閑話 ~周囲の反応~
side~ネイミル~
「はぁー、お茶が美味しいのー」
わしは神界の自宅の居間でお茶を飲んでいた。
なに、神様って意外とやることが無くて暇なんじゃよ。
世界を創っても、ある程度の事ならば世界のシステムが勝手に対応してくれるしのぉ。
じゃから、この前の仕事はかなり久しぶりじゃった。
「おぉ、そう言えばあやつはどうしておるかのう。どれ、ちょっと世界の記録を覗いてみるかの」
パチンッ!ネイミルが指を鳴らすと、目の前に画面が出てくる。
そこには一匹のゴブリンが映っていた。
「あやつ、ゴブリンに転生したのか……。運が悪いのゥ。加護でも与えとくか。これで死なないじゃろう」
面白い奴じゃったしのー。
簡単に言っているが、加護を持つというのはかなり珍しい事である。
「ん?外に出たか。ありゃ?何かゴブリンとは違う様な気がするんじゃが。種族を視てみるかの。……あぁ、亜種じゃったのか。なら多分生き残れるじゃろ。亜種は同じ魔物よりもつよいしの。さぁーて、この次はどうするのかの?」
画面の中ではゴブリンが鹿の魔物を倒している。
「おー、よく倒せたのぅ。確かあの魔物はゴブリンよりもかなり強かったはず。亜種だとしても難しい筈なのじゃがのう」
画面は再び洞窟の中に戻っている。
「もう魔力を動かしおった。あやつの居た世界には魔力は無いから時間がかかる筈なんじゃが」
画面は次の日に移っていた。
「ふむ、普通に探索しているようじゃのぅ。うむ?止まった?何かあったのかの。…あぁ、ゴブリンの集落じゃの。流石にこれはまだ危ないじゃろ。そうそう、そのまま引き返して、って何故止まっておるのじゃ?あ、集落に向かって走り初めよった!素人じゃぁ、直ぐにしぬぞ!?」
画面の中のゴブリンはゴブリンの群れの中に突っ込んでいく。
しかし、神の予想とは裏腹に攻撃を避けながら一撃を与えていき、着実に数を減らしていく。
中には格上のゴブリンジェネラルやゴブリンキングなどもいたが、傷を負いながらも倒していた。
「なん……じゃと……?い、今の動きは素人の動きではなかったぞ?一体どういう…そうじゃ、あやつの地球での記録を見てみるか」
ネイミルは一旦画面を消し、書庫に移動する。
「えーっと、確かこの辺に……あった!これじゃな。何々、[朱咲嵐疾 享年17歳男性。幼い頃に興味本意で槍術を習い成長の速さから神童と呼ばれるも、ライトノベルを読み始めると「ラノベの方が面白い」と、あっさりと止めてしまう。その後は中学校では襲ってきた不良を叩きのめし配下にし、悪徳教師の弱味を握り金を奪って学校を追い出した。以来、生徒たちの間では、「不良の親玉」「ちゃっかりしたヒーロー」等と呼ばれており、一部からかなり好意的に見られていたらしい。高校に入ってからは表には出ずに周辺の不良をまとめ、暴力団や警察と協力して地域の安全化にせいを出した。暴力団や警察には「将来は是非うちに」と誘われていた。2年に上がると不良のトップを引退して学業に取り組む。しかし1学期の中盤、通学途中にトラックにひかれて死亡。その運転手は彼が昔追い出した教師だったらしい。町の人は皆彼を知っていた為、犯人は逃げる前に捕まった。直ぐに救急車で運ばれるが病院で死亡が確認される。彼の葬式には暴力団関係者や警察関係者、大企業の社長、周辺の住民等が押し掛け、盛大に行われた。彼の魂は女神ネイミルに拾われ、異世界クラミリアへと転生する]と。成る程、成る程。」
…………。
「何じゃコレは!?全く普通の人間ではないではないか!…私は何かとんでもないことをしでかした気がするんじゃが…。ん?注意書き?えー[注意!尚、彼の死は予定外のものである。コレには神の関与が考えられる]と。ふむ、もう驚かんぞ。慌てずに対処しなければな。しかし既に転生させてしまったから生き返らせるのは無理じゃし……」
ふむぅ、どうするか……。
そうじゃ!その神をみつけだして謝らせよう!それと褒美もやろう!
到底許される事ではないが、せめてこれくらいはな。
「あやつを殺したのは一体誰なんじゃ?」
居間に戻り、指を鳴らし再び画面を出す。
今度はそれを操作していく。
「えーと、関与していたのは…、リムサルとセテヒラか…。………。何やっとんじゃ、あのバカ姉共がぁ~!!!」
そう。
関与していた張本人はネイミルの姉リムサルと、兄セテヒラだったのだ。
「これは完全に謝らせなければいかんの。何故こんなに疲れているのじゃ?ただ暇潰しをしていただけなのに…。続きを見るかの」
再開された画面では、ゴブリンが新しい装備を着けて洞窟に戻っていた。
そこからは延々と戦いに明け暮れる日々が始まった。
「あやつもよくやるのぉ。ん?よく見ると笑っておるな。【戦闘狂】の称号でも与えておくか。それよりも凄い成長速度じゃの。異常な成長スピードじゃ」
神は発覚した重大な事実を忘れ、いや、目を背けて画面に注目する。
「朱咲嵐疾か…。面白い奴じゃ。なんじゃろうな、あやつをみていると胸がドキドキするのじゃが」
女神ネイミルに気に入られた朱咲嵐疾。
悲しきかな。
長年神界で生活してきたネイミルには、その気持ちが恋心の芽生えだとは気づけないのであった。
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side~人間~
「何?西の森で既に壊されたゴブリンの集落が見つかった?」
俺、オリク バルナードはたった今届いた報告に疑問の声で返した。
伝令は威圧感の伴った疑問に、震えながら答える。
「はい!見つけた冒険者の話しによりますと、クエスト中にゴブリンの集落を発見。確認をする為に近寄ったところ、大量の血の匂いがしたので集落に入った様です」
伝令の答えに俺は眉間を揉みながら疑問を重ねる。
「それで?その集落の様子はどうだったんだ?中に入ったんだろう?」
「はい!中に入るとそこには多くのゴブリンの死体が倒れていた様です。正に血の海と化しており、死体は一ヶ所にまとまって倒れていた様です。その死体は槍でつけられた傷で全て一撃で殺されていた様です。奥に進んで行くとゴブリンナイト、ゴブリンメイジ、ゴブリンジェネラルとどんどん強くなっていった様です。更に奥にはゴブリンキングも倒れていたそうです。魔石はゴブリンキングのものだけが取られていたそうです。家は漁られた形跡が見られたそうです」
伝令は青ざめた顔をしながら伝える。無理もないだろう。
ゴブリンキングと言えばBランクの魔物だ。
それだけでも大変なのに、群れも殺されている。
それも一ヶ所に死体がまとまって倒れていたと言うことはそいつは一人だったって事だ。
恐ろしくねぇ訳がねぇ。
「分かった。もう戻っていい」
俺は伝令を帰らせると大きく溜め息をついた。 今回の奇妙な事件の原因を見つける為に捜索隊を出さなければならないだろう。
「はぁー、何でこんな面倒な事が…………」
この辺境の街アノーミルの冒険者ギルドのギルドマスター、オルク バルナードはすっかり毛の無くなった頭を撫でながら疲れた表情でまた溜め息をつくのだった。
いや~、主人公の死には神様が関わっていた!
テンプレだったね♪
人間が探しに来るみたいだけど主人公はどうなってしまうのか?
次回にご期待ください♪