第一話
あなたには戻りたい過去がありますか…?
「戻りたい過去はありますか?
いつ、どの時間、どの場所、なんでも構いません。
あなたの戻りたい瞬間に
1度だけ連れていって差し上げます。
ただし、その代償は…」
ジリリリリ…!
買ったばかりの目覚まし時計が
部屋中に鳴り響き目を覚ます。
どうやら、休みの日だというのに
スイッチをoffにし忘れたらしい。
「まだ、5時…」
今度こそスイッチをoffにし、再びベッドの中に潜り込む。
すると、今度は携帯電話から陽気な音楽が流れる。
こんな朝っぱらから…と、ぶつぶつ言いながら
寝起きの声で応える。
「もしもし…はい。え?…それって提出済みのはずじゃ…」
電話を終えるとかぶっていた掛け布団をはぎとり
狭い家の中をドタドタ走り身支度を始める。
急いで支度を終わらせると、車を職場へと走らせた。
職場に着き所定の位置に車を止め、
降りたところで入口から不機嫌な声が聞こえる。
「片桐-!!早くこい!!」
先ほどの電話相手であろう、その声の主は
入口前で仁王立ちで待ち構えている。
100メートルくらいの入口までの距離を全力で走り
入口に着くなり、息を切らしながら頭を下げた。
「佐久間さん、すみませんっ…!
俺、ちゃんと確認したつもりだったんですけど…」
ハァーと深いため息をつき呆れた声で話す。
「ったくお前は…いつになったらまともな
報告書が書けるようになんだよ…はぁ…」
今、追っている事件の容疑者の取り調べを終え、
捜査報告書を提出したが、どうやら上司が確認したところ
あまりにも誤りが多く再提出と判断されたらしい。
「すみません…今日中に書き直します…。にしてもこんな朝早くって事は当直だったんですか?」
「そう、当直で何事もなければ帰って
暖かい布団で寝れるはずだったんだけどなぁ。
どっかの馬鹿の再提出書類の確認っつー仕事が増えちまったよ」
「うぅ…すみません…」
片桐弥一。25歳。
20歳で警察官になり本人の希望と能力がかわれて
刑事課に配属され1年。
小さい頃に空手、合気道、おまけに剣道などしていたかいあってか、体術においては人一倍の強みがあった。
それが高じたのもあり、今現在に至る。
しかし、器用さ、繊細さという面では苦労しているようだ。
「俺は仮眠室で少し寝てくっからわかんねーことは、そこの机の
書類参考にして考えろ。ふぁ~ぁ…眠っ…」
力量は誰もが認めるほどの折り紙つきの
片桐の先輩、佐久間孝志。
昇進の話を事ある毎に断っているのは
現場の最前線にいる事に誇りを持ってるからである。
片桐が一番尊敬していて近しい先輩。
「あっ…佐久間さんっ。」
今朝の夢の奇妙な一言が頭をよぎる。
「あの…もし…過去に一度だけ戻れるとしたら…
佐久間さんはどうしますか…?」
馬鹿げた話とわかっていたが
気付いたら口に出していた。
「…んな、くだらねー事考えてる暇あんなら
とっとと、書類書き上げろ!」
当然の答えだと頭では理解していたが
この馬鹿げた話を、たかが夢だと消化できない理由が
片桐にはあった。