第37話 ~ 戦う覚悟が出来ている。 ~
第3章第37話です。
よろしくお願いします。
――すごい!!
少年は歓喜した。
魔法を放ち、あるいは掌底を穿ち、時に攻撃を見切っていく。
モンスターの動きがよく見える。
身体が羽根のように軽い。
結果、先に動くことが出来る。
夜だから――視界が悪かったから、モンスターの動き見えなかった?
昼間だから弱体化しているのか?
それとも単純に自分が強いのか?
アニメの主人公のように、極限の緊張と集中を乗り越え、パワーアップしたのか?
疑問は尽きない。
幼い少年が、立ちふさがるモンスターを圧倒していく。
それが真実だった。
森の奥へ向けて、一直線に駆けていた少年の動きが止まる。
目の前に現れたモンスターを見て、気を引き締めた。
現れたのは、大翼をはためかせた巨鳥3体。
そして紫色の大きな身体の馬型のモンスターだった。
少年はふと思い出す。
それは友達の言葉だった。
『大きな鳥みたいなのはアモカプラ。確かE級だな。馬みたいなヤツはレガニル。あっちはD級だけど、とても凶暴なんだ』
――あの時の編成と一緒だ。
“あの時”。
それはマサキたちがダンジョンに入ってまもなく。
勇者候補たちの姿を初めて認めた時のことだ。
覚えている。
勇者候補はアモカプラ、レガニルの2種類のモンスターと対峙していた。
そして圧倒的な強さで、勝利したのだ。
レガニルの馬頭が下がる。
蹄で地面を掻いた。
アモカプラも大きな嘴を開き、耳障りな鳴き声を上げている。
仲間とコミュニケーションをとっているように見えた。
戦闘態勢は整った。
そんな印象だった。
対してマサキは何もしていなかったわけではない。
きちんと構えをとった。
魔法を使う準備を整える。
すでに集中した。
――不思議だ……。
胸中で呟く。
自然と戦うことの準備を整えていた自分に驚いた。
はじめてレガニルを見た時、心の底から恐怖を感じた。
立っていることすら困難だった。
なのに今は、考えるまでもなく。
戦う覚悟が出来ている。
先手をとったのは、アモカプラだった。
ぎゃぎゃ、と耳障りな声を上げる。
巨鳥たちは別れ、三方から襲いかかってきた。
【風斬りの鎌】バフ・ヴィン!!
手の平から風の刃を射出する。
真っ直ぐに放たれた刃は、正面のアモカプラの翼をもぎ取る。
無翼の鳥は体液と悲鳴をまき散らす。
あっさりと墜落――。嘴から地面に突っ込んだ。
まず1体……。
マサキが気を緩めることはない。
すでに少年の思考は2体目、3体目に向けられていた。
集中……。
左右からアモカプラが迫る。
嘴の唾液が糸を引いた。
ジャッ!
鋭い音が響く。
1匹のアモカプラの頭が胴から離れた。
地面を抉り、同じく墜落。
まだ1体の残っている。
少年は集中している。
アモカプラが直前に迫り、子供の頭に嘴を向けた。
直後、縦に割れる。
先端から尾の方まで真っ二つに切り裂かれた。
アモカプラは惰性のまま少年に突っ込んだ。
2つになった胴が、マサキの前後を通り過ぎていく。
末期の悲鳴も上げず、落下した。
頬にかかった体液を拭う。
顔をしかめた。汚物を含ませた雑巾みたいな臭いがした。
翻る。
レガニルがこちらを向いていた。
馬頭を上げ、「ばふふふうううぅううぅ」と嘶く。
ビリビリと空気が震えた。
巨馬が威圧していることがわかった。
それでも少年は冷静だ。
ゆっくりと構えを取る。
手の平をモンスターに向け、腕を伸ばし、反対の手で固定した。
レガニルが蹄を掻く。
ぶるるる、と荒々しく息を吐き出した。
――来る……!
殺気が膨れ上がるのを感じる。
瞬間、砲弾で撃ち出されたかのようにレガニルは走り出した。
いや、走ったというよりは、跳躍したという表現の方が近い。
後ろ足を蹴り出し、馬体が飛んできた。
【風斬り…………。
最後まで詠唱する間もない。
迎え討とうとした思惑が見事に崩れた。
マサキは回避する。
チッ!
少し遅れた。
肘の先がレガニルの足に当たる。
少年の軽い身体はただそれだけで吹き飛ばされた。
地面を滑り、太い木の根にぶち当たり、止まった。
「――――!」
衝撃で肺の空気が押し出され、マサキは呼吸が困難になる。
目の前がチカチカした。
悲鳴すら上げられない状態で、痛みに耐えながらも少年は立ち上がる。
顔を上げると、レガニルが見下ろしていた。
大きな蹄が振り下ろされる。
マサキは転がりながらなんとか回避に成功する。
――一旦距離を取って……。
と考えてから、はたと引いた足を止める。。
――ダメだ。距離を取られる方がまずい。
先ほどの攻撃を思い出す。
回避できないわけじゃないが、連続で繰り返されれば打つ手がない。
動き回りながら、細かい魔法操作はまだ難しい。
加えて、素手でダメージを与えることが出来るほど、レガニルの身体は柔じゃない。
レガニルがマサキの方に馬頭を向けた。
マサキも巨馬を見上げる。
今さらだが、やはり大きい。
少し恐怖が戻ってきたのかもしれない。
手がしびれているの感じる。
レガニルの蹄が地面を掻いた。
――また来る!!
そう思った時には飛んでいた。
今度は完全回避に成功する。
振り返った。同時にレガニルが木に突っ込んだのが見えた。
モンスターの足が止まる。
――いまだ!
【風斬りの鎌】バフ・ヴィン!!
好機を見逃さない。
風の刃が巨馬に襲いかかった。
魔法の攻撃にレガニルは敏感に対応する。
頭を振り、咄嗟に避けたのだ。
「避けた!」
思わず叫んだ。
レガニルが反撃だといわんばかりに蹄を掻く。
「来る!!」
馬の砲弾が飛んできた。
マサキもかわす。
側の木に突っ込んだ。
「零距離なら!」
手をかざした。
よけた反動で態勢は不十分――。
しかし、高らかに叫んだ。
【風斬りの鎌】バフ・ヴィン!
パンと音がした。
何かが吹き飛び、空中でくるくると回転する。
体液をまき散らし、辺りの黒葉に飛び散った。
側にいたマサキの身体にもかかっていた。
その少年は呆然と見つめている。
米俵が落ちたような音がした。
見ると、レガニルの首が転がっていた。
赤い瞳に生気はない。しかし、恨みがましく敵対者を見つめているように思えた。
遅れて馬体が崩れ、倒れる。
大量の粉塵がダンジョンに広がった。
「ふぅ……」
息を吐く。
小さな尻を地面につけた。
倒した……。
D級のモンスターを倒したんだ。
手の平を見た後、ギュッと握り込んだ。
「――――――!! ――――――――!!!!」
得も言えぬ達成感に、少年は歓喜するのだった。
再びダンジョンの中へと進んでいく。
体液は近くを流れていた小川で洗った。
放っておくと、モンスターが集まってきてしまう。
負ける気はしないが、未知のモンスターは多い。
どんな攻撃を仕掛けてくるのか把握できない以上、戦闘は極力さけたい。
ぼろぼろの服も上半身を破り捨て、マサキは半裸のまま前に進んだ。
時だった。
「え――」
息を呑む。
そんな光景が目の前に広がっていた。
今週はここまでです。
いよいよクライマックス。楽しみにしていて下さい。
次回は12月10、11日に更新予定です。
よろしくお願いします。




