ぷろろーぐ
政府とかよくわからないまま書いたので色々間違ったとこもあると思います。生暖かい目で見てやってください…
「どういうことだ! スクルドが未来を映さなくなっただと!?」
暗い暗い部屋、縦2メートル横5メートルはあろうかというモニター。その青い光だけが光源であるこの部屋の円卓を囲むように座る12人。そのうちの一際図体のデカい男が机を叩いてがなり立てた。眉間に皺が寄っていて、喋る度に唾が飛ぶ。その汚らしい様子に他の者たちはため息を吐いた。
「ガレイド、少しは落ち着きなさい。唾が飛んで汚いです。ただでさえ貴方は横幅がデカく、汗まみれで見苦しいのですから、喋り方くらいお上品になさっては?」
「なんだと!?」
「やめんか、イズ、ガレイド。今はケンカなんぞしてる場合ではない」
イズと呼ばれた小柄で品のいいドレスを着た貴婦人とガレイドは、一番年長だろう爺の言葉に押し黙った。
爺は二人から視線を外し、重い口調で話し出す。
「先ほどレイが言った通り、今日の朝からスクルドが未来を映さなくなった。いや、映さなくなったのではないな......映せなくなった」
「映せなくなった? どういうことだ」
「その説明は私から」
爺の言葉に首を傾げる面々。そして、メガネを掛け白衣を着た男性が立ち上がった、いや、彼が載っている機械が立ち上がった。彼は手をモニターに翳す。
途端に沢山のタブが立ち上がった。中には映像も入っているようだ。
レイはモニターの前に立つと白衣のポケットに手を突っ込んだ。
「始めはスクルドの故障だと思ったんだ。でも日々のメンテで故障する方向は全部消してたし、実際検査しても故障なんてしてなかった。そこでコスクルド、まあスクルドのコンパクト版を使って未来を見たら理由がわかった」
「それは?」
「みんな、スクルドがどんな未来を見せてたと思う?」
質問に質問で返されて顔を顰めた面々の内、一人が首を傾げる。
「コスクルドじゃなくスクルドが見せた未来?未来は見えなかったんじゃないのか?」
顎髭がダンディな雰囲気を醸し出す男性がそう言うと、面々はハッとした。
「そう、スクルドは未来を見せていた。そこには木一本すらない大地と海を」
「!!」
「コスクルドはそれより近い未来を見せた。マグマで覆われた大地を。消えていく人々を」
レイは淡々を呟く。そこにはどうしようもない不安の色を見せた瞳があった。
一番年若いであろう、青年が勢いよく上体を起こして言った。
「他に未来はなかったのか!?」
「スクルドは今まで何億、何兆、いやそれ以上ある未来の中で一番人間が繁栄するモノを見せてきた。けれど今回は探しても探しても未来が一個しかなかったよ。人類どころか、この地球上の全てが無くなるっていう、ね」
「そんな……」
唇を噛む青年に、レイも他のメンバーも難しい顔をするしかない。
やがてそのままの状態で30分経過した。髪の美しい女性が一言言った。
「......村が一つなくなりました」
「......何?」
髪の長い女性は、耳の通信機のような物を指差した。通信が入ったのだ。
「休火山が噴火したようです。幸い小さい火山でしたが、未来が知らされていなかったのです。当たり前ですね」
「......確実に滅亡の未来に近づいているってわけか......」
「......そうだな」
爺が目を閉じ、両肘をつき、両手を顔の前で組んだ。まるで何かを思案するように。
「スクルドが作られて今までで約3000年と少し。人類は今までスクルドの未来予知と機械に頼って生きてきた。生活の全てを機械がないとできないくらいに、な。スクルドが見せる未来が滅亡するものになってしまった今、人類は滅ぶしかない」
その言葉に全員が止まった。そして、
「い、いやだ…死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!」
「いやぁああぁああ......何で......!?ママ、助けて、ママ、ママ、ママ、ママぁああ!」
「怖い怖い怖い怖い、熱いのなんて嫌だ、痛いのなんて嫌だ......嫌だ、怖い、惨めだ、悲しい、苦しい......!??」
「なんだって俺らの時代にこんなことに......!!!嫌だ、俺のせいじゃない、俺じゃない、俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない俺じゃない......!!!」
半狂乱した。その様子を一瞥し、爺が側にある杖を掴み、床を叩いた。
再び、部屋は静かになる。
「......一つだけ、方法がある」
その言葉に全員が乗っている機械を立ち上げ、嬉々として聞く。
「一体どうやって!」
「......ウルドを使う」
「ウルド......?」
「ーー爺!?それは無理では!?」
爺が言った言葉に否定を入れたのはレイだ。ひどく焦った顔をしているのを周りは冷ややかにみる。
生き残るチャンスがあるのだ。今は無理も言ってられない。
「できないんですよ、それは!!」
「うるさいですわ、レイ!一体何ができないと仰るの!? 人類の危機ですのよ!? 出し惜しみせず、やれることはやらなくては。爺が仰っているのですし、可能性が無いわけでは無いのでしょう」
「......無いんだよ。それが」
レイも爺も床を見ていることに気がついたイズは話せなくなった。
一体何があるというのか。得体の知れ無い不安と恐怖で体はもうガタガタ震えている。
「ウルドは............ウルドの機能は過去へ飛ばすと言う、言わばタイムマシンだ」
「タイムマシンですって!?発明不可能と言っていたじゃないの、レイ!」
「うん、ウルドはね、完全じゃないんだ」
そう言ってレイはそっと小さな箱を置いた。そしてスッと開けると、そこには懐中時計のようなものが入っている。
「これがウルド。今から過去へ飛ばすモノ。これを使えば、特異点を変えることができる。つまり、未来を変えることができる。だからウルドを使って特異点の過去に行き、過去を変えればこの先の未来は来ないだろう。でもね、飛ばされたが最後、この現実には帰ってくることができないんだ。しかも、飛ばせる物はーー人間だけなんだ」
絶句した。
今の人間は、機械を使わないで生きることなどできない。生まれた時からずっと機械に乗り、歩かず、走らず、料理もせず、ただ機械を作り、世界を監視し、機械で作物を作り、食糧になる動物、植物以外は敵になると言って消してきた。そんな人間しかいないのだ。
ウルドを使って特異点を変えることができる人間はいない。まず、動くことすらできないのだから。
「ーーもしかしたら適任者がおるかもしれん」
爺が呟いた。全員が振り向く。
「............誰だよ、それ」
「............機械音痴と言われる種族がいてな、その種族はスクルドができて今まで機械を使ったことがない、通信機器もなくスクルドの教示も聞いたことがない。今は生きているかもわからん種族だ。2000年前の記録では、あまりに機械に塗れた世界では住みづらいために、人の住まない標高4000メートルの山に引っ越したとある。その種族の生き残りがいればな......」
「............生きてない可能性の方がでけーじゃねえか......」
ガレイドが呆然と唇を戦慄かせる。
しかし、今、その種族の生き残りがいることに可能性をかけるしかないとこも事実だった。
「でも、連絡の取りようがないのでは............」
イズが扇子で口元を隠しながら言う。顔は青ざめていたが、冷静なようだった。しかしその瞳にはアリアリと絶望が見えた。
「......わし、自ら話をつけてこよう」
「しかし!」
「最高責任者としての使命じゃ」
「でしたら......でしたら、私も行きましょう」
レイが、顔を上げる。そこには覚悟がある面持ちだった。
その面持ちに全員の気が、引き締まる。
「......俺もいく」
「......ガレイドがいくのでしたら、私もいくしかありません。こやつが粗相を犯してその適任者を不愉快にさせてしまいかねませんし」
「そのまえに、行きたくない奴はいるのか?」
誰もーー手を挙げなかった。
爺が全員を見渡す。それぞれの覚悟を見て、目を閉じた。
「では......行こう。人類最後の希望とやらを探しに」
その二日後、言い伝えの山で、田畑をクワと呼ばれる物で耕す少女を見つけた。
兎の耳を生やした彼女は、人類最後の希望だった。