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三国志  作者: 大田牛二
第三章 弱肉強食
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騎兵隊を率いし兄弟

 曹操そうそうは激闘の中にいた。


 彼は濮陽の戦いの後、呂布りょふに与する定陶へ兵を向けたが、済陰太守・呉資ごしが南城を守っており、攻略できなかった。


 度重なる敗戦、中々勝利を得ることができない状況に曹操は難しい顔をする。


「呂布がこちらに軍を向けてきました」


 その報告に諸将はざわつくただでさえ定陶を落とすこともできない中で「人中の呂布、馬中の赤兎」とまで言われた呂布が率いる軍と戦わなければならなのである。


「いやあ、そんなに呂布というのは強いのですか兄上」


 その中で明るく兄・曹仁そうじんに話しかけた若い男がいる。年齢はまだ二十ちょっとという男である。彼の名は曹純そうじゅんという。曹仁の弟である。


 彼は曹仁が家を自分に押し付けて出て行った後、曹操の元に行ったことを知った。それに影響されて家の財産を持って曹操の元にやってきたのである。


 ちょうど三城しか無くなっていた時の帰順であったため、曹操は自分の状況をしっかりと話した上で帰順しても良いのかを聞いた。


「田単はこれよりも悪い状況でも勝てたのです。まあなんとかなりましょう」


 そう言って彼は曹操の元に居付いた。また、彼は家の財産で自分の私兵に武器や俊馬を揃えて与えて騎兵隊を作っていた。そのため曹操は彼にそのままその騎兵隊を任せることにした。


 曹操旗下の諸将の中で呂布と戦ったことが無い将であるためか彼は呂布の強さをそこまで感じていない。


「呂布は強い」


 曹仁は断言するが、曹純という男は若さ故の怖いもの知らずさを持っている。


「まさかあ、項羽よりも強くは無いでしょう。なら大丈夫ですよ」


 彼の言葉に諸将は若さ故の怖いもの知らずさに笑う。


(私が暗くなっていては勝てるものも勝てないな)


 曹純の無鉄砲にも似た明るさを感じた曹操は弱気になっている自分を恥じた。


「曹仁、曹純。お前たち騎兵隊の働きが重要だ。期待しているぞ」


「はっ」


「はい」


 二人は敬礼を持って答える。


(呂布に比べれば、私は弱いかもしれない。だがらこそ気持ちで負けてなるものか)


 曹操は己の弱さを叱咤し、呂布軍とぶつかった。


「いつもよりも手ごわい……」


 呂布軍配下・張遼ちょうりょうはそう感じた。実は、彼はこの出兵をやめるように呂布に進言を行っていた。


 前年の蝗被害により、兗州全域は酷い被害を受けた。それにより呂布軍の食料の確保及び維持が難しくなっていた。


 しかもこちらは城攻めで疲労している状況にも関わらずである。更に兗州全体の内政における最高責任者は荀彧じゅんいくであり、その彼は曹操の元にいる。度重なる徐州討伐を可能にしていたのは彼であり、その内政における最高責任者が不在かつ彼の内政手腕に及ばない者ばかりの呂布軍では、その蝗被害の解決手段に乏しく、被害を受けた人々の恨みは兗州全域を現在所持している呂布へと向けられている。


 曹操は三つの城しか要していないという絶望的な状況であったが、蝗被害への恨みを向けられなかったという幸運に恵まれていた。


 この状況で兵士たちの士気も上がらず、食料の備蓄も心もとない。しかしながら食料の備蓄が心もとないのは曹操も同じである。城攻めを行っても成果を出せていないのがその証拠である。


「城がすぐに陥落することがありません。城攻めで疲労させれば良いのです。わざわざあなた様自ら行かれることはありません」


 普段であれば、張遼はこういう進言を行わない人である。呂布軍の中で張遼は呂布の信頼を勝ち得ていないため、あまり上位の将軍として扱われない身として他の諸将を超えての発言を好まなかったのである。


 だが、張遼の進言は受け入れられなかった。


 呂布は曹操になんぞ負けることは無いと思い込んでしまっている。


 だが、今回の曹操軍に呂布軍は苦戦を強いられている。


「いくぞ」


 呂布は精兵を率いて、自ら曹操軍へと突撃をかけた。


「あれが呂布と赤兎馬かあ」


 手をかざしながら曹純は赤兎馬に乗って突撃をかけてくる呂布を見る。


「あの赤兎馬って金額にするとどんぐらいかな。国一つ買えるのかな?」


 呑気にそう呟きながら自身の騎兵隊を前進させ、果敢にも呂布軍へと挑んだ。


「ほう、真正面から挑むか愚かな」


 呂布は矛を前方の曹純へと振り下ろす。


 それを曹純は馬と共に地面すれすれまで体を傾けてそれを避ける。更に剣で赤兎馬の足を狙う。呂布とて馬術に優れた男、赤兎馬の体を上へと上げ、それを避ける。


「貴様、蛮族出身か」


「いや、違うよ。でも、いいお客さん相手の侮辱はいけないねぇ」


 曹純は若さ故の怖いもの知らずさと馬術の才能が奇跡的な融合を果たした男である。そのため北方異民族のような馬術を土壇場で見せてみせるのである。


 その曹純とその騎兵隊は呂布の騎兵隊から離れる。その後方に曹純はわざわざゆっくりと走り、まるで踊るように馬を操り、手招きした。


 呂布はこれに激怒し、曹純の騎兵隊へと軍を向け、方向転換したところで、


「かかれぇ」


 曹仁率いる騎兵隊が呂布の騎兵隊の横っ腹へと突撃を仕掛けた。それにより呂布の騎兵隊は分断されてしまった。


「くそが」


 呂布は曹仁へと向かおうとする。


「こっちにもいるんだよ」


 すると曹純が後ろからちょっかいをかけてくる。


「くっ」


 だからといって曹純の方を追いかけようとすれば、曹仁が邪魔をし、曹仁へ向かおうとすると曹純が邪魔をする。


「将軍っ」


 そこに張遼、高順こうじゅんが救援に駆けつける。


「今だ」


 呂布を助けようとして、陣が乱れた隙に曹操は全軍を前進させた。


「ここで呂布を殺す」


 曹操は一気に呂布軍を包囲しようとする。


「このままでは包囲されてしまう……」


 張遼は高順を見る。高順は頷く。


「将軍を救うためにも皆、一致団結して突撃を仕掛ける」


 包囲される前に張遼と高順は呂布を連れて、一点集中の突撃を仕掛け、見事包囲から脱出してみせた。


「呂布を仕留めることはできなかったか」


 だが、久しぶりの勝利であった。


「いやあ呂布なんて大したことありませんな」


「調子に乗るな」


 曹純の言葉に曹仁は呆れる。


「はいはい兄上」


 曹純は拳を曹仁に向ける。


「まあよくやった」


 曹仁はその拳に自分の拳を当てた。この兄弟が曹操軍においての騎兵隊を率いる双璧となる。特に曹純は曹操軍の精兵中の精兵で構成されることになる黒豹騎を率いることになるのである。


 曹操軍はこの久しぶりの勝利に沸いた。そして、ここから曹操軍の逆襲が始まるのである。



ボツ案、馬に乗ると性格が変わる曹純さん。

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