第13話 犯人
取調室。
一人の男性がトモヤ達の向かいに座っていた。
「まさか君だったとは思わなかったよ」
男は、シンディを発見した作業員の一人。
荷台に嘔吐した中年の男であった。
「コール・ビリングス。君は少し前まで造園業者で派遣として働いていたね」
「あ、あの……俺は」
「シンディの殺害に使われた凶器に残っていた指紋は君のものだ。捜索令状を取って君の車を調べたら、荷台から血液反応が出たよ」
コールはがくりと項垂れた。
「シンディは年上の男性と付き合っていた。それは、君の事だったようだな」
トモヤはミイラ化した遺体の写真を机に置く。
コールは目を背けた。
「シンディを殺した君は遺体をタンクに捨て、スヴェン、もしくはダンに罪を着せるためショベルを彼らの家の倉庫に置いた。計画的な様に見えるが指紋は拭いていなかったし、遺体も簡単に見つかるようなところに遺棄し、自分で見つけてしまう。実に稚拙な犯罪だ」
「わけがわかんなくなったんです。パニックになって、もうどうしたらいいか。頭に思いついたことを片っ端からやって行ってそれで……」
それを皮切りにコールはぽつぽつと語り始めた。
ダンスの練習をしている彼女と偶々知り合い、たがいに惹かれあったこと。
高校を卒業したら結婚しようと約束をしていた事。
だが、ある日突然彼女に別れを告げられ失意のどん底に落ちた。
勤めていた会社もクビになり派遣の仕事で何とか食いつないでいったある日、造園業者の仕事で行った家の息子とシンディが付き合っていることを知った。
「解ってたんです。こんな冴えない男が夢を見たのが間違いだって。でもあいつを見ていたらどうしようもなく腹が立ってきて……そしたらある日電話が来て……」
電話で呼び出された夜、妊娠を告げられた。
「あの女の顔を見て分かった。関係をネタに脅されるんだって」
「確かに、シンディの年齢ならば法定強姦になる。たとえ両者合意の上であったとしても…………」
「俺はあいつに人生を台無しにされたんだ。なのにまだ俺から奪おうとするなんて、ひどすぎる。だから思い知らせてやったんだよ!あの金持ちの坊やどもにもな!!」
毒づくコールを見てトモヤは静かにため息をついた。
「そうやって何もかも人のせいにして、本当に見苦しい男だ。自分勝手に早とちりして感情の赴くがままに行動して……その結果、こんなむごたらしい真似をして………それが大の大人がすることか!恥を知れっ!!!」
トモヤは立ち上がるとアダムの肩を叩き部屋を後にした。
部屋の外ではエマが待っていた。
エマはトモヤが持っている一枚の写真に気づいた。
「チーフ……」
その写真はシンディの遺体が身に着けていた組紐のブレスレットであった。
「倉庫にあった千切れたブレスレットにはコールのDNAが付着していました」
「恐らくコールは彼女を忘れられずずっとブレスレットを持っていたんだろう。それも彼女を手にかけたことでただの忌まわしい想い出と化してしまった」
「ええ、でも彼女は……彼女も事件当日、ブレスレットをつけていました。二人の想い出の、お揃いのブレスレットを…」
「彼女はコールを脅すつもりなんかなかったんだろうな。きっと本当に大事な人が誰か気づいて、その人の元へ帰ろうとした……」
エマが痛ましい表情をした。
「まあ、今となっては彼女の真意もわからんが、もう彼には関係のないことだ」
「悲しい……ですね」
「確かに可愛そうな被害者だった。だが……」
トモヤが顔を曇らせた。
「だが一番可愛そうなのは、皆に振り回されて生まれてくることの出来なかった、赤ん坊なんじゃないだろうかな」
そう言うとトモヤはエマの肩を叩き
「よくやった。お疲れさん」
ゆっくりと立ち去った。
こうしてエマがMVSに来て最初の事件は解決した。
その胸に何とも言えない悲しみを残し……