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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第36話 ~ ボク……。強くなってる?

今週末もよろしくお願いします

第3章第36話です。

「ミュース!!」


 バッズウは教会の扉を強く押し出した。


 観音開きの扉が開け放たれる。

 薄暗い玄関に光が入り込んだ。


 辺りをうかがいながら、バッズウは中へと入っていく。

 その後ろにマサキが続く。


「ああ! バッズウだ!」


 ひょこっと廊下に顔を出したのは、年下の教会の子供だ。

 1人が顔を出すと次々と現れ、遊戯房から出てきた。


「帰ってきたんだ!」

「マサキもいるぞー」

「ねぇねぇ、ダンジョン行ったんでしょ?」

「どんなとこどんなとこ?」

「モンスターいたぁ?」

「こわくなかった?」


 矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。

 子供たちは増える一方だ。

 次々とバッズウやマサキのボロになった服を引っ張る。


「待て待て。落ち着け、お前ら!」


 一喝する。


「それよりも、ミュースを見なかったか?」


 バッズウより頭1つ小さな幼年組は、お互いの顔を見合わせた。

 そして示しを合わせたかのように、首を振る。


「知らないよ」

「見てない」

「ミュース、どうしたの?」

「いっしょに行ったんじゃないの?」


 また質問の集中砲火だ。


 埒があかないと悟ったバッズウは、幼年組を押しのけ教会の中を探し始める。


 マサキも手伝った。


 しかしどこにもいない。

 寝房はおろか、台所にも屋根裏にもいない。


 そんな時、息を切らしてアニアがやってきた。


「アニア、裏庭はどうだった?」

「ダメ! ミュース、いないよ」

「納屋は?」


 マサキの質問に、ミュースは首を振った。


「あいつ、どこ行ったんだ?」


 バッズウは顎を手に当て、首を傾げる。


 その横でマサキは暗い顔をしていた。

 なんとなく察しがついていたからだ。


 やがてゴッツがやってくる。


 息を切らしていた。

 村の中を探してもらっていたのだ。


 ゴッツは大きく深呼吸した後。


「ミュース、いない」


 シンプルに告げた。


 遅れてミルもやってくる。

 老婆も息を弾ませていた。


「今、大人達に手伝ってもらって、村の中を探してもらってる。なあに、大丈夫さ。じきに見つかるさ」


 ――どうかな……。


 マサキは心の中で反論する。


 ミルもおそらく理解している。

 最悪の結果を無視し、楽観的な言葉をかけて、子供たちの気を引いているのだ。


 それはやや影の差した表情からもわかる。


「ボクたち探そう」

「――だな」

「ミュースは仲間だもんね」

「あんたたちは休んでなよ」

「大丈夫よ、ミル。ミルの顔を見たら、疲れが吹っ飛んじゃった」


 アニアが手を振り、バッズウとマサキ、ゴッツとともに教会を出て行った。


 しばらく4人で走っていると、マサキは提案した。


「手分けして探そう。その方が早いよ」

「そうだな」

「わかった」

「いいわ」


 仲間たちは次々に同意する。


 マサキは――少しだけ心が痛んだ。


 3人の姿が見えなくなった後、マサキは足を向ける。


 村の入り口だ。

 道すがら、ミュースを探す大人達がいた。


「なんで教会の子供を探すのに、こんなに大騒ぎしなきゃいけないんだ」

「ああ。全くだ」

「今日は急ぎの仕事があるのに。保証してくれるんだろうな」

「いい迷惑だぜ」

「いっそモンスターに食われちまったら良かったんだ」


 不平不満が否応でも聞こえてくる。


 複雑だった。

 ダンジョンに行ったのは、教会の子供の地位向上だったはずだ。

 しかし、結局迷惑をかけることになってしまった。


 教会の子供たちに。

 マサキと同じく本当の親と会えない子供たちに。

 なんの罪もない子供たちに、大人が罵詈雑言を浴びせている。


 マサキは思った。


 ――ボクたちがやったことってなんだったんだろ。


 意味のないことだったのだろうか。

 ただ仲間を危険にさらし、多くの人に迷惑をかけただけじゃないのか。


 マサキは首を振る。


 ――今はよそう!


 自分にはやることがある。


 ミルは背負うなと言った。

 確かに間違いかもしれない。

 不要なことかもしれない。

 子供の自分が背負い切れるものではないかもしれない。


 でも、たぶん勇者ならそうすると思う。


 少なくともマサキが知る勇者なら。




 マサキは村の入り口にたどり着く。


 2人の門兵が立っていた。

 マサキが出て行こうとすると、止められる。


「ちょっと、君」


 持っている槍を突きつけられることはなかったが、門兵の1人が声をかけた。


「村から出てはいけないよ」

「おい。この子、ダンジョンに入った」


 もう1人がマサキを指さす。


「ああ……。あの子か」

「あのね」


 マサキは振り返る。

 上目遣いで、お菓子をねだるように言った。


「あのね。神官さんにお礼が言いたいの」

「神官?」

「ボクの傷を治してくれたんだ」

「ああ。協力してくれてる勇者候補か」

「そう。その人! たぶん、近くにいると思うんだ」


 実はミュースの捜索はすでにダンジョンの中に及んでいた。

 勇者候補のパーティが数組、中と外で手分けして探している。


 村の入り口からも、数人の勇者候補がダンジョンの周りをうろついているのが見えた。


「ミュースを探し終えたら、その人どこかへ行っちゃうんでしょ?」

「まあ、たまたま村に逗留していた勇者候補だからな」

「だったら、今のうちにお礼がいいたいんだよ」

「そんなこと言って、君。またダンジョンに入ろうとしているんじゃないだろうね」


 門兵が睨む。


 一瞬、身体が震えそうになるのをなんとか抑えた。


「そんなことをしないよ。ダンジョンで怖い思いをしたんだ。もうあんな体験こりごりだよ」

「まあ……。そうだろうな」


 怖い顔をしていた門兵の顔が緩む。


「わかった。行ってきな」

「おい。いいのか?」

「周りには勇者候補がうろついてる。それにここからなら、ダンジョンも見えるし、何かあってもすぐ駆けつけることが出来る」

「けどよ」

「この子の言うとおりだよ。あんな怖い目にあって、またダンジョンに入るなんて、よっぽどの馬鹿か、根っからの勇者気質な人間くらいなもんさ」

「馬鹿だったら、どうするんだよ?」

「大丈夫だって。ほら、いきな」

「ありがとう。お兄さん」

「はは。お兄さんか。口が上手いね、君」


 おそらく40代後半といった門兵は鼻を掻く。


 マサキは一旦踵を返したが、すぐにまた向き直った。


「ところでミュースは見つかったの?」

「勇者候補のパーティが4組ほど手分けして探しているが、見つかってないよ」

「ダンジョンが広すぎるんだろうな。でも、もし1人でダンジョンに入ってたら」

「おい。よせ。子供の前だぞ」

「わかってるよ。そもそも教会の管理が甘いせいだろ」

「ごめんねぇ。こいつ、昔から口が悪くってさ」

「ううん。気にしてないよ。ありがとう」


 マサキは礼を言って、駆け出す。


 ダンジョンに近づければ、こっちのものだ。


 マサキは一直線にダンジョンへ向かっていく。

 近くで勇者候補が叫ぶのが聞こえたが、無視した。


 躊躇することなく、茂みの中へ飛び込む。


 入ってまず驚いた。


 ダンジョンが明るい。

 そのためか周囲がはっきり見える。


 苔がついた岩肌。

 青葉が茂り、枝が網の目のように頭上を覆い尽くしている。

 小さな虫の姿もあった。


 暗い森しか知らなかったマサキにとって、その光景は驚天動地だった。

 とても昨夜入ったダンジョンとは思えない。


 背後から足跡が聞こえる。


 勇者候補だ。

 捕まるわけにはいかない。


 ――ミュースはボクが見つける!!


 マサキは走り出す。

 その速さは、大人の勇者候補を置き去りにするほどだった。




 不思議と身体が軽い。


 心は緊張し、頭の中には嫌な予感しか浮かばない。

 なのに、いつも以上に身体が思い通りに動く。

 そんな気がする。


 神官が言っていた幻痛もない。

 けだるい感じもなく、むしろ傷を負う前より調子がいい。


「あれ……」


 マサキはスピードを緩め、やがて立ち止まる。


 後ろを振り返った。

 追跡しているはずの勇者候補の姿がない。


 ――諦めちゃったのかな?


 気配を探るが、それらしきものはなかった。


 辺りをうかがう。

 無我夢中で走ってきて、随分ダンジョンの奥の方へとやってきてしまったらしい。


 かさりと音が鳴る。


「ミュース!」


 思わず叫んだ。


 しかし、少年の予想は裏切られる。


 茂みの奥から現れたのは、野犬だった。


 むろんただの野犬ではない。モンスターだ。

 マサキは知らないが、バーダラという野犬型E級モンスター。

 身体の構造は犬と一緒だが、額部に宝石のような赤い目がついている。


 さらに茂みが揺れた。

 続々とバーダラが現れる。

 マサキを取り囲むように配置し、うなり声を上げた。


 ――5匹……いや。


 周囲に目配せしながら、少年は数をかぞえる。


 そして臨戦態勢をとった。

 あいにく武器はないが、拳がある。

 それに魔法も。


 モンスターに囲まれても、マサキは冷静だった。

 むしろ冷静であることが、モンスターと遭遇したことよりも驚くべきことだった。


 1匹のバーダラが遠吠えを上げる。


 まず4匹が一斉に襲いかかってきた。


 ――見える?


 バーダラの動きは速い。

 犬よりも段違いにだ。


 だが、少年はあっさりと目で追った。

 そして魔法の応戦を止める。


 軽やかにステップすると、1匹の犬の側頭に掌底を見舞う。


「きゃうん!!」


 異形の姿からは想像できない可愛い鳴き声を上げる。


 1匹仕留めた。

 しかし、バーダラの攻撃は止まらない。


 そしてマサキの動きも。


 バーダラの顎が上がる。

 獰猛な牙がはっきりと見えた。涎の筋が見える。


 マサキは見切り、ギリギリでかわす。


 同時に、腹に蹴りを入れた。

 バーダラは吹っ飛び、幹に叩きつけられる。

 そのまま舌を出したまま意識を失った。


 さらに回避と攻撃を繰り返し、残りの2匹も仕留めた。


 マサキは足を止めない。

 残りの1匹に詰め寄る。


 バーダラは戦意を喪失したのか、お尻を向けた。


「わかってるよ。いるのは(ヽヽヽヽ)!」


 マサキは呟く。


 足を止めた。

 瞬間、横合いから隠れていたもう1匹が飛び出す。


 伏兵ならぬ伏犬。

 おそらく本能に刻まれたバーダラ特有の戦術なのだろう。


 マサキはすべてを見抜いていた。


 バーダラの牙を見ながら、マサキは手をかざした。


【風斬りの鎌】バフ・ヴィン!


 風の刃が発現する。

 バーダラの身体を粉みじんにし、さらに吹き飛んだ。


「え?」


 マサキは驚く。

 いつも通り放ったはずだ。

 なのに、風の刃の威力は明らかに強くなっていた。


「きゃんきゃん!」


 可愛い鳴き声が響く。


 見ると、リーダー格のバーダラが逃げていった。

 おそらく今度は、本当に逃走したのだろう。


 マサキは犬の後ろ姿から目を切る。

 自分の手の平を見つめた。


「ボク……。強くなってる?」


 問いかける。

 しかし、誰も答えるものはいなかった。


マサキくん、戦闘民族説!


明日も18時頃に更新します。

よろしくお願いします。

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