謎の屋敷 2
30分後――
俺は目的地と思われる場所にやって来ていた。
おそらくこの目の前の扉を開けたら、食堂なのだろう。
半ば確信してドアノブを捻る。
そうして部屋に入ると、エプロン姿のプロネアが待機していた。
フリフリのレースがたくさん付いてる、可愛いタイプのものだった。
「クトリール様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
彼女はレストランで働くウェイトレスさんみたいに、着席を勧めてくる。
ダイニングテーブルには、作りたての朝食が用意されていた。
煮込まれた肉と野菜のスープから、湯気が立っている。
けっこう手が込んでいるみたい。
他にはパンとサラダ、一品料理も数品並んでいる。
「ありがとう、へー。プロネアって、料理が上手なんだね」
「えへへ、アプリで学習済みですから。あとは洗濯や掃除、それに裁縫も。フェンネスにインストールされていたデータは、全て習得済みなんですよ」
プロネアは嬉しそうに、自慢してきた。
つまり普段の家事は、全てプロネアがやってくれるということか。
「さすが自動学習型の人工知能だね。そんなに覚えてたんだ」
「覚えていたのは以前の話ですけどね。生身の体よりも、人工知能だった頃の方が学習能力は優れてましたし。それに今は能力を制限されてしまってますから」
「えっ、制限って。もしかしてプロネア。アシストキャラとしての機能が使えなくなっちゃったの」
「そ、それは……」
プロネアは目を泳がせた。
アシストキャラの機能とは、およそ全てのシステムを使いこなせる機能のこと。
つまりインターネットの接続設定やメール、音声通信、データの整理にシステムの最適化など。
それらをユーザーの意思に沿ってアシストするのが、彼女らの役割なのだ。
これらが制限されると、どことも連絡がとれない。
「困るかも……」
「あっ、あの、でも部分的には使えるんですよ」
「元の世界と連絡は取れる?」
「それは……無理です……」
「えぇー、どうしよう……」
せめて妹に連絡が出来ればと思ったのだけど、無理らしい。
心配もしてるだろうしなぁ……
――『お兄ちゃんっ!』
この世界に来る直前、最後に聞いた言葉。
しかしその声は妹ではなく、カナちゃんだった。
カナちゃんは、一緒に異世界を探していた美幼女。
彼女にも無事を教えてあげないと。
どうにか元の世界と連絡を取れないだろうか。
「ねぇ、プロネア。アシストキャラの機能で今も使えるのって何」
「限定的なネットワークの活用だけです。あとは魔法の電子情報化でしょうか」
「魔法の電子情報化?」
「はい。魔法を電子情報として扱えるようになったんです」
それは異世界の魔力情報を読み込んで、解析したということか。
さすが世界最高峰の学習能力だな。
能力が落ちたとか言ってたけど、未だに人間離れした頭脳を持っているみたい。
「興味深いけど、それで元の世界とコンタクトが取れたりはしないんだよね」
「さすがにそこまでの応用は出来てません……」
「だよね……」
さっきも連絡は取れないって言ってたもんな。
「連絡がつかない以上、早く帰る方法を見つけるしかないか……」
「クトリール様。それでしたら、この世界のことは知っておくべきです」
「そういえば、もともとそれを聞かせてくれるっていう話だったよね」
俺はプロネアに頷いた。