表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/136

第39話 ~ わたしのパーティに入らない? ~

サブタイから「あのキャラが出てくるんじゃないか」と思っていただけると、

作者としては嬉しいです。


第3章第39話です。

「まあまあ……。大神官なんて心にもないことを」


 ナリィはふくよかな自分の頬に手を当てる。

 ほのかに赤い。本当に照れているらしい。


 アヴィンは見ながら「あ。ごめん」と謝る。


「大商人ナリィだったね」

「なにボケかましてんや、われぇ!!」


 今度は真剣に怒り始めた。

 浪速の金貸しもかくやという勢いだ。


 先ほどまで人の良さそうな顔が微塵もない。


 対して、アヴィンの顔は涼やかだった。


「だって、本当のことじゃないか。モントーリネなんて本当にいるかどうかもわからない神様を崇めたてまつって。君の中の妄想だけならいざしらず、世界中の人に信じさせるなんて。それって立派な詐――おっと!」


 アヴィンは寸前のところで上半身を倒した。

 直前までいた空間に、算盤の杖が振り抜かれる。


「チッ!」


 舌打ちしたのはナリィだった。


「おいおい。危ないじゃないか。病み上がりなのに」

「何が病み上がりや。もうピンピンしてるはずやで」

「それについては、感謝しているよ、ナリィ」

「やのに、その人間を詐欺師扱いとは。勇者アヴィンも落ちたもんやな」

「本当のことじゃないか。百歩譲ってモントーリネを崇めるのはいいとしても、人の自叙伝を書いて、大儲けしてるのはどこの誰だい?」

「ええやないか。書いたのは、うちや。それに、あれはうちが見たアヴィンしか書いとらん」

「せめて取材費ぐらいはほしいものだね」

「はは~ん。そんなんいうやったら、こっちにも考えがあるで」


 ナリィは杖に付いた『算盤』を弾く。


「僕が異世界から持ってきた算盤が役に立っているようで良かったよ」

「やかましい。ちょっと黙っとき」


 パチパチという小気味よい音が、聖堂に響き渡った。


「まあ、こんなもんやな」


 算盤を見せる。


「なんだい?この数字」

「宿泊費や」

「は?」

「あと治療費。あんた、ぼろぼろやったからな。そりゃもう力つこうたでぇ。肩と腰がビリビリや」

「それは年とその体――」


 今度は、縦に振り下ろす。

 杖は誰もいないベッドに突き刺さった。


 ナリィは「チッ」とまた舌打ちする。

 アヴィンはにこにこしながら、ベッド脇から顔を出した。


しく(ヽヽ)ったわ~。その口は治さずにおいておけばよかった」

「相変わらず、守銭奴だね。君は」

「守銭奴けっこう……。世の中、金や! 魔王を倒すのも、人心を集めるのも結局金がいる。それは、魔王を封印した勇者様もよくわかってるやろ」

「400年前は感謝してるよ。特に君のお父様にはね」

「死んだもんに感謝しても一文の得にはならへん」


 ナリィは目を閉じる。

 それは何かに祈っているように、アヴィンには見えた。


 しばらくして、ナリィは瞼を持ち上げる。


「で――?」

「で――とは?」

「あほぅ。狐の化かし合いを続けるほど、うちは暇やないんや」

「狐っていうより、たぬ――」


 ぶん、と杖が空を斬る。


 三度「チッ」という舌打ちが聞こえた。


 怒りに顔を歪める一方で、やはりアヴィンは涼しげに笑っている。


「その前に訊きたいんだけど、僕のワイフのことは知らないかい?」

「ワイフ? ああ……。エーデのことか。あんたをうちに預けたら、すっ飛んでいったわ」

「そうか」

「真夜中っちゅうのに、無理矢理入ってきよってな。こっちは良い迷惑だ」

「なるほど。これはその時に出来たのか」


 アヴィンは横を見る。


 壁の一部が崩れ、外から丸見えの状態になっていた。

 砲弾でも撃ち込まれたかのように、瓦礫が中に向かって放射している。

 綺麗な白石が無残な状態でさらされていた。


「それも後で請求しとくさかい」


 ナリィは容赦なく付け加える。


 アヴィンは肩をすくめるしかなかった。


「で――?」

「で――って?」

「あほ! 天丼はええねん。何が起こったかぐらい話せや。それで少しは諸費用まけたる」

「ロハにはならないんだね」

「タダより怖いもんはないで……」


 ナリィは目を刃のように細める。

 口角を上げ、不気味に笑った。


 アヴィンは自身の二の腕をさする。

 顔を天井に向けた。

 光精霊を閉じ込めた豪奢なシャンデリアが強い光を放っている。


「さて、どこから話したらいいものか」

「あんたがここに担ぎ込まれる少し前、西の方で嫌な気配がした。あまりに気分悪くて、目覚めるぐらいのな。しかも、胸くそ悪いのに、どこか懐かしいんや」

「…………」

「うちは大神官ナリィ。モントーリネ様の下僕(しもべ)にして、神の口を借りるもの。偽証は許さんで」


 杖を突きつける。


 アヴィンは穏やかに微笑んだ。


「嘘を吐くつもりはないよ」

「じゃあ、ぱあっと言いや。……魔王はもう――。復活しとるんちゃうか?」


 部屋に空いた穴から、ぬるい夜気が迷い込む。


 アヴィンの黄金色の髪を揺らし、ナリィの司祭服を翻した。


 地平に光の線が広がる。空が青ざめようとしていた。

 ほのかに外が明るい。


 永遠に続くかという沈黙は、アヴィンによって断たれた。


「魔王は復活していない」

「ほんまか?」

「そもそも」

「……?」

「魔王という定義すら難しいんだよ」

「は?」


 かつての仲間の言葉に、ナリィは呆気にとられる。


 アヴィンは突きつけられた杖を自らの手で下ろした。


 しっかりと神官の前に身体を向ける。


「わかった、ナリィ。君に話すよ、真実を」

「真実?」

「そうだ。君が書いた【大戦史】に載っていない。本当の真実……」

「――!」


 ナリィは息を呑んだ。


 アヴィンはその顔を愉快そうに見つめ、口角を上げた。


 そして話し始めた。


 400年前。魔王を封印した時のことを。




   ※    ※    ※    ※    ※    ※    ※




 コンコン……。


 ノックが鳴る。


「誰や」


 ナリィは扉に振り返る。


「リコよ。朝食を持ってきたわ」

「ああ。そうか。ご苦労さん。入りぃ」


 ナリィは手をかざした。

 すると、大きな扉が開く。


 入り口に立っていたのは、少女だった。

 両手にトレーを持ち、中に入ってくる。


 アヴィンは思わず息を呑んだ。


 自分と同じ黄金色の髪。

 いや、もっと柔らかい色合いだ。


 白い肌。夜明け前の空を思わせるような瑠璃色の瞳。


 その姿は超然として、まさに天使を思わせた。


 だが、どうやら不機嫌らしい。

 入ってから、いや入る前からどこか仏頂面だ。

 先ほどの言葉も、洗練されていないというより、何かに怒っているように見えた。


「なんだ。起きてるじゃない」


 リコと名乗った少女は、トレーをベッドに置いた。


 振り返って、ナリィを見つめる。


「ばーさんも来てるなら、食事ぐらい運んだら。朝は何かと忙しいんだし」


 ムキィ!!


 ナリィのこめかみに青筋が浮かぶ。

 瞬間、リコの脳天を杖で叩いた。


「ちょっと痛いじゃない、ばーさん! 杖で殴られたら、痛いって子供の頃に教わらなかった? それともボケ? 更年期?」

「やかましわ! このクソチビ猿娘! 誰にばーさんいうてんねん!! これでもうちは“大神官”様やで」

「悪かったわ。“大商人”様」

「あほぉ! そのネタはもう使ったわ、ボケ! もっとボキャブラリー増やして出直してこい、クソビッチ娘!!」

「あんたこそ、さっきから“クソ”しかいってないじゃない! 金を増やすより、語彙を増やしたらどうなの、この金の亡者が!」

「いい加減、その口ふさがんかったら、糸を持ってきて縫い付けたる!」

「裁縫なんて出来ないくせに。金の勘定しか脳がないから、好きな男にフラれて、その年で独身なのよ」

「あほ! これでもうちは努力――」


 ナリィは腕を振り上げた状態で固まる。

 みるみる白い顔が、赤くなっていった。


 リコは手を添える。

 邪悪な笑みを浮かべた。裂けた口から、今にも「おほほほ」とお上品な笑声が聞こえてきそうだ。


「あら。図星……? もしかして……?」


 リコは視線をアヴィンに向け――。


「やかましい! それ以上何か言ったら、祈りの言葉を1万回写経させんで」


 ナリィはリコの顔を掴み、自分の方へ向けさせる。

 顔面を青筋だらけにした大神官が、悪魔のように睨んでいた。


 リコは大人しくなる。

 が、顔は笑っていた。


 すると。


「ぷくくく…………。あははははははははははは」


 軽やかな声が聖堂内に鳴り響く。


「いやー。なかなか愉快なシスターだね」

「シスターちゃうちゃう。ここで預かってる子供や。ま、最近シスターの真似事をさせてるけどな。性格がこんなんやから、えらい苦労しとるわ」

「がさつっていうなら、大神官様も十分がさつだと思うけど」

「やかましい……」


 ナリィがたしなめる。


 リコはアヴィンに近づくと、小さな子供に合うように作られた特注の修道服の袖を摘まんだ。


「リコよ。よろしくね、お兄さん」

「僕はアヴィンだ。よろしくね」

「アヴィンね。ありきたりだわ」

「はは……」


 アヴィンは苦笑する。


 400年経った今でも、勇者にあやかって子供に“アヴィン”という名前を付けたがる親は多い。目の前の男はそういった被害者の1人だ。リコはそう考えたのだろう。


 まさか本物とは思うまい。


「あなた、強いでしょ。やっぱ勇者候補なの?」

「まあ、そんなところだよ」


 アヴィンはちらりとナリィの方を見る。

 フーと息を吐き、肩をすくめていた。


「じゃあ、わたしのパーティに入らない?」

「君の?」

「そうよ」

「えっと……。失礼だけど、何歳?」

「7歳よ」

「へぇ……」

「で、返事は?」

「10年後なら考えるよ」

「そう。なら決まりね」


 さも決まったかのように、リコはふんぞり返った。


「心配しないでいいわ。10年後、わたしはきっと強くなってる。“最強の神官”って言われるぐらいに」

「そこの大神官様よりも」

「もちろんよ。大商人なんか負けないわ」

「リコ。もうええやろ? はよぅ朝のお勤めに戻りぃ」


 扉を指し示し、ナリィは退室を促す。

 リコはパンと音を立て、拝み手で謝る。


「ごめんね。あなたと楽しく会話したから、大商人様が嫉妬したみたい」

「リコ。あとでうちの部屋へ来ぃ。みっちりお説教くらわしたるさかい」

「大神官様は冗談も通じないのかしら。……じゃあね、お兄さん。10年後に会いましょう」


 少女は小さなウィンクをする。


 そして金髪を翻し、部屋の外へと出て行った。


「やれやれ……。誰に似たんだが」

「7歳か」


 腰に手を当て、呆れ返るナリィの横で、アヴィンはぼんやりと呟いた。


「あんた、まさか……。あんなちんちくりんがいいんか?」

「な! 何を言っているんだい! 僕はエーデ一筋だよ! ただ――」

「ただ――」

「同い年なんだなって思ってね」

「…………。それってさっきの話(ヽヽヽヽヽ)にあった預かってるって子供か」

「うん……」

「そうか」


 ナリィは壊れた壁から外を見つめる。


 すでに地平線から太陽が顔を出し、強い朝日が部屋を照らしていた。


「戻ったらエーデに言っとき」

「なんて?」

「子育てでわからないことがあるんなら、うちに相談せぇって」

「助かるよ。でも――」

「でも――なんや?」


 アヴィンは俯く。

 転がっていた壁の残骸を見つめた。


「自分の息子が金にうるさくなるのは嫌だな」


 ナリィの顔が赤くなる。


 そして四度よんたび、杖を振るった。


過去キャラ出てくると、ちょっとドキドキします。



次回更新は12月17、18日の予定です。


新作ともどもこちらもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました。↓↓こちらもよろしくお願いします。
最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ