう」


 曹操はこの言葉に大いに喜んだ。


 曹操の左右の者は猜疑したが、荀攸じゅうゆう賈詡かくは淳于瓊らを撃つように勧めた。


 そこで曹操は曹洪そうこう、荀攸を留めて営を守らせ、精鋭の歩騎五千人を選んで自ら指揮して鳥巣に向かうことにした。皆、袁軍の旗幟を使い、枚(声を出さないために銜える木片)を銜えて馬の口を縛り、夜の間に間道から出た。


 一人一人、束ねた薪を抱えており、道中で誰かに質問されたらこう答えた。


「袁公が曹操に後軍を襲撃されることを恐れたので、兵を派遣して備えを増やしたのです」


 質問した者はこれを信じて皆、平然としたという。


 曹操は営地に到ると、周りを囲んで大いに火を放った。営中が驚いて混乱した。


 ちょうどこの時、夜が明け、淳于瓊らは外を望んで、曹操の兵が少ないのを見ると陣門の外に打って出た。そこを曹操が急撃すると、淳于瓊は退却して営を守った。


 曹操がこれを攻撃する中、淳于瓊は援軍を袁紹に求めた。


 袁紹は曹操による淳于瓊襲撃の情報を聞くと長子の袁譚えんたんに言った。


「たとえ曹操が淳于瓊を破ったとしても、私が彼の営を攻めて抜けば、彼は帰る所がなくなる」


 袁紹は将・高覧こうらん張郃ちょうこうらに曹操の本陣を攻撃させるように命じた。しかしそれに張郃が言った。


「曹操は精兵を率いて向かったため、必ずや淳于瓊らを破ることができましょう。淳于瓊らが破れれば、事が去ってしまいます。先に救いに行くことを請います」


 袁紹の考えの通り本陣を攻め落とすと言っても曹操の本陣は固く守られているはずである。攻略するよりも早く鳥巣の方が先に陥落してしまう。そうなっては敗北は確実になってしまう。


 しかし郭図かくとは曹操の本営を攻めることを強く請うた。無論、張郃は反対した。


「曹公の営は固く、これを攻めても必ず抜くことはできるとは言えません。もし淳于瓊らが捕えられたら、我々もことごとく虜になってしまいます」


 そもそも袁紹の方が兵数が多く、曹操のような冒険をする必要性が本来無いのである。曹操は鳥巣を落とせなければ敗北しかなく、こちらは守れば勝利は容易なのである。


 しかし袁紹は決断ができず、それどころか中途半端に軽騎を送って淳于瓊を助け、重兵には曹操の営を攻めさせるという悪手を行ってしまった。


 袁紹の騎兵が烏巣に到ると曹操の左右の者が言った。


「賊騎がしだいに近づいています。兵を分けて拒むことを請います」


 曹操が怒って言った。


「賊が背後に来たら報告せよ」


 曹操は鳥巣を落とせなければ負けるのである。ここで兵の分散など行えば、落とすことはできない。


 この時の曹操軍は袁紹軍が迫っているため、背水の陣となった。そのため士卒は皆、命を捨てて戦い、ついに鳥巣の軍を大破した。督将・眭元進、騎督・韓莒子、呂威璜、趙叡らの首を斬り、全ての糧穀・宝貨を焼きはらった。


 淳于瓊は鼻を切られたが、まだ死ななかった。


 曹操軍は士卒千余人を殺して全ての鼻を切り、牛馬は唇舌を割き、それらを袁紹軍に示した。


 袁紹軍の将士は皆、恐怖した。


 夜に淳于瓊を捕えた者がおり、彼を連れて曹操を訪ねた。


 曹操と淳于瓊は以前、同僚だったこともあり、曹操は彼を哀れに思いながら言った。


「どうしてこのようになったのだ?」


 すると淳于瓊は言った。


「勝負は天にあるものだ。何故質問するのか?」


 曹操は心中で殺したくないと思ったが、許攸が、


「明朝、鏡に顔を映して鼻がない自分の顔を見れば、ますますあなたへの怨みを忘れられなくなります」


 と言ったため、殺した。


 郭図は自分の計が失敗したことに恥じ入り、張郃を讒言した。


「張郃は軍が敗れたことを喜んでいます」


 これを知った張郃は激怒した。


「こんな時に仲間を陥れようとするとはどういうことか」


 それを許容してきたのが袁紹であると思った張郃は高覧と共に攻具(攻城の兵器、道具)を焼いて曹操の営を訪ねて降伏を申し入れた。


 曹洪は疑って受け入れようとしなかったが、荀攸は、


「張郃は計画が用いられず、怒って来奔したのです。あなたは何を疑うのですか」


 と言ったため、投降を受け入れた。


 袁紹軍は鳥巣の陥落、鼻切り、張郃らの降伏と度重なる悲報に混乱し、ついに大崩壊した。袁紹および袁譚らは頭巾を被って馬に乗り、軍を棄てて八百騎と共に渡河した。


 曹操は袁紹を追撃して追いつけなかったが、輜重、図書、珍宝を全て回収した。


 兵で曹操に降った者は、曹操によって全て生埋めにされた。前後して殺された者は七万余人に上ったという。


 こうして不利な状況でありながら曹操は袁紹に勝利することができたのであった。





次回は戦いの後の色んな人の運命について。

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