ダンジョン前の広場
ダンジョンに早く入ろうと、俺は二人に催促をした。
それを受けて、クランセラが移動し始める。
「そうですわね。さっそく行ってみますの」
先陣を切る彼女に、俺たちもついて歩く。
そのときちょうどいい距離が生まれたので、プロネアに小声で話しかけた。
「ねぇ、ギルドカードの表示って改ざんできるの?」
「簡単に出来ますよ。私のネットワークから、この異世界のデータを書き換えるんです。さすがに現実のステータスを変えるような真似はできませんが、見かけ上の情報だけなら変えられるんです」
「じゃー、今すぐSランク冒険者を名乗ることもできる?」
「可能です。それどころかこの世界ではギルドも金融機関のひとつなので、ギルドカードを改ざんすればすぐにでも大金を得ることさえ出来ます」
「預金残高を1000億ヴェイトとかにもできるってこと!?」
「はい、できちゃいます」
これはすごい。
ダンジョンなんて行く必要ないだろ。
「クランセラ、ダンジョン攻略は中止な。今すぐ街へ豪遊しに行くよ!」
前を歩くクランセラを呼び止めると、プロネアにひじで突かれる。
「なっ、なんだよプロネア」
「クトリール様。確かにデータは改ざんできますけど、確実に怪しまれます。元の上位世界は法治国家として秩序のある国だったかもしれませんが、この世界は王様を頂点とした封建国家なんですよ。王族や貴族が怪しいと思っただけで、死刑にできる権力を持つことが許された世界なんです。うかつな行動は今の段階でするべきではありません。せめて領主を倒せる程度の戦力を確保してから動くべきです」
プロネアは真剣な表情で、そう忠告してきた。
でも、そこまで考えてなかったんだけど……
ただ単に、お金が自由に使えると思っただけだし。
「どうかしましたの。ダンジョン攻略は中止だとか……」
「いえいえ、クトリール様が少し怖がっていただけです。なにせ初めてですからね」
「そうでしたの。大丈夫ですわ。ダンジョンも浅い階層なら、弱いモンスターしか出てこないですし、そんなに心配しなくても平気ですの」
クランセラが俺のことを励ましてきた。
怖がってるとかプロネアの嘘だけど、クランセラの言葉は安心するかも。
年下だとしても、ちょっと甘えたくなる。
しかし、初対面の相手にそんな態度を取るわけにもいかない。
「ありがと。でも怖がってないから、気にしなくていいよ」
「そうですの。私は初めてダンジョンに入ったときは、心細かったですわ。泣きそうでしたの」
「へー、クランセラはいつから冒険者をしてるんだ」
「3年くらい前からですわ」
「そんな頃から!?」
「はいですの。何かをして稼がないと、私たちは暮らしていけませんでしたから」
クランセラって、もしかしてかなりハードな人生だったのか。
小さい頃から命がけでダンジョンに潜るなんて、どんな生活だったんだろう。
やっぱりこの世界は、きびしい世界みたい。
そんなことを話していると、そろそろダンジョンの入り口が迫ってきた。
「クトリールさん、そろそろギルドカードを用意しておいて下さいですわ。ダンジョンに入るときは、必ず入口の門番さんに見せますの」
俺はこっそりアイテムボックスから、ギルドカードを取り出す。
そうして門番のところまで行くと、先頭のクランセラが門番にカードを見せた。
それを真似してカードを見せてみる。
一瞬、門番に顔をじっと見られたが、何事もなく通れたようだ。
後ろにいたプロネアも問題なかったみたい。
彼女のカードは、データ改ざんギルドカードなのに。
ともかくこれで、ようやくダンジョンに入れるらしい。