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三国志  作者: 大田牛二
第四章 天下の命運
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小覇王の死

四月からは自分が社会人になる関係でもしかすれば毎日更新はできなくなるかもしれません。それでも頑張っていこうと思います。

 広陵太守・陳登ちんとうが射陽を治めていた。


 孫策そんさくが西征して黄祖を撃つと陳登は秘かに密使を派遣し、印綬を厳白虎の余党に与えて誘い、従兄弟の陳瑀が破られた恥辱に報いるため、孫策の後ろで害を為そうと図った。


 そのことを知った孫策は引き還して陳登を攻め、孫策軍は丹徒に到って食糧の輸送を待った後、陳登のいる匡奇(地名)で包囲した瞬間に陳登は出撃して奇襲を仕掛けたことで孫策軍は逃走し、追撃をかけた陳登軍は一万の兵を斬ったという。


 しかし孫策はすぐに軍を再編成してまとめると再び陳登を攻めた。


 そのため陳登は陳矯ちんきょうに命じて曹操そうそうに救援を求めさせた。


 陳矯は徐州の人で、戦乱を避けて江東に逃げてきた人である。性格は誠実であったとされ、袁術、孫策からも招聘されたが断り続け、陳登に招聘されて初めて仕えた人である。


 彼は曹操に会うと曹操は彼のことを気に入り、正式に自分に仕えないかと言うと、陳矯は陳登が苦難にあるときにそんなことはできないと断っている。誠実な人とはこういう人のことを言うのであろう。


 援軍を要請した陳登であったが、彼は秘かに城から十里離れた場所で軍を治めると多くの柴薪を集めさせ、二束で一つのまとまりとし、それぞれ十歩離れさせると縦横に並んで行列を作り、夜になって一斉に火をつけさせた。


 火が聚(この「聚」は柴薪を集めてまとめたもの)を燃やすと、城壁の上で慶賀を称えて大軍が到着したようにした。孫策は火を眺め見て、驚いて潰滅した。陳登は兵を整えて奔走する敵を追い、また、一万級を斬首してみせた。


「援軍は必要なかったか」


 陳登はそう呟いた。


「くそっ」


 北上しようとしたにも関わらず、二度に渡って同じ相手に負けたのは孫策にとって初めてである。


「次こそは勝ってみせる」


 孫策はそう誓ったがその次は訪れなかった。


 以前、呉郡太守・許貢きょこう献帝けんていに上表した。


「孫策は驍雄で、項籍と相い似ているため、貴寵を加えて京邑に召還するべきです。もし詔を被れば、還らざるをえません。もしも外に放っておけば、必ず世患(世の禍患)となります」


 孫策の候吏(奸盗を取り締まったり賓客を送迎する地方の官員。または駅吏)が許貢の表を得て孫策に示した。


 孫策は許貢に会見を求めて譴責すると許貢は、


「上表はしていない」


 と言い訳したため、孫策はすぐに武士に命じて彼を絞殺した。


 許貢の小子と奴客(家奴・門客)は逃亡して江辺に隠れ、民間に潜んで許貢の讎に報いる機会を探した。その機会を探していくうちにある男が彼らに接触してきた。その男は于吉うきつと名乗り。


「実は孫策の趣味は狩猟でしてね」


 孫策が狩猟を好み、歩騎を率いてしばしば外出していた。鹿を逐って駆け馳せると、孫策が乗る馬が精駿だったため、従騎は全く追いつけなかったことが多々あることを伝え、彼らに計画を話した。


「何故、お力をお貸し下さるのですか?」


 彼らが彼に問いかけると于吉はこう答えた。


「ふふ、困っている方を助けるのが性分なだけですよ」


 彼はそう笑いながら孫策が単騎で外出するであろう日を彼らに教えた。


 良く晴れた日、孫策は狩猟を行っていき、鹿を追っていくうちに突然、許貢の客三人が襲った。彼らが射た矢を孫策は振り払い、一人を矢で射殺すと更に剣を振りかぶって襲いかかる二人を孫策は剣で防ぎ、彼らを斬った。


「いやあ、お見事」


 孫策の背後から声が聞こえ、孫策が振り向いた瞬間、于吉は矢を放ち、孫策の頬を貫いた。


「いやはや、私が関わったからこうなったのか……それとも本来はこうなる運命だったのか……」


 于吉はそう呟くと何処かへと消えていった。その後、孫策を追いかけてきた騎兵が孫策の元に駆けつけてきた。


「孫策様、ひどい傷だ。早く傷を……」


「下手人はこの三人か?」


 騎兵たちは孫策の傷を抑えながら彼を運んでいった。


 彼らが駆けつけるのが早かったためか運ばれた後も意識を保っていたが、もはや助からないのは孫策自身もわかっていた。


張昭ちょうしょうらを呼べ」


 孫策はそう言って呼ばせた後、張昭らが来ると彼らに言った。


「中国は混乱しているが、呉・越の衆と三江に守られた堅固な地勢をもってすれば、成敗を観るに足りる。あなた方は善く私の弟を輔佐せよ」


 孫策が孫権そんけんを近づけて、印綬を佩させて言った。


「江東の兵をもって、両陣の間で機を決し、天下と闘争することにおいては、お前は私に及ばない。しかし賢人を挙げて能力がある者に任せ、それぞれに心を尽くさせて江東を保つことにおいては、私はお前に及ばない」


 事件の夜に至って孫策が死んだ。若干、二十六歳という若さであった。


 裴松之がこの事件を起こした許貢の賓客に対して評価を下しているため載せる。


「許貢の客は名も知られていない小人であったが、恩遇に感動して忘れることなく、義に臨んで生を忘れ、最後にはついに奮い立つことができた。古代の烈士と同等である。『詩(小雅·角弓)』はこう言っている『君子に美道があれば、小人がこれに属す』。許貢の客がそうだった」


 孫策の死後、跡を継いだ孫権は悲痛のため号泣し、政務を行おうとしなかった。


 ここまで孫権についてほとんど書かなかったため、彼の今に至るまでのことを書くことにする。


 彼の字を仲謀という。孫堅が下邳丞だった時に生まれた。四角いあごに大きな口で、目に精光があったため、孫堅はこれを特別視して、貴象(高貴な象徴)があると思った。


 孫堅が死んで孫策が江東で事を起こすと、孫権は常に兄・孫策に従い、孫策が諸郡を定めた時、孫権は十五歳で、陽羨長に任命された。


 郡が孝廉に推挙し、州が茂才に挙げ、孫権は奉義校尉を代行することになった。


 孫策が遠くにいるにも関わらず、貢物の義務を果たしたため、使者・劉琬りゅうえんを派遣して錫命(天子の詔命。恐らく賞賜)を加えた。


 この時、劉琬が人に言った。


「私が孫氏兄弟を観たところ、確かにそれぞれ才秀明達であるが、皆、天寿を全うできない。ただ中弟の孫権だけは、形貌が奇偉で骨体が普通ではなく、大貴の様相があり、最も長寿である。汝は試しに覚えておけ」


 孫権の性格は度量が広く明朗で、仁愛なうえに決断力もあり、侠を好んで士を養った。始めて名を知られた時からその名声は父兄と等しくなった。


 いつも計謀に参与しており、孫策ははなはだその才能を特別視して自分は孫権に及ばないと考えた。賓客を招いて宴会を開くたびに、孫策は常に孫権を顧みて、


「この諸君が汝の将だ」


 と言ったという。


 さて、時を今に戻す。


 泣き続ける孫権に対し、張昭が孫権に喝を入れた。


「孝廉(孫権は陽羨長になってから、郡によって孝廉に挙げられたため、「孝廉」と称された)、今は哀哭している時ですか。西周の周公が法を立てても伯禽(周公の子)はそれに従わなかったものです。周公が三年の喪の制度を作りましたが、伯禽は王命を尊重して喪を中止し、出征しました。これは父に違えたのではなく、時勢においてそうできなかったのです。ましてや今は姦悪が競って権勢を逐っており、豺狼が道に満ちています。家族に哀悼して礼制を顧みようと欲するのは、門を開いて盗人に揖礼するようなものなので、仁とみなすことはできません」


 張昭は孫権の服を換えさせると、抱えて馬に乗せ、外に出て軍中を巡視させた。


 また、張昭は僚属を率いて上は朝廷に奏表を提出し、下は属城に通知し、内外の将校にそれぞれ職務を全うさせた。


 周瑜しゅうゆが孫策の死を知ると兵を率いて巴丘から喪に赴き、そのまま呉に留まった。中護軍として張昭と共に衆事を管理した。


 この二人を中心に孫権を支える姿勢を示したことで孫策の死後の混乱は小さなものに済んだ。















「やれやれつまらないですねえ」


 于吉はこの様子に呟く。


「せっかく英雄を殺したにも関わらず、混乱が小さくて困りますなあ」


 彼は目を細める。


「まあいいでしょう。英雄を殺せた。それだけでも満足しなければならないでしょうからねぇ」


 まだまだお楽しみはこれからである。




次回は再び曹操と袁紹の話。

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