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三国志  作者: 大田牛二
第三章 弱肉強食
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多くの人材

 呂布らが処刑された頃、厩舎に近づくものがあった。


「ふふ、やっと赤兎馬を手に入れることができるぞ」


 大費たいひである。彼は曹操そうそう軍によって回収された呂布の名馬・赤兎馬を回収しに来たのである。


「やっと手に入れることができる」


 そう思いながら赤兎馬に手を伸ばした瞬間、そこに槍のような腕が彼の手を貫こうとしたため、大費は赤兎馬から離れる。


「おやおや、これはこれは女狐様ではありませんかあ」


「黙りなさい」


 笑みを浮かべながら煽った先には貂蝉ちょうせんがいた。


「何のようですかな?」


「あなたの持っている項羽の小剣を渡しなさい」


「お断りですねぇ」


 貂蝉が刃に変えて腕を振るうのを大費は避けていく。


「ちっ」


 舌打ちする彼女は腕を鞭のようにしならせ彼の首に巻きつける。


「ふん」


 それを大費は両手で掴み引きちぎる。


「女なんだから大事にしなさいよ」


「老婆でなければ考えますがね」


 二人が争っている中でふと、そこに一人の男が現れた。


「キサマら何をしているのか」


 長き髭を揺らしながら男は叫んだ。関羽かんうである。


「ちっ現の人風情が」


 大費はそう言って関羽に襲いかかった瞬間、関羽は矛を振るい、瞬く間に彼の両腕を切り落とした。


(ちぃたまにいる戦闘力の高い豪傑だったか)


 尋常ならざる武勇の持ち主であることを理解した大費は逃走を図ったが関羽はそれを許さず、背中を切りつけ、その衝撃で倒れ込んだところで大費の首を切り飛ばした。


「ふん、次は貴様だな。女と言っても容赦はせん」


 関羽は矛を貂蝉へと向ける。


「これじゃああれのありかを聞けないじゃない」


 貂蝉は舌打ちするとすううと消えていった。


「化物であったか……」


 関羽はそう呟いた後、赤兎馬を見た。


「おお、なんと勇壮であり美しい馬か」


 彼はそう呟いて赤兎馬を撫でた。


「いつの日かこのような馬に乗りたいものである」


 その後、彼は死体を部下に片付けさせた。その途中で奇妙な報告を受けた。死体の首が見つからないというのである。


「ふむ、どこかへと転がったとはいえ見つからないとはどういうことなのか……」


 関羽はそう呟きながらもやがてその死体のことは忘れていった。


「やれやれ困ったなあ」


 首だけになった大費は呟いた。


「体を生やすには流石にここから時間がかかる」


 どうにか首だけであそこから離れたが、これでは自由に動くことができない。


 するとそこにたまたま歩いている子供がいた。家族の手伝いで薪拾いに来ていたようである。


「やあ、少年」


 首だけの大費はその子供に話しかけた。


「ひっ」


 言葉のする方を向いて子供は驚く。


「何、怖くはないさ。少し手伝って欲しいことがあってねぇ。私の目を見て」


 子供がその言葉によって思わず彼の目を見ると段々と子供の目からは生気が失われていった。


「さあこちらにおいで」


 その言葉に従うように子供は彼の元へ近づく。


「そのまま私をもってね」


 子供は首を持つ。


「そうそうそのまま近づけていってね」


 すると大費の首は段々と薄くなっていき、子供へと吸い込まれいくように消えていった。


「さて、子供の体とはいえ、四肢を失っているよりはましだね」


 子供とは思えない言動が子供の口から発せられる。


「この子の名前はあるのかな……おっちゃんとあるね。先祖は貴族かな?」


 そう言いながら彼は取り込んだ子供の記録を探る。


馬忠ばちゅうか。良い名だね。じゃあこれから私は馬忠と名乗ることにしよう」


 子供……その体を則った大費改め馬忠は微笑んだ。


 やがて彼は子供の家族の元へ合流し、南の方角へと居を移すことになる。









 呂布の元には多くの人材がいた。曹操は彼らを用いることにした。


 陳寔ちんしょくの息子でかつての尚書令・陳紀ちんきと陳紀の息子・陳羣ちんぐんが呂布の軍中にいたため、曹操そうそうはどちらも礼遇して用いた。


 因みにこの一族にはこのような逸話がある。陳紀の息子である陳羣と陳紀の弟である陳諶ちんじんの息子である陳忠ちんちゅうがどちらの父の方が優れているかを激論したが、決着がつかなかったため陳寔に意見を求めた。すると陳寔はこう答えた。


「元方(陳紀の字)ほどの兄はいないし、季方(陳諶の字)ほどの弟もいない」


 感嘆に値する答えとはこのことである。


 呂布の配下でもっとも名将といって良かった高順は呂布に殉じてしまったが、張遼ちょうりょうはその兵を率いて投降してきた。張遼の活躍に関して曹操は知っていたため彼を受け入れ、中郎将に任命した。


 呂布に協力していた臧霸ぞうはは逃亡して隠れていたが、曹操が広く求めて探し出してみせた。


「私はあなたを処罰したいわけではありません」


 曹操はそう言って、臧霸に呉敦ごとん尹礼いんれい孫観そんかんらを招くように願った。臧霸は曹操の言動に嘘を感じなかったため、これを引き受けた。結果、皆、曹操を訪ねて投降した。


 曹操は彼らを受け入れて厚遇し、琅邪と東海を分けて城陽、利城、昌慮の三郡を置き、臧霸らをその守相に任命した。


 以前、曹操が兗州に居た時、徐翕じょきゅう毛暉もうこんを将にしたが、張邈が叛乱を起こすと徐翕も毛暉も曹操に叛した。


 しかし兗州が平定されたため、徐翕と毛暉は亡命して臧霸に投じていた。曹操は劉備りゅうびにこれを語り、劉備を送って臧霸に二人の首を送るように伝えさせた。しかし臧霸は劉備にこう言った。


「私が自立できたのは、そのような事(亡命した者の首を斬るようなこと)をしなかったからです。私は主公の生全の恩(命を助けられた恩)を受けましたので、敢えて命に違えることはできません。しかし王覇の主君に対しては、義を語ることができるものです。将軍がこの件のために弁明することを願います」


 劉備が臧霸の言を曹操に報告すると、曹操は嘆息して臧霸に、


「これは古人の事(古の賢人の行為)であるが、君はそれを行えた。私の願うところだ」


 と言い、徐翕と毛暉も許し、二人を郡守にした。


 曹操が兗州牧になった時、東平の人・畢諶ひつじんを別駕にした。張邈が叛した時、張邈は畢諶の母、弟、妻子を人質にした。そのことを知った曹操は畢諶に別れを告げ、


「汝の老母は彼の地にいる。去ってもよい」


 と言って送り出そうとした。しかし畢諶は頓首して二心がないことを示した。曹操はこれを喜び、涙を流した。ところが畢諶は退出すると逃亡して張邈に帰順してしまった。曹操の前で否定しなければ殺されると思ったために嘘をついたようである。


 呂布が破れてから、畢諶が生け捕りにされた。人々は畢諶のために懼れて心配したが、曹操は、


「人というのは、その親に対して孝である者なら、どうして君に対して忠でないことがあるだろう。畢諶のような人材は私が求めるところだ」


 と言って畢諶を魯相に任命した。魯は孔子の故郷で孝を重んじているため、魯相に任命したのであろう。


 呂布の元にいた人材たちは皆、曹操に平服していた中、一人平服せずに曹操と対等の態度を示していた者がいる。袁渙えんかんである。


 曹操は彼を含めて多くの降伏者に物資を分け与えた。この時、他の者が車一杯に物資を詰め込む中、袁渙は書籍数百巻と僅かの食料を引き取るのみに留めた。


 これらにより、袁渙は曹操から大いに尊重されるようになった。


 陳登ちんとうは曹操に協力した功によって伏波将軍が加えられた。


 呂布に曹操が勝利した中、劉表りゅうひょう袁紹えんしょうと結ぶことにした。


 治中・鄧羲とうぎが劉表を諫めると、劉表はこう言った。


「朝廷に対しては貢職(貢献。貢納)を失わず、外に対しては盟主(袁紹)に背かない。これは天下の達義(明白な道理)なだけだ。治中だけが何を疑うのか」


 盟主というのは反董卓連合時のもののはずである。天下の盟主というわけではないはずであるため、劉表の言葉は詭弁である。


 鄧羲は病と称して辞職した。


 長沙太守・張羨ちょうせんは性格が屈強(強情で人に従わないこと)であった。


 劉表が張羨を礼遇しなかったため、郡の人・桓階かんかいが張羨を説得し、長沙、零陵、桂陽三郡を挙げて劉表に対抗したうえで、使者を送って曹操に附くように勧めた。張羨はこれに従って叛乱を起こした。


 これに劉表は手を焼くことになる。





次回は孫策サイドの話。

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