プロローグ
ドミトン州の冬は厳しい。
1月の中頃、北隣のノースネイロン州から冷え切った烈風が吹き込んでくる。
平均年間降雪量は60cm程度、多くはないがドカ雪になることもある。
今夜はよく冷える。
雪が容赦なく降り注ぎ積もっていった。
ランペッタ市でも除雪車が出動し道を作るため作業に勤しんでいた。
夜も更けあと数時間程で日が昇る。
レイラ・ヨードニーはトイレに起きた帰り、息子の寝室を覗き込んだ。
すやすやと寝息を立てる息子の姿を見てホッと一息をつく。
ゆっくりおやすみ、と表情を緩めると自分も寝室へ戻って行った。
アダム・バーロウはベッドで身を起こした。
まだ眠れるか。
時計を見ながら彼は頬に触れた。ひげが伸びている。
果たして電動髭剃りは何処に置いていただろう。
散らかった部屋を見渡しながら後で探そうと彼は再び眠りについた。
エマ・ギャレットは本日4回目の支度チェックをしていた。
今日は面接を受ける大事な日である。忘れ物などあってはならない。
目的地までの地図を何度も確認する。一度下見もした。
万全の態勢のはずであったが一つだけ誤算があった。
窓の外で空から舞い降りてくる白い悪魔達を見ながら恨めしそうにつぶやく。
「天気予報のチェック、忘れた……」
トモヤ・E・ロビンスは職場となるランペット警察魔学捜査ラボに居た。
ソファに寝そべり、毛布を一枚かけ天井を眺めていた。
トモヤはとある世界からこの世界へと漂流した。
あれらから10年近く経ち新しい環境にも慣れたがまだ帰郷への願いは薄れない。
あと1時間ほどで起きて冷蔵庫に置いているシリアルでも朝食にしよう。
早く夜が明けないだろうか。そう思いながら首を鳴らした。
「だからさ、今シーズンは絶対ヒャエナーズの優勝だぜ」
「何を言ってやがるんだ。あのチームは毎年中盤辺りから落ち込むじぇねぇか。アンカーズの方がいい選手がそろってるからな。優勝はアンカーズだよ」
作業服を着た男が二人、スポーツの話題で盛り上がりながらトラックをタンクに横付けする。
「そうかなぁ、今年こそはやるんだぜ。俺は信じてる」
そう言いながら片方が寒さに震えながら外へ出て荷台へ登っていく。
もう一人も白い息を吐きながらタンクにつけられたパネルを操作し荷台へ岩塩を流し込んでいく。
「お前、毎年それ言ってんだろ。学習しないねぇ」
そんな風に言っているとドサッと大きな音がし、荷台で塩の量を見ている男がひゃあっ!と声を上げた。
「おい、大変だ。止めろ止めろ!!」
「何だよ、そんな女みたいな声出しやがって。どうしたっていうんだよ全くよぉ」
機械を止めると男は荷台へと上がっていく。
見張りの男がガクガク震えてる。
「何だ、熱でもあんのか?青い顔しちまって」
見張りの男は震えながら荷台の中を指す。
男はその方向を見る。
「おいおい、マジかよ」
塩の中には大きな塊が横たわっていた。
カラスとかそういった小動物じゃない。
よくは見えないがそう、人間に見える。
というより99%人間だろう。
長い髪らしきものは見えるし何というかフォルムがもう人間そのものだし、歯の様なものまで見えた。
「ハハハ、しばらく塩漬けは食べれねぇな……」
そんなジョークが零れた数秒後、男は荷台の中に嘔吐した。