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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第40話 ~ あたしたちはもっと強くならなきゃいけない ~

今週もよろしくお願いします。

 それからの事はあまり覚えていない……。



 勇者候補たちが集まってきて、ボクたちは救助された。


 気を失ったアニアはそのまま勇者候補の人に負ぶさられ、ミュースは……。


 …………。


 ミュースは白いマントにくるまれると、丁寧に担ぎ上げられ、ダンジョンの入口へと運ばれた。


 ボクはずっと俯いていた。


 途中何度か戦闘があったようだけど、勇者候補たちがあっという間に倒してしまった。


 村に着くと、ミルが待っていた。


 ミュースの亡骸を見ると、気丈に「よく頑張ったね。怖かったね。もう森に入るんじゃないよ」と声をかけていたが、最後には泣き崩れ、立ち上がることができなかった。


 教会に運ばれ、遺体に処理が施された。

 棺に入れられ、やっと他の子供たちとミュースは再会できた。


 小さな子供たちは、何が起こったかわからず、必死にミュースを起こそうとしていた。


 意味のわかる子供たちは大きな声で泣いていた。

 バッズウもその1人だ。


「馬鹿野郎!」


 罵倒しながら、頬に涙の痕が出来るまで泣いていた。

 棺から離れず、そのまま霊安室で夜を明かした。


 ボクも部屋の角で一緒になって見守った。


 バッズウは何も言わなかった。

 責めることもしなかった。

 無言で棺を見つめるリーダーの泣き顔が、何よりボクの心臓を絞め付けた。


 日中は子供の泣き声や咽ぶ声で溢れていた。

 だが、夜はとても静かだった。

 ひっそりとしていると、自分の鼓動がよく聞こえる。

 バッズウの代わりに責められているような気がした。


 明けて次の日。

 アニアが目を覚ました。


 しかし、女子寝房から1歩も出ることはなかった。

 同じ寝房の女の子が言うには、ベッドの上に座って、じっとしているだけだという。ただ――時々、何か譫言のようなものを呟くのだと言っていた。


 トントンって……。


 反射的に耳を塞いだ。


 そして、その日の昼。

 ようやくエーデルンドが、教会にやってきた。


 先にミルと話をしていたらしい。

 老シスターも疲れているようだった。

 背中を丸め、顔の血色は悪く、青白い。

 なのに、目の周りだけは真っ赤に腫れていた。


 エーデルンドは隣に立ったミルの肩を2回叩いた。

 優しくだ。


「何かあれば、力になるよ。なんでも言っておくれ。あたしの責任だ」


 エーデルンドは頭を下げる。

 ミルは何も言わず、首を横に振った。

 また小さくなった老シスターの肩を叩く。


 そしてボクの方にやってきた。


 ――ぶたれる……。


 そう思ったが、エーデルンドはボクの前に立つと。


「帰るよ」


 とだけ言って、手を引いた。


 教会の入口にバッズウが立っていた。

 アニアの姿はやはりなかった。


 リーダーは何も言わない。

「じゃあな」とも「またな」とも「バイバイ」とも言わない。


 ボクも何も言わなかった。

 どういえばいいのかわからなかった。


 どうすれば良かったのか。

 この後、どうなるのかもわからない。


 バッズウも同じ気持ちだったのだろう。


 ボクたちは無言のまま別れた。




 ボクとエーデルンドはハウスに帰ってきた。


 道程でボクたちが言葉を交わすことはなかった。


 エーデルンドはいつも通り、ハウスの扉を開け、上着や帽子を壁に掛けていく。ボクはハウスの入口前で立ち止まったままだ。


 ようやく気付いたエーデルンドが振り返る。

 腰に手を置いた。


「……どうした?」


 久しぶりに聞いたエーデルンドの声は低かった。


 ボクは思い切って尋ねた。


「どうして……。何も言わないの?」

「…………」

「ボクをぶつんじゃないの?」

「…………」

「だったら、早くしてよ。覚悟は出来ているから」


 ギュッと目をつぶった。

 どんな強さにぶたれてもいい。

 素早い平手が来ても、絶対に防御したりしない。

 これはボクへの罰だから。


「ふぅ……」


 エーデルンドは1つ息を吐いた。


 どこか忌々しく、何かに失望しているような息の吐き方だった。


「ぶってほしいなんて言ってるヤツに、それがなんの罰になるんだい?」

「ふぇ……?」


 ボクは顔を上げる。

 いつの間にか涙が流していた。

 ポロポロポロポロ……。


 ミュースが死んだと聞いた時も、あまり泣かなかったのに。

 後か後から流れてくる。

 今さら……。何故だろう。


「それにね。……何も言わないのは、何も言えないからさ」

「何も、言えない?」

「知ってるだろ? あたしは子供を育てるのがはじめてだ。こんな時、どんな言葉をかけたらいいかわからないんだよ」

「へ……」

「本来なら、ミルに助言を求めるべきなんだろうけど……。今はね」


 エーデルンドはヒュッと拳を振るった。

 綺麗なストレートは、ボクの鼻先で止まる。

 黒い髪をわっと乱した。


「あんたをこつく事がいいなら、いくらでもそうするさ。でもね。それはマサキにとっても、あたしにとっても罰にはならない」


 拳を引く。

 ようやくエーデルンドはわずかに口角を上げて、微笑んだ。


 必死にボクは頭を振った。


「エーデに罪なんかないよ。あれはボクが――」

「あるさ。あたしはあんたを子供としか見ていなかった」


 ボクは大きく目を見開いた。

 すとん、と心臓を矢に貫かれたような気がした。


「あたしを驚かせたかったんだろ? 自分の力を認めてほしかったんだろ?」

「それは――」


 迷った。

 でも、素直に頷くことにした。


 エーデルンドはボクの頭を撫でた。

 そして抱きしめた。


 エーデの臭いがした……。


「馬鹿だよ。あたしは……。あんたがずっと背伸びしようとしていたのを、頭ごなしに押しつけるなんて」

「違うよ。エーデは悪くない。悪いのは――」


 ボクは泣いた。

 大きな胸の中で、目を腫らしむせび泣いた。

 エーデルンドは優しく頭を撫でてくれた。


「誰が悪いとか、誰が良いなんてあたしにもわからないよ」

「うわぁあああああん。ぐす…………ううううわあああああ」

「だから一緒に考えよう、マサキ。あたしたちはもっと強くならなきゃいけない」

「ううう……」

「話してくれないかい? あの日、何があったのか。あんたは何を見てきたのか?」


 しばらくボクは泣いた後、すべてを話した。


 トントンのこと。

 その親のトーバックのこと。

 ダンジョンに行くことになったこと。

 勇者候補と出会ったこと。

 気が付けば、荒れ地のど真ん中に倒れていたこと。


 かいつまむこともなく。

 ボクは知っている言葉の限りを使って、エーデルンドに話した。

 その時のボクの心情と一緒に。


 エーデルンドはただ聞いていた。

 話の腰を折ることもなく、質問を挟むこともなく。

 ただ黙って。

 相槌を打ち、真剣に子供ボクの話を聞き入っていた。


 気が付けば、深夜になっていた。


 疲れ果てたボクは、いつの間にか眠ってしまっていた。



 ▼



「いちっ!」


 酒場で呑んでいたその賢者は、酒に口をつけるなり、悲鳴を上げた。


 頬をさする。


「おい。大丈夫か」


 隣に座った片腕の戦士が、気遣う。


「くそ! まだ完全に回復しきれてないや」


 賢者は忌々しげにグラスに入った酒を睨んだ。

 そして一気に平らげる。

 ぷはー、と酒気を吐いた。


「命があるだけマシだろう」

「これもそれも、あの変なガキのせいだ」

「ああ。全くだ」

「一体何なんだ? あのガキは?」

「子供ですか?」


 カウンターの向こうに立った店主が話しかけてきた。


「お客さん、勇者候補だよね。ダンジョンで子供に会ったのかい?」

「まあね」

「その怪我はもしや……」

「変な邪推はよしてくれる。ボコボコにされたのは、隣のこいつ」


 賢者は指をさす。

 戦士は「プッ」と飲みかけていた酒を吹いた。


「おい! そんなことを人前で!」

「だって、事実だろ」

「へー。勇者候補をのしてしまうほどの子供ってわけかい」


 声は隣から聞こえた。


 賢者、戦士、そしてバーカウンターにいた店主も視線を向ける。


 どうやら女らしい。

 玉のような肌。思わず抱きたくなるような腰つき。

 スリットが入ったロングスカートから垣間見える太股は、筋肉質でありながら絶妙なラインを描いている。


 何よりも胸だ。

 カウンターに乗った大きな乳房は、男の視線を吸い込むかのように綺麗な谷間を作っている。


 三者は思わずごくりと唾を鳴らした。


 やがて巻いていたスカーフをほどく。

 赤茶色の髪が広がり、妖艶の口元はどこかキラキラと輝いている。

 青い瞳もエキゾチックだ。


「お話聞かせてもらえませんか?」


 女は笑った。


 そして、それが男たちが見た最後の微笑だった。


さて、3章の隠されたクライマックスはここから始まります


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

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