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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第35話 ~ アヴィンなら、どうするか ~

第3章第35話です。

よろしくお願いします。

 ダンジョンの入り口付近。

 茂みが揺れる。


 無理矢理横倒しにされると、少年少女が顔を出した。


「やった! 出た!」


 アニアが歓声を上げる。


 マサキは顔を上げた。

 トーバックと初めて相対した一本松が見える。


 首を曲げると、村が見えた。

 朝餉の前だから、各所の家の煙突からは煙が見えるはずだが、今日はまばらだ。

 代わりに柵のすぐ向こうに人だかりが出てきた。


「おい! いたぞ!」


 誰かが叫んだ

 大人の声だ。


 数人の男達がやってくる。

 中には魔獣使いのポーラの姿もあった。

 トレードマークの司祭の帽子を押さえ、緑のマントを翻してやってくる。


「君たちよく無事だったね」


 ポーラは目を丸くしながら、小さな勇者達を見つめた。

 若干涙ぐんでいる。

 どうやら涙もろいらしい。


「ポーラおじさん。マサキくんが」

「わかってるよ、アニアちゃん。――誰か賢者か神官がいるかい? 回復の魔法を」


 森周辺を探索していた勇者候補に声をかける。

 幸い神官近くにいた。走ってこっちにやってくる。


「君たちは?」

「かすり傷程度だよ」


 バッズウが他の仲間の様子を見てから答えた。


「そうか。ああ、変わろう。ダンジョンの入り口のここじゃあ、危険だからね」


 バッズウとゴッツからマサキを預かる。

 背中に負ぶさると、他の大人達と一緒に離れていく。


 マサキはかろうじて動く首を曲げて、振り返った。


 夜明け前に見たダンジョンは、闇をかぶったように暗くおぞましかった。

 だけど、今は違う。

 朝日を浴びた青葉がキラキラと輝いて見える。


 色々なことがあった。

 モヤモヤすることもあった。

 危険で、実際怪我も負った。

 たくさんの反省すべきことがあった。


 それでもマサキの胸中に渦巻いたのは、充実した気持ちだった。


 ――バイバイ、ダンジョン。ボクが大きくなったら、また挑むことにするよ。


 心の中で、少年は手を振った。




「粗方終わったよ」


 マサキに“治癒”の神託魔法をかけてくれた神官は、そっと手を離した。


 むくりと起き上がる。

 身体のあちこちを見たり、触ったりしたが、神官の言うとおり粗方治っていた。

 若干跡が残るだけ。

 骨折も治ってるようだ。


「すごい……」


 思わず歓喜の声を上げる。

 神官はクスリと笑った。


「神託魔法ははじめて?」


 マサキは無言でコクコクと頷いた。

 少し顔が赤くなる。


 ストレートロングの髪に、青緑のパッチリとした瞳。

 なかなかに綺麗な神官だった。


「しばらくは幻痛が残って、身体がむくんで、重く感じたりするから。治ったからといって、無茶は厳禁だよ」

「えっと……。げんつうって?」

「急激に回復するとね。身体がまだ痛みが残っていると思って、痛い痛いっていう命令を脳――頭に出し続けるんだよ。特に若いと感覚が敏感だから、しばらくは痛みは残るだろうけど、ちゃんと治ってるだろうから安心して」

「ありがとうございます」


 マサキは頭を下げた。


「どういたしまして。といっても、ほとんど治ってたけどね。私は弱っていた人間の再生能力を戻しただけよ。でも、油断は禁物だけどね

「うん」

「モンスターにやられたの?」

「え? あ、そのぉ……」


 マサキは少し考える。

 ダンジョンで出会った勇者候補たちのことだ。

 思い切って尋ねてみた。


「神官のお姉さんも、勇者候補なんだよね」

「そうよ」

「お姉さんも、ストレスが溜まってきたら、弱いモンスターを倒したりするの?」


 神官はキョトンとマサキを見つめた。

 手を顎に当てて考える。


「私はしたことないわ。……でも、そういうことをする人はいると思う」

「それって良いこと? 悪いこと?」

「それが勇者候補として必要なら良いことかもしれない」

「そうじゃなかったら?」

「悪いこととも言い切れない」

「どうして?」

「勇者候補は魔王が復活した時に備えられた刃……。そのために点在したダンジョンを攻略し、自分たちを鍛えていくの。勇者候補の力量はどうあれ、結果的に弱いモンスターをいたぶる行為だとしてもとがめられることじゃない」

「そう……」

「でもね」

「――!」

「もしお姉さんがそういうのを見たら、たぶん止めると思う」

「どうして?」

「アヴィン様ならそうするかなって」

「え? お姉さん、アヴィンと会ったことあるの?」


 神官はまた声を上げて笑った。


「アヴィンが魔王を封印したのは400年前なのよ。会えるわけないじゃない。ああ――! それともそんな年齢に見えるのかしら、お姉さんは(ヽヽヽヽヽ)?」

「ち、ちがうよ!!」


 ジト目で睨む神官に対し、マサキは首が痛くなるほど横に振った。


 3度、神官は手を口元に当てて笑う。


「私が知っているのは、『大戦史』や英雄譚の中にいるアヴィン様……。私はね。何か迷った時、アヴィン様ならどうするかなって考えることにしているの。そうすると、案外すんなりと答えが見えてくるのよ」


 ――アヴィンなら、どうするか……か。


 神官の話を聞き、マサキは顔を空へと向けた。


 アヴィンならどうしただろうか……。


 今さらだが……。本当に今さらながら、マサキは相談すれば良かったと思う。

 自分は本物のアヴィンを知っている。

 空想の中の勇者ではなく、生者と語ることが出来る。


 当たり前のように側にいたから気づかなかったが、それはとても“すごい”ことなのだ。


 帰ったら訊こう。


 すべてを正直に話した上で。


 アヴィンならどうしたのか?


「マサキくんっていったっけ?」

「あ。うん……」


 神官によって唐突に思考を遮られる。

 マサキは慌てて頷いた。


「これだけは覚えておいてほしいの」

「……」

「モンスターはモンスターってこと。あれはね。私たちの理解の範疇外にいるってこと」

「それはどう――」



「バッズウ! アニア!!」



 しわがれた老人の声が、村の柵の内側から聞こえた。

 マサキは振り返る。


「「ミル!」」


 バッズウとアニアがシスター服を着た老女を見つけると、駆けだした。


 柵の前に来ると、2人は頭を下げる。


「ごめん。ミル」

「ごめんなさい。ミル」


 ミルは柵の内側から手を伸ばす。

 すると、2人引き寄せた。

 柵ごと、強く抱きしめる。


「よかった。本当によかったぁ」


 ミルは泣いていた。

 深い皺を伝い、涙が2人の子供の肩をぬらしていく。


 シスターの嗚咽を聞き、バッズウとアニアは呆気にとられる。

 最初こそ一体何が起こったかわからない表情をしていたが、次第に顔をくしゃくしゃにして泣き出す。


「ごめんなさぁあああああああい。ミルぅぅぅううう」

「ごめんなさああああい」


 2人は「ごめん」と連呼する。

 それでもミルも、バッズウもアニアも泣き止むことはなかった。


 マサキは立ち上がり、その輪に近づいていく。


 ミルは服がぼろぼろになった少年を見つけ、涙を拭いた。


「よかった。マサキも無事だったんだね」

「ミル。ごめんなさい」

「いいさ。いや、よくないけど……。あんたたちが無事なら」

「ボクがバッズウとアニアを誘って、ダンジョンに行ったんだ」


 マサキの告白に、ミルは「あ」と口を開けた。

 聞いていた周りの大人達も騒然となる。


 村人の興味はその一点だったからだ。


 何故、子供はダンジョンに行ったか……。


「違う!」


 ざわつく群衆の中で、子供の声が一際響いた。

 バッズウだ。


「そうよ! マサキくんは悪くない!」


 アニアも声を上げる。


「ダンジョンに行こうと言い出したのは、【小さな勇者団(ミロ・ダ・レオノ)】のリーダーである俺だ」

「トントンを森に返そうっていったのは、アニアだもん!」


 仲間達が口々に弁護している。

 横合いから現れたゴッツも、うんうんと頷いた。


「でも、ボクがもっと強かったら。みんな危険に合わせるようなことはなかった」


 1番悪いのは、自分の中途半端な強さ。

 それを過信した己の慢心だ。


「マサキ……」


 ミルの声に、マサキはハッと顎を上げる。


 とても暗い声だ。

 怒っていることは明白だった。


 マサキは一歩進み出る。

 ミルはアニアとバッズウから手を離した。


「ミル!」


 アニアは最後の弁護をしようとする。

 だが、シスターは取り合わず、ただじっとマサキを見つめた。


「マサキ」

「うん」

「ここに来た時、私はあんたらを絶対叱らないって決めてたんだ」

「え?」

「でも、前言撤回するよ。マサキ」

「うん」


 マサキは覚悟を決めた。

 ギュッと目をつむり、拳を握る。


 鉄拳制裁なんて覚悟の上だ。

 むしろ生ぬるい。

 教会の子供を危険にさらしたのだ。

 簡単に償えるものじゃない。


 その時だった。

 頬にざらりとした感触を感じる。

 何かはすぐにわかった。


 ミルの手だった。


 それは打ったというよりは、触ったという風に近い。

 世界一優しい平手打ちだった。


「嘘をついてはいけないよ」

「嘘なんかついてない。本当のことだよ」

「ああ。確かにあんたの言ったことは本当かもしれない。けどね。背負わなくていい罪を背負ってはいけない」

「でも……」

「おいで。マサキ」


 言われて、マサキは1歩踏み込む。


 ミルはマサキの頭を引き寄せた。

 アニアとバッズウの時のように、柵と一緒に抱く。


「ありがとう。マサキ」

「お礼なんて」

「いや。きっとあんたがいなかったら、アニアもバッズウも戻ってこれなかっただろう。守ってくれたんだろ、お前達を?」

「そうだよ。マサキくんがいなかったら、私たち戻ってこれなかったかも」

「すごいんだぜ、マサキ。俺より年下なのに魔法が使えるんだ」

「そうかいそうかい」


 ミルは楽しそうに2人の話を聞く。

 やがて、マサキの頭を撫でた。


「ほら、どうだい? 誰もあんたを責めたりしてない。だから、あんたも嘘をついてまで自分を責めたりしないでおくれ」

「……うん」


 マサキは泣いていた。

 老婆の胸にギュッと抱かれ、声を上げず涙を流した。


「まったく……。あんたたち親子は、血はつながっていないのにしっかり似たもの同士だよ。素直じゃないところとかね」


 ミルは「かかか」と笑った。

 マサキは涙を払い、ようやく顔を上げる。


「ミル……。エーデは」

「まだ来てないけど、もうすぐだろ。……まあ、覚悟はしな。援護射撃はしてやるから」

「……うん」


 想像するだけでゾッとしたが、少年の顔は笑っていた。


 会うのは怖い。

 でも、早く会いたいと思った。


 たった一晩会えなくなるだけで、こんなに心細くなるとは思わなかった。

 頭に突き刺さるような鉄拳の痛みが、今は懐かしい。


「ところで……」


 マサキを放し、ミルは周囲をうかがった。


「ミュースは一緒じゃないのかい?


 ………………………………………………………………。



「……え?」


というところで、今週は終わりです。

すいません。謝っておきます。


次回は12月3、4日に更新します。

よろしくお願いします。


明日『その現代魔術師は、レベル1でも異世界最強だった。』が更新されますので、

そちらもよろしくお願いします。

リンク先 → http://ncode.syosetu.com/n7907dd/

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