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年末年始は妹と  作者: 雪竹葵
第1章 大晦日
2/10

2. 外出してから

「寒い、寒すぎる。今すぐ帰りたい」

 ダウンジャケットにマフラーという完全に防寒対策をしてきたつもりだったが、いざ外に出ると冷たい風が肌に()みてかなり寒かった。知咲の言葉に惑わされるんじゃ無かったと今更ながら後悔する。

 一方、知咲(ちさ)は鼻歌を歌いながら俺の左隣を楽しそうに歩いている。少しはそのエネルギーを俺に分けて欲しいものだ。

「ところで、出掛けるってどこに行くんだ?」

 知咲は出掛けるとは言ったものの、何処(どこ)に行くのかは俺には伝えていない。もしかすると、母さんや父さんにも伝えていないかもしれない。

 それでも気になるものは尋ねなければ解決しないので、俺は知咲に質問をしたのだった。

 知咲は鼻歌を止めて俺の質問に答える。

「あー、そういえばお兄ちゃんにはまだ言ってなかったよね」

 そう前置きをして、知咲は言葉を続ける。

「冬休み前の最後の授業の日にさ、いつも仲良くしてる友達からこれを貰ったの」

 そう言って知咲は淡いピンク色の肩掛けバッグの中から、二枚の小さめの長方形の紙を取り出した。

 そこには料金や『恋と青春』という字などが記されていた。

「これって、映画のチケットか?」

「そ。元々は友達が彼氏とクリスマスにこの映画を観るつもりだったらしいんだけどさ」

 このチケットの一枚は小学生・中学生、もう一枚には高校生・大学生と記されている。そして知咲は現在、中学三年生だから、その学校の友達も中学生のはずだ。

 とすると、導かれる結論は一つだ。

「ということは、知咲の友達の彼氏って、高校生か大学生ってことか」

「確か大学生って言ってた気がしたけど」

「今の女子中学生って大学生と付き合ったりするんだな…」

「別に私はどんな人と付き合おうとその人の勝手だと思うけどね」

 確かにその通りなのかもしれないが、年齢が離れているとどのようにして出会ったのかが気になるのは自然なことではないだろうか。

「って、その彼氏の話がしたいんじゃなくって!」

 そう言って知咲は話を元に戻す。すまん、俺が余計な詮索(せんさく)をしてしまったせいで、話を()らしてしまった。

「友達がさ、その彼氏と上手くいかなくって、最終的に別れたらしくてさ」

 そりゃ、年齢差があれば色々あるだろう。

「それで、もうこのチケットは必要ないからどうしようって悩んでたから、私が貰ったってわけ」

「で、丁度よく高校生の俺がいたから一緒に映画を観るのに誘い出したということか」

「さすがお兄ちゃん、賢い!」

 今のは流石に誰でもわかると思うぞ。

「しかし、よりによって何で今日なんだ?冬休みに入ってからすぐ俺を誘えば良かったじゃないか」

「あ、ああ、それは…」

 急に知咲の歯切れが悪くなる。どうしたというのだろう。

「ほ、本当はね?もっとね?早く誘うつもりだったんだよ?でも、少しだけ予定が(くる)ったというか、いや狂ってはいないんだけど、気付いてたら過ぎちゃってたー、みたいな?で、上映期間が今日までじゃんってなって…」

 一体誰に向かって弁明をしているんだ、コイツは。そして疑問形を多用しすぎて大変なことになってるぞ。

「つまりはチケットの存在を忘れていたと」

「な、何故わかった!?」

 大げさに驚いたような仕草をする知咲。そこら辺の女子なら大げさだな、程度にしか思わないのだが、知咲がやると可愛く見えてしまう…。もう十分、俺は病気。

「そ、そりゃ、普段から知咲を見てるんだからわかるだろ」

「普段から私のことを熱い眼差(まなざ)しで見ていたから?」

「べ、別にそこまでは言ってないし」

 俺は知咲の方から(わず)かに目を逸らす。

「でも否定はしてないじゃん」

 恥ずかしいことを言うのは止めようね、精神的に来るから。

 少しだけ知咲の表情を(うかが)うと、満更でもない表情を浮かべていた。可愛いな、もう。

「ところでお兄ちゃん」

「何だ?」

「ずっと気になってたけど、鼻水垂れてるよ」

「なっ」

 知咲の言葉は俺により追い打ちをかける。もう恥ずかしすぎて訳がわからなくなってきた。

 俺はこっそりとポケットからテッシュを取り出し、鼻をかむのだった。

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