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年末年始は妹と  作者: 雪竹葵
第2章 元日
7/10

7. 初詣へ

「今日も寒すぎる…」

 昨日に引き続き、今日もかなり冷え込んでいた。今日の予想最高気温は確認していないが、おそらく昨日と同じくらいかもっと低いくらいだろう。

 それなのに、昨日と同じくダウンジャケットにマフラーという格好で出てきた俺はかなり(おろ)かだ。

「そんなに寒いなら私がお兄ちゃんに抱きつこうか?」

「それは結構です…」

 そんなことされたら心臓の拍動の回数が増して血流が速くなり、暑くなりすぎてしまうだろう。

 ありがたい提案だが、ここで俺が倒れてしまっては折角初詣(はつもうで)に来たのに台無しになるから我慢しなければならない。

「なあ、甘酒貰いに行っても良いか?」

「お参りする前に甘酒飲もうとしてるとか、どんだけ寒いのさ」

 知咲(ちさ)はクスリと笑ってそんなことを言う。

「寒いなら私が温めてあげるって言ってるのにさ~」

「いや、だからそれは」

「えいっ」

 俺が言葉を言い終えるより先に、知咲は背後から俺に抱きつく。

 知咲の体温がダウンジャケット越しに伝わってくる。同時に、俺の心臓の活動がより活発になる。

 嬉しいやら恥ずかしいやらでもう訳がわからない。

 できることならずっとこのまま抱きつかれていたいが、俺の身が持たなさそうだ。

「甘酒貰いに行くぞ」

 あまりにも恥ずかしいため、知咲から無理矢理逃れて甘酒が配られている場所へと向かう。

「お兄ちゃん、待ってよ~」

 後ろからそんな声が聞こえたが、特に気に()めることも無く、甘酒を小母さんから受け取る。遅れて知咲も甘酒を受け取った。

 近くのベンチに腰掛けて、甘酒を飲む。あったかくて、体の(しん)から温まる。

「ひどいよ、お兄ちゃん」

 頬を膨らませながら知咲はそんなことを言う。その顔もかなり可愛い。

「折角、私がお兄ちゃんを温めてたのに~」

「他の人も居るんだから恥ずかしいだろ」

「別に私は気にしないよ?」

 俺が気にするんだよ。

「お兄ちゃんにとっても可愛い妹に抱きつかれるのは嬉しいでしょ?」

 嬉しくても恥ずかしさの方が問題なんだよ。

「何も言わないってことはそうなんだ」

 何故か知咲はかなり嬉しそうだ。可愛い。

 甘酒を飲みながら知咲と話していると、というか実際には困ることばかり言われて俺はほとんど無視していたのだが、甘酒を飲み終えたので、俺は

参拝(さんぱい)するぞ」

 と言ってベンチから立ち上がる。

 知咲は「うん!」と元気良く返事をする。

 普段のように知咲は元気だ。無邪気(むじゃき)で明るく、優しい俺の妹だ。

 だが、俺はそんな知咲が本当の知咲なのか疑問に思えてきてしまう。昨日の夜の出来事があったからだろうか。

 妹と言えば無邪気で明るいというイメージがある。しかしそれは理想でしか無い。実際、そんな妹が存在するのかは疑問だ。

 さらに男子は優しい女子に弱い。自分の全てを受け止めてくれるという安心感があるのだろう。

 このどちらも()ね備えている知咲は素晴らしい人と言えるのかもしれない。

 ただ、あまりにも理想の妹(ぞう)に近すぎる。()でそのような性格ならば何一つ文句は無いのだが、現実に理想の性格を持ち合わせた妹が存在する確率はかなり低いはずだ。

 加えて昨夜の出来事のこともある。だから、俺には知咲が理想の妹を演じているようにしか見えない。

 果たして知咲の本性とは何なのだろうか。


 ◇ ◇ ◇


 俺たちは移動し、参拝を待つ人々の列へと並んだ。

 そして幸いにも列はそんなに長くなかったため、すぐに俺たちの番が(めぐ)ってきた。

 賽銭箱(さいせんばこ)にお賽銭を入れ、鈴を鳴らしてから二礼、二拍手、一礼をする。

 当然、二拍手をした後には願い事もしておいた。

 参拝を終えた俺たちは、次にお神籤(みくじ)を引こうとその場所へ向かう。その途中、知咲が俺に質問をしてきた。

「ねえ、お兄ちゃんはどんなお願い事をしたの?」

 その質問は来るのではないかと思っていた。昨年も一昨年も全く同じ質問をしてきたからな。

「今年も一年、平和で過ごせるようにって願った」

「何それ、普通」

 知咲は笑いながらそんなことを言う。

 悪かったな、普通で。でも世の中、意外と普通な奴が生きやすいようにできているものだぞ。

「じゃあ、知咲は何て願ったんだ?」

 何となくそんな質問を知咲に投げかける。ちなみに俺が知咲にこの手の質問をしたのは初めてだ。

「ヒ、ミ、ツ」

 知咲は口元に人差し指を当てつつそう答える。

 俺だけ答えたのは不平等な気がしたが、秘密って言ったときの知咲が可愛かったから許す。

 そうこうしているうちに、お神籤のところに到着した。

 俺が先にお神籤を引き、次いで知咲も引く。

「凶か…」

 俺が引いたお神籤にはでかでかと不吉な文字が記されていた。今年の平和を願ったのに何かありそうだ。

「私も凶だった、えへへ」

 凶を引いた割に何故か知咲は嬉しそうだ。訳がわからないよ。

「今年は何かありそうだな」

「私は受験があるから、そこで失敗したら取り返しがつかないんだけどね~」

 知咲はにこやかにそんなことを言っているが、受験って結構大事だぞ。俺なんか高校受験で第一志望に落ちたからな。まあ、第一志望とレベルがほぼ変わらない第二志望の高校に合格したからまだ良かったけれど。

「人間関係に難あり…?」

 お神籤に記された文章を細かく見ていくと、そのような一文が記されていた。人間関係も何も、俺には友達が数人しかいないから何も無さそうな気がする。

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「何だ、知咲知咲」

「名前を二回も呼ばなくて良いし」

「用件は何ですございましょうか、知咲知咲」

「むぅ」

 知咲は頬を膨らませて不機嫌そうな表情を作る。可愛すぎて思わず頬をツンツンしたくなる。しないけど。

「で、何?知咲知咲」

「…」

 知咲は頬を膨らませたまま(つい)に俺の言葉を無視しだした。

 たまには知咲をいじるのも良いかなと思ったが、思ったよりも知咲の機嫌を損ねたらしい。

「何か、ごめん」

 あまりにも申し訳なくなったので、俺は素直に謝る。

「ま、お兄ちゃんだから許す」

 知咲は(えら)そうにしつつもあっさりと許してくれた。先程までの不機嫌さは演技だったんじゃないだろうな。

「でさ、お守り欲しいんだけど、良いかな?」

「合格祈願か」

「そ。少しでも合格率を上げたいじゃん?」

 合格祈願のお守りは受験生なら必ず持っているイメージがあるよな。

「そういうことなら良いぞ」

「やった~」

 かなり知咲は喜んだようだが、その動きが今の俺にはやはり上辺(うわべ)だけのもののように感じられた。

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