第2話 迷子の面接希望者
現場での鑑識作業を終えたトモヤは聞き込みをするアダムと一旦別れラボに戻った。
現場は多くの作業員が出入りしているし連日の雪で証拠の多くは消えていた。
検死で何かが分かればいいのだが、とトモヤは暖房の利いた建物の中で一息つく。
とりあえずコーヒーを飲んで温まりたい。
「あの、すいません」
掛けられた声に振り替えるとスーツ姿の華奢な女性が立っていた。
ウェーブがかかったショートヘアを少し掻きながら女性は尋ねる。
「このラボの方ですよね?」
「そうですが……どうかしましたか?」
「実は面接の約束をしていて……デビット・ロビンス氏のオフィスってどこですか?」
なるほど、迷ったのか。トモヤは納得した。
受付で一応聞いたのだろうが、今日の受付担当は確かフィリアだ。
口頭では説明するが受付のカウンターからはトイレと休憩以外では決して出てこない女性だ。
迷路のようなこの建物で迷うのは仕方が無い事だ。
「この廊下をまっすぐ行って左側3番目の部屋がロビンス主任のオフィスです」
説明をすると女性はパッと顔を輝かせ
「ありがとうございます。色々下調べはしてたんだけどラボの中については調べてなくて」
当たり前だ。
そんな事まで調べてくる人間というものを今だかつて見たことがない。
「あたし、エマ・ギャレット。ラックランドから来たの。この恩は忘れないわ」
そう言うとエマは足早に廊下を歩いて立ち去っていった。
「変わった娘だな」
年の頃でいうと20代だろう。
所作に初々しさが感じられた。
尤も自分も20代なのだがその辺は色々と事情があって彼女の若さが余計に感じられた。
行先からして捜査官志望なのだろう。ラックランドはこのランペッタ市があるドミトン州より南にある海岸沿いにある都市である。
「まあ、頑張れよ」
そう言うとトモヤは自分のデスクへ向かっていった。
向かいのデスクに座っている女性がトモヤに気づく。
先輩捜査官のレイラ・ヨードニーである。
「トモヤ、送られてきたデータ見たわ」
「見事なミイラだったでしょう?」
「ええ、以前砂漠に埋められた遺体を掘り起こしたことがあるけどあれを思い出したわ」
「被害者はさながら塩の砂漠に埋まってた、か」
「塩の砂漠なら実際のところエルブルク大陸にあるわよ」
「あの浮遊大陸か……じゃあ、ミイラになりたくなったらそこで行き倒れますよ」
そんな冗談を言い合いながらトモヤはコーヒーを淹れ席に着く。
「今、セスが検死してると思いますよ」
「じゃあ、行ってこようかしらね。あなたはどうするの?」
「証拠の分析を。ちょっとやらかしてちょっと今は……」
「あら、彼と喧嘩でもしたの?」
「いえ、そう言うんじゃないですがちょっと……」
コーヒーを口にしながら言葉を濁す。
「まあ、行けばわかりますよ」