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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第38話 ~ 大神官ナリィ……。 ~

今週もよろしくお願いします。

第3章第38話です。

 巨大イノシシとヤマアラシを混合させたようなモンスター。


 側にはその子供らしき幼体が鳴いている。


 そしてそれらの鼻頭が向けられた先にいたのは、マサキと同い年ぐらいの少年だった。


 それが――茂みをかき分け、いきなり目に飛び込んできた光景だった。


 マサキは絶句する。

 状況を飲み込もうとして、目を大きく広げた。


 それでも頭の中は真っ黒だ。

 色々な情報が錯綜しすぎて、頭の中のホワイトボードは真っ黒に塗りつぶされていた。


「どういう……」


 言葉を絞り出すのが精一杯だった。


 混乱する少年を余所に、トーバックは一歩踏み出す。


 切り株のような太い足が、着実に男の子に向かっていった。

 男の子はぐったりとしている。

 じゃがいも(テレサ)頭を傾け、木に寄りかかっていた。


 当然、寝ているわけではない。

 気絶している。

 もしくは――。


「ミュース!!」


 あらん限りの声で叫んだ。

 不安を振り払うように。


 ミュースは反応しない。

 近くに彼の木剣(あいけん)が転がっている。


 背後に現れた少年に目もくれず、トーバックは突き進む。

 虹彩のない瞳は赤く光り、眼前の少年にしか興味がないといった様子だった。

 鼻から息を吐き、ごふごふと声を上げた。

 レガニルと同じく後肢で地面を掻く。


 しなやかなレガニルの足とは違い、トーバックの足はひたすら太い。

 また違う迫力があった。


 感嘆している場合ではない。


 ――助けなきゃ!!


 心に決めるが、マサキは動けずにいた。


 ――でも……。


 もう1人の自分が反論する。


 トーバックを見つめた。

 傍らにいる幼体も視界に入れる。


 あれはトントンとその親じゃないのか……。


 推測がマサキを躊躇わせる。


 ――違う……。トントンのママじゃない。


 そう。

 トントンのママは勇者候補との戦いがで半死半生の傷を負ったはずだ。

 皮膚が黒くなるほど電撃を浴びていた。


 よく観察すると、今目の前にいるトーバックの皮膚は黒くない。

 元気にも見える。


 それでもマサキは躊躇う。


 もし、ここでこのトーバックを撃てば、どうなるか。

 あの幼体も殺すのか。


 自分がここまで来る時に出会ったモンスターのように。

 レガニルやアモカプラ、ディパットのように。


 たとえ見逃したとしても、あの幼体は生きていけるのだろうか。

 他のモンスターの餌になるかもしれない。

 勇者候補のストレス解消になるだけでの慰み者になるかもしれない。


 そもそもあれがトントンでない保証などない。


 様々な思考が、7歳の少年の頭の中で交錯する。


「ぶおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 トーバックが咆哮したのはその時だった。

 マサキの頭の中のものを、すべて吹き飛ばすような雄叫び……。


 瞬間、意志は固まった。


 ――あれは……。モンスターだ……! モンスターなんだ!!


 深く集中する。


 掲げた手の平の先に、魔力が集まっていく。


 大きく息を吸い込み、高らかに呪唱する。

 それだけで、勝負が決まる。


 その瞬間だった。


「トントン……」


 声が聞こえた。


 目だけを動かす。

 木に寄りかかるように立っていたのは、アニアだった。


 ――なんで、ここに?


 いや……。

 今はそんなことよりも――。


 トーバックがミュースに向けて突進した。


 マサキは構え直す。

 そして詠唱した。


 【風斬りの鎌】バフ・ヴィン!


 咄嗟の一撃――。

 風の刃は、少年の心中を表すかのように乱れた。


 ――しまっ


 悔いた時には遅い。


 トーバックの身体が3つに切り刻まれる。

 巨大なヤマアラシのモンスターは、悲鳴も上げず絶命する。勢いが残った身体は、地面を滑り、四散した。


 さらに刃は幼体のトーバックに襲いかかる。


「やめて!」


 マサキは叫ぶ。


「みゅ」


 小さな声が上がる。

 悲鳴なのか。

 はたまた驚いただけったのかわからない。


 ただ――もうすでにその時には、幼体の首は宙を飛んでいた。


「――!!」


 どさりと草原(くさはら)に落ちる。

 鼻と耳、目だけが残った幼体の首から血が滲むように広がっていく。


 つぶらな瞳は目の前にいた少女をじっと見ていた。


 息を呑む。


「いやあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


 長い悲鳴が上がる。

 そしてふっと魂が抜けるように、少女はその場に倒れた。


「アニア!」


 マサキが一歩近づく。

 しかし、意志とは裏腹に腰をすとんと下ろした。


「あれ?」


 動けない。

 足に思いっきり力を入れたが、立つことが出来ない。

 膝が笑う。

 手を見ると、ぐっしょりと汗で濡れていた。


「な、に……」


 何が起こっているのかわからない。


 わかるのは、たった今マサキがモンスターを殺したこと。

 トーバックとその幼体を。

 それを見て、アニアが倒れたこと。


 ――ボクは何をしているんだ……。


 考えようとしている。なのに考えられない。

 考えれば考えるほど、頭の中が白くなる。


 ――そうだ。ミュースは?


 マサキは振り返った。


 気が付いた時には、数人の大人が周りを取り囲んでいた。

 武装をしている。おそらく勇者候補だろう。


 先ほどからマサキに問いかける声が聞こえる。

 だけど、ひどく意味をなさない言葉だけで、理解が出来ない。


 ひたすらミュースの方を見た。見続けた。


 木の根に寄りかかるようにして倒れた仲間に、1人の神官が近づいていく。

 マサキの怪我を治してくれた――あの女性神官だ。


“ミュースは?”


 声にしようとしたが、壊れた楽器みたいに喉が仕事をしない。


 女性神官はミュースに手を当て、治癒魔法をかける。

 懸命に――。何度も何度も……。

 しかしミュースが瞼を開けることはなかった。


 女性神官の側に、別の勇者候補が近づく。

 細い肩に手をかけた。


 そして首を振る。


 何かを言った。


 マサキはその唇を読んだ。


『もうダメだ』


 そう言っているような気がした。

 いや、気がしたのではない。


 そう――言ったのだ。



『……おいらは魔剣士だけどな』



 不意にミュースの言葉が聞こえたような気がした。


 じゃがいも(テレサ)頭の少年が――その笑顔が、脳裏に繰り返し映された。


「ミュース……」


 自然と呼んでいた。

 仲間の名前を……。

 そうすると、ひょっこり木の陰から現れそうな気がした。


 けど、一向に姿を見せない。


 特徴的なじゃがいも(テレサ)頭が、マサキの前に現れることはなかった。


 女性神官に抱えられていたのは、土くれ色をした少年だった。


「ミュース……」


 マサキはまた名前を呼んだ。

 何度も何度も。


 地面に水滴が落ちる。


 救助に来た勇者候補たちが、天を仰いだ。


 雨だ。


 村に降るのと変わらない。

 マサキのハウスで見るのと変わらない雨が、ダンジョンを打ち付ける。


 四つん這いになり、マサキは蹲る。

 嗚咽を殺し、少年は身体を振るわせる。


 小さな背中に打ち付ける雨は、少年を責めているように見えた。




   ※    ※    ※    ※    ※    ※    ※




 いくつもの柱が立ち並ぶ廊下を、1人の司祭が歩いていた。


 廊下と表現したが、もはや巨大な広間といってもいい。

 白亜の石が積み上げられた壁。

 天井は可視できないほど高く、空気は静謐に満ちていた。


 精霊を閉じこめた魔法石が、空間内をほのかに照らしている。

 他に何があるというわけではない。

 故に、それはただ空間と空間をつなぐ廊下でしかないと判断できた。


 司祭の姿も普通ではない。

 真っ白な(メザー)に、金の打ち掛け。

 手には宝石や白金であしらわれた杖。よく見ると、マサキがいた世界にあった『算盤(そろばん)』のようなものがあしらわれ、しゃらしゃらと音を鳴らしている。

 変わった杖はともかく――出で立ちから明らかに身分の高い者を思わせた。


 司祭は女だった。

 熊――というより、どこかアザラシを想像させるずんぐりとした体躯。

 色白で、血色がよく、健康的。

 やや頬の肉に圧迫された目は細いのだが、やらしさを感じさせることはない。逆に大きく、つり上がった口と相まって、常に笑っているようにも見える。


 人の良さが顔に表れているのだが、お世辞にもその体躯は、ぽっちゃりと表現するには厳しい採点をせざる得ない。


 有り体にいえば、おそろしく肥えていた。


 司祭は大きな扉の前で立ち止まる。

 巨人すら通れそうな両開きの扉だ。


 持った杖で、2回叩く。


 それが合図であったかのように、開いていった。


 眩いばかりの光に包まれる。

 同時に冷たい夜気が入ってくる。司祭のローブははためいた。


 目を慣らした後、中に入る。


 部屋には1台のベッドが置かれていた。

 周りの壁と同じ白い石で出来ている。


 ベッドに1人の男が寝かされていた。

 半裸の身体には、たくさんの傷がついている。引き締まった身体は、鋼のようだった。


「なんや。やっと起きたんか、アヴィン」


 独特のニュアンスの言葉で、司祭は問いかける。


 男の目が開いた。

 緑色の不思議な光を帯びている。

 むくりと上半身を起こし、光で出来たような黄金色の頭を掻いた。


 司祭の方を見て、アヴィンは笑った。


「やあ……。久しぶりだね」



 大神官ナリィ……。


ちょこちょこ話の中に出てきたナリィが登場しました。


明日18時に投稿しました。

よろしくお願いします。

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