第9話 カフェ・メンドーサ
その頃、トモヤとアダムはカフェ・メンドーサに来ていた。
ここには、シンディの所属していたストリートダンスチームがよく通っていたと両親からの話でわかったのである。
「そんな、まさかシンディが……」
チームの一員であり、シンディと同じ高校に通うリタは眼に涙を浮かべた。
彼女と同じ17歳で気弱な印象を受ける少女だった。
「リタ、彼女と最後にあったのはいつかな?」
友人を亡くした思春期の少女だ。
言葉を選びながら優しく問いかけた。
「1週間前……失踪した日です。あの日、シンディは人に会って大事な話をしないといけないって言っていました」
大事な……
それが妊娠に関することである可能性は十分にある。
そして、その相手が犯人である可能性も。
「それって誰のことか知っているかい?」
「いいえ、誰かは言って無かった……でも多分元カレなんじゃないかな」
「元カレ?」
「誰なのかは知りません。教えてくれなかったから。でも、多分大人の人。シンディは年上が好きだったから……」
もしかしたら家庭のある男と恋仲になりそのことで揉めたという事も考えられる。
そう考えつつも一時的にそのことは頭の隅へと追いやる。
「そうか、ありがとう。じゃあもう一つ。彼女に敵は居た?恨まれてたりそういうのは」
「敵は……いなかったと思う。でもカレシと喧嘩してたよ」
「それは誰?」
「ダンよ。ダン・ブレディ。チームメンバーでお坊ちゃん」
一方、アダムは店員のトラッヴィス・ガーノに話を聞いていた。
丸メガネをかけた20歳頃の神経質そうな男だった。
「マジかよ。あのシンディが死んだのかよ……」
「知り合いなのか?」
「一応常連だしな。仲間とよく店でだべってた。ほら、あんたの仲間が今話聞いてる連中さ」
「あんまりいい感情を持ってないみたいだな。嫌いなのか?」
トラヴィスは肩をすくめる。
「嫌いっていうか見ていて痛いんだよね。いつがビッグになるんだって夢をよく語ってるけどさ、そう言うのは一握りなんだぜ。現実を見てない」
「よく言うじゃない。あんただって昔はあの子たちと一緒だったじゃない」
厨房から出て来たオネエ言葉で話すスキンヘッドの大男を見てトラヴィスは小さく舌打ちをした。
「父さん、昔の話はやめてくれよ」
「だってそうじゃない。まあ、アタシはこうやって息子が家業を継ごうとしてくれて嬉しいんだけどね。ところで刑事さん、シンディちゃんを殺した奴を探してるなら、もっと別に行くところがあるんじゃない?」
トラヴィスの父はアダムに向けてウインクした。
背筋を寒気が奔る。
「というと?」
「シンディちゃんのカレよ。ダン・ブレディ。この前二人、別れ話してたわ」
「別れ話?何で?」
「そんなの知らないわ。でも、あの坊や凄く怒ってたわ」
「ああいういい子ちゃんぶってるやつほどキレると何するか解らないからな」
「トラヴィス!あんたそういうのはいいから花壇の手入れをしてきなさい。ここはアタシが替わるわ」
父親にたしなめられ息子は憮然とした態度で外へと出ていく。
「本当にまだ子どもなんだから……息子はね、ダンスを辞めてウチでパティシエになる勉強をしているの。腕はまだまだだけどそれなりには美味しいわ。刑事さん良かったら何か買っていってね」
父親はショーケースの一角を指さす。
「息子特製ショートケーキ!!」と可愛らしい文字で書かれたプレートが目に入る。
「ともかくね。怪しいのはブレディの坊やよ」
そう言うと、再度ウインクが飛んできた。