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99%断罪確定の悪役令嬢に転生したので、美男騎士だらけの学園でボッチ令嬢を目指します  作者: ハーーナ殿下


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第45話:絶望的な状況

 

 バルマンの街は、妖魔ヨーム兵の大軍に包囲されようとしていた。


 交通の要衝でもあるバルマンは、東西南北の街道が交わる。

 その全ての方角に、妖魔ヨームの大軍が突如として現れたのだ。


「なにゆえこれほどの妖魔ヨームを察知できずにいたのだ⁉ "暗部”の怠慢か!?」


「馬鹿を言うな、細かい妖石ヨーセキを使った魔方陣など、いくらでも隠ぺいの方法はある!」


「それを調べるのが、お前らの仕事であろうが!」


 突然の大軍の出現に、バルマン城内に怒声が飛び交う。

 この不始末の責任を誰がとるのかと、誰もが騒ぎ立ている


 バルマン家の最大の長所は、“大陸一の情報収集能力”。

 それがこうもたやすく裏をかかれ、窮地に陥ったことに、家臣団の誰もが混乱していた。


 普段は冷静沈着な古参の騎士ですら、感情的になっている。

 だが窓の外の光景を見たら、それも仕方がないのかもしれない。


 ――――『このままではバルマンが滅ぶ』


 妖魔ヨーム軍の数は、それほどまでに尋常ならぬ大軍であった。


「だから、どうすればいいかと……⁉」


「だから何度も言っているであろが……!」 


 バルマンの頭脳ともいえる“司令の間”。

 更に混乱に染まろうとしていた。


「皆さん、落ち着いて下さい!」


 私は冷静になるように皆に声をかける。

 だがそのなだめる言葉すらも、火に油を注いでいるようになってしまう。


 このままではマズイ。


 ――――そんな怒声の中に、ふと静かに声が響く。


「親愛なるけいらよ」


 耳を塞ぎたくなるような怒声の中。


 それは誰もの耳に届く声だった。

 場違いな声質に、全員がそちらに顔を向ける。


 声の主はお父様……エドワード・バルマン侯爵であった。


けいらよ……“バルマンの誓い”をここに」


 エドワード卿は静かに言葉を続ける。

 皆の顔を見まわしながら、指示を出す。


「「っ!?……“どんな窮地、死ぬ刹那までも冷静沈着に”であります」」


 誰もが直立不動なり、その言葉を叫ぶ。

 バルマン家の代々伝わる、魂の言葉を宣誓する


「落ち着いたか皆の者?」


「「はっ!見苦しい醜態、申し訳ございませんでした!」」


 先ほどまで混乱し、責任のなすり付けをしていた者たちも、スッと顔色が戻る。

 たった一言で家臣団は、冷静さを取り戻したのだ。


「では、戦況を分析しようではないか」


 お父様はテーブルの地図に、戦駒いくさこまの配置を命じる。

 四方の窓から見える妖魔ヨーム兵の戦力を、遠目の効く者が告げさせていく。


 報告に合わせて地図の上に、敵軍に見立てた駒が次々を並んでいく。

 現在のバルマンが置かれている状況が、客観的に地上に示される。


「エドワード様、妖魔ヨームどの戦力の分析が、終わりました!」


 補佐官を務める騎士は、戦況図を完成させる。

 お父様に付添いながら、私もそれを確認していく。


 うわっ……これは酷い。


 そんな情けない声が、思わず出しそうになる。

 それほどまでに戦力差がありすぎるのだ。


 家臣団も声を上げていく。


「戦力差が1:50か……」


「しかも敵軍には上級妖魔ヨーム兵の姿も、確認されております」


「籠城戦でも、数日もつかどうかの差か……」


 報告された戦力差は圧倒的であった。

 計測した包妖魔ヨーム兵の数が、甚大ではないのだ。


 一般的に"籠城戦は守る側が有利”である。

 食糧備蓄や戦力や地形など多くの要因が絡んでくるが、その法則はこの世界でも変わらない。


 このバルマンの街は強固な城壁で囲い、兵士や騎士の練度も高い。

 更には私マリアンヌの事前予測により、既に臨戦態勢中。

 城門も全て固く閉ざれていた。


 だがこの五十倍もの戦力差は厳しい。

 籠城も無意味なほどの、戦力差なのだ。


 普通の王国同士の戦なら、ここは降伏が懸命だ。

 無益な争いを避けられ、損害賠償金さえ支払えば、戦が終わるのだから。


 だが妖魔ヨームとの戦いは、“普通”ではない。


 ……『妖魔ヨーム軍は通った後は、死のみ残る』


 奴らは知性を持たず、人という存在を憎悪し殺すだけの邪悪な存在。

 降伏はもちろん、使者を出しての交渉もできない。


 “全滅させるか、全滅するか”

 結末はそのどちらかしかないのだ。


「さて、援軍の到着の見込みは?」


 テーブルの上に別の広域地図を広げ、お父様は家臣に尋ねる。

 包囲され前に出した早馬と伝書鳩による、救援信号の状況確認をしていく。


「はっ、一番近いドルム伯爵軍が最速で十日! それ以外が十四日以上かと思われます!」


 他家の内情に詳しい家臣が、援軍の到達予定日を地図上に記載していく。


 ヒドリーナさんの実家であるドルム軍。

 中でも一番早く軍を招集して、到達できる能力があるという

 生粋の軍家である、ドルム家ならではの迅速さだ。


「クラウドの炎竜サラマンダー騎士団が戻って来る時間は?」


 お父様は息子が率いる遠征軍の、現在位置を確認する。

 バルマン家の主力である騎士団は、今回の中でも頼みの綱といって過言ではない。


「はっ、こちらも早くて十日」


 中央からの要請……いや教皇の策謀によって、クラウドお兄様は遠征中。

 ここからかなり遠い場所にいた。


 これも相手の陰謀。

 帝国の裏の最高権力者“教皇”の陰謀だった。


 主力である炎竜サラマンダー騎士団をバルマンから引き離し、その間に滅ぼそうとしているのだ。


「では、バルマンは何日もつ?」


 全ての状況を確認。

 お父様は家臣たちに問う。バルマンが何日戦えるかと?


「はっ……市民兵も総動員しても、"六日”が限界かと……」


 参謀騎士が声を震わせながら報告する。

 彼はバルマン家の家臣の中で、最も分析能力が高く“千里眼”の異名を持つ。

 ここまでデータが揃っていたなら、予測を外したことは一度もない。


「なっ……」


「六日だと……」


 彼の今までの実績と能力は、この場に家臣たちが誰もが知っていた。

 ゆえに言葉を失う。


「マリアよ、お主の見解は?」


 最後にお父様は訪ねてきた。

 乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーとしての私の見解を聞きたいのだろう。


わたくしも皆さまと同じでございます。六日にバルマンは落ちますわ……」


 これまで培ってきた軍学の知識を騒動しても、その計算は覆せなかった。

 波状攻撃をしてくる妖魔ヨームの大軍に、バルマン軍も当初は善戦するであろう。


 だがあまりにも多勢に無勢。

 押し寄せる波に、外壁の門が持たず破られる。


 そこから入り込んだ妖魔ヨームの大軍は、無力な市民を蹂躙。

 バルマン城まで一気に駆け上がってくるであろう。


 城を閉ざし市民を見捨てることにより、多少の時間稼ぎはできる。

 でも滅びの前のわずかな足掻きでしかない。


 妖魔ヨーム軍に包囲された時点で、このバルマンは詰んでいたのだ。

 いや……その数手前から、既に敗北が決まっていたのだ。


 敵ながら見事な策だった。


 もしかしたら敵側……教皇側には、“策士”がいるのかもしれない。

 恐ろしいほど頭の切れる軍師が。


(いったい何者だろう……?)


 情報収集に優れたこのバルマン家の裏をかき、内密に事前に準備。

 更にはこちらの過信を逆手にとった、計略を敷いてきた策士。

 恐ろしいほどの冷徹な奴だ。


 ……『バルマンは滅ぶ』


 家臣団の誰もが、その現実に口を閉ざす。

 優秀な騎士にゆえに、彼らには分かっているのだ。

 この滅亡からは、決して逃れられない運命だということに。


「はっはっは……六日しか、もたぬだと?」


 そんな中でたった一人、軽口を叩く騎士がいた。


「お前らも老いて、弱気になったものだな?」


 の者の名はエドワード・バルマン卿――――そう、私のお父様であった。

 真剣な表情で、話を続けていく。


「相手の目的は不明。だが今回の黒幕は、間違いなく“教皇”だ」


 下を向いて口を閉ざしていた家臣たちに、お父様はゆっくりと語りかける。


「皆の者が知っての通り、私は陰険だ。裏では“帝国の卑屈野郎”とも揶揄されている」


 お父様は珍しく自虐的に鼻をならし、口元に笑みを浮かべていた。


「だから目にものを見せてやるぞ! 帝都にいるゲス教皇野郎に! なぁ、そうではないか、皆の者よ?」


 普段は礼節を重んじる主エドワードの口から、信じられない汚い言葉が出てきた。


「エ、エドワード様……?」


「ああ、この口調は……」


 だが家臣たちは覚えていた。

 この口調は若かりし頃の主の口調だと。


 ――――“鮮血の騎士エドワード”と呼ばれていた勇猛果敢で、頼もしき言葉であることを。


「はっ! 一命に変えても!」

「バルマン家に手を出したことを、教皇に後悔にさせてやりましょう!」

「よし、やってやるぞ!」


 家臣団の目の色が変わる。

 先ほどまで死を覚悟していた者たちに、戦う闘志の火が宿ったのだ。


「マリアよ、辛い初陣になるが頼むぞ」


「はい、お父様!」


 こうして私は乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーとしての初陣に、 1:50という絶望的な戦力差に臨むのであった。


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