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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第25話 ~ 俺……。大きいぞ ~

第3章第25話です。

よろしくお願いします。

「みろ・だ・れおの……?」


 マサキはぼんやりと呟いた。

 本当の両親から受け継いだ黒目に、茶色髪のガキ大将が映る。


 傷がついた鼻をこすり、バッズウは少し得意顔だった。


「いい名前だろ?」

「え?」


 マサキはやや反応に困る。


「なあ……。やっぱやめようぜ、バッズウ」


 横で聞いていたじゃがいも(テレサ)頭のミュースが、息を吐く。


「いいんだよ。リーダーは俺だぞ」

「けどよ……。【小さな勇者団(ミロ・ダ・レオノ)】ってなんかダセェじゃん」

「え? そう?」


 反応したのはマサキだ。

 ミュースは続ける。


「それに……。【小さな(ミロ)】なんか弱っちいじゃん」

「いつか【大きな(フェザロ)】っていわれるぐらいのパーティになればいいんだ」

「…………」

「えっと……。パーティの名前は今度ちゃんと決めよう」


 バッズウとミュースがいがみ合う横で、マサキは話を進める。


「でも、さすがに危険だよ。ボクたちだけでこの子を返すなんて。それってボクたちだけで、ダンジョンに入るってことだろ?」

「マサキ……。チャンスなんだぜ!」

「バッズウ?」

「考えてもみろ。最近、この辺りをうろついているモンスターって前に柵の向こうにいたあのトーバックだろ? 多分、子供を心配してダンジョンから抜け出てきたんだ」

「そう、だろうね」

「つまり、この子を親元に返せば、あのトーバックはいなくなる。それってつまり、この村の危機を救ったってことだろ?」

「そうかもしれないけど……。でも、やっぱり――」


 バッズウはマサキの両肩を叩く。

 パンという小気味よい音が、裏納屋に響き渡った。


「マサキも知ってるだろ? この村で、俺たち教会の子供がどう思われているかって」

「え……。それは」


 真っ先に頭に浮かんだのは、カメレオのことだった。


 彼だけではない。

 教会の子供を白い目で見る人間は、少ないながらも村に存在する。

 それはや教会の運営が村の寄付でまかなわれているということもあるのだろう。


 村を歩いていれば、否応でも感じる差別と同情の目。


 バッズウたちは慣れているのか、遊んでいる時にはおくびも出さなかったが、やはり気にはしていたのだろう。


 いや、むしろ……。


 ダンジョンにいっても、その評価を覆したいという決意から見ても、積年の思いは次第に強まっていったのかもしれない。


「トーバックを教会の子供が追い返した……。それだけを聞けば、きっとカメレオや他の大人たちは俺たちを認めてくれる! だから、マサキ……。力を貸してくれ」

「でも……」

「それによー」


 やや間延びした声で割って入ったのはミュースだった。


「おいらたちがモンスターの子供を匿っているって知ったら、それこそ大目玉だろ?」

「あ……」


 マサキは絶句する。


「勇者どころか、この教会から追い出されて、本当に『こじき』になっちまうかもしれない。どっちみち、おいらたちでやるしかないだろ」

「ミュースの言うとおりだ。だから、マサキ! 力を貸してくれ! 俺たちだけじゃダメだ。けど、マサキがいれば」

「マサキくん……」


 子犬が鳴くような声を上げて、アニアは立ち上がる。

 ゴッツも倣い、マサキを見つめた。


 教会の子供でもなく、村の人間でもない。

 ハインザルドの住人ですらなかった少年は、しばし無言を貫いた。


 今一度、一同の顔を窺う。

 そこにあるのは、ただ強い“決意”のみだった。


 マサキは息を吐き、そして肩を落とした。


「わかったよ。行こう」

「マサキ……」


 薄暗い納屋の中が、途端明るい空気に満たされる。


 マサキは「本当は……」と呟く。


「本当はね……。ボク1人で行こうと思ってたんだ」

「――――!」


 緩んだ空気が一瞬にして、緊張状態へと引きずり戻された。


「じゃあ、マサキくん……。この子がモンスターだって」

「なんとなく、ね。だから、一刻も早く返さなきゃって思ってた」

「たった1人でか?」

「……うん」

「ずるいぞ、マサキ!」


 ミュースが口を尖らせる。

 だが、マサキは大声で抗議をはねのけた。


「それだけ危険なことなんだ! ダンジョンに入るってことは!」

「……マサキはダンジョンに入ったことがあるのか?」


 マサキは頭を振る。


「ないよ。でも、わかる。あの一本木の側で見たトーバック……。エーデよりも弱いとは思うけど……。でも、確実にボクなんかより強いはずだ」


 皆が絶句する。


 先ほどまで勇んでいたミュースも青ざめている。

 じゃがいも(テレサ)頭から、なすび(ザルナ)に変わっていた。


「もしかしたら……ていうこともあり得る。ミルや他の子供たちを一杯泣かせることになるかもしれない」


 マサキは手をグーの形にして、前に突き出す。


「それでも行くっていう人だけついてきて」


 少年の声は、それぞれの恐怖にナイフを突き立てるように広がっていった。


 しばらく誰も動かない。

 重い沈黙が流れた。


 ――そうだよね。怖いよね。


 誰だってそうだ。

 死にたくはない。

 誰かを悲しませたくない。


 けれど、きっと……。それでも……。


「マサキ1人なんかで行かせるか」


 突きだした甲に、手が置かれる。

 最初に置いたのは、やはりバッズウだった。


「それに俺が(ヽヽ)リーダーだからな」

「バッズウ……」


 驚きと感激の中でリーダーを見つめる。

 すると、さらに重みをかさなった。


 バッズウの手の上に白く可愛らしい手が乗っている。


「早くこの子をママの元に返さなきゃ」

「アニアはここにいた方が……」

「ダメ!」


 少女は強く否定する。


「仲間外れはイヤなの! それに……」


 アニアはちらりとマサキの方を見る。


「マサキくんのこと心配だし」

「俺はどうなんだよ」

「バッズウはリーダーでしょ」

「理屈があってねぇ。……それに気になっていたんだけど、なんで“ママ”なんだよ。パパかもしれないだろ?」

「ミルが言ってた。『母は強し』って」

「はあ?」


 バッズウとアニアが口論していると、不意に手が重くなった。


 アニアの小さな手に、大きな手が乗っている。


「…………」

「ゴッツ! あなたもついてきてくれるの?」


 アニアが歓声を上げる横で、ゴッツは頷いた。


「俺も……。このパーティの一員だから」

「【小さな勇者団(ミロ・ダ・レオノ)】な」


「俺……。大きいぞ」


 …………。


 皆が沈黙した。


 ぶは、とやがて吹きだした。


「確かに……。ぷくくく」

「これはもう1回考える余地があるんじゃないの? リーダー」

「いいんだよ。これは身体が大きいとかそういう意味じゃないから」

「わかってるよ、バッズウ」

「さて……」

「残ったのは……」


 皆が一斉に視線を向けたのは、いまだ手を重ねていないじゃがいも(テレサ)頭の少年だった。


「ミュース。怖いなら残ってもいいんだよ」

「こここ、怖くねぇし!」

「足が震えてるよ、ミュース」

「これは武者震いってヤツだ」

「意外と難しい言葉を知ってるんだな」

「う、うるせぇ!」

「ミュース」

「なんだよ、マサキ……」

「君はここに残った方がいい」

「おい! 待てよ! 勝手に決めるなよ!!」

「違うんだ、ミュース。聞いてよ」

「なんだよ」


 ミュースは偉そうに両腕を組んだ。

 アニアの指摘通り膝が震えている。


「もし、ボクたちが戻ってこなかったら、村の人に知らせてほしい。その伝令役を君に任せたい」

「伝令……?」

「ボクたちがいなくなっても、どこに行ったかしらなければ誰も探しようがないだろ?」

「確かに……」

「その重要な任務を君に任せたいんだ。それでいいかな、リーダー」

「ああ。頼むよ、ミュース」

「ミュース」

「…………」


 しばらくミュースは仏頂面で考えていたが、やがて小さく頷いた。


 マサキはそんな彼の腕を取る。

 皆が重ねた手の上に置いた。


「1つ約束してほしい。絶対に戦わない。モンスターに出会ったら逃げる。いいね」


 バッズウ。

 アニア。

 ゴッツ。

 ミュース。


 それぞれは思い思いの回数と角度で頷いた。


「じゃあ……。えっと……リーダー」

「よし! 俺たちの初クエストだ! 頑張るぞ!」



 おお!!



 少年少女の声と決意は、裏納屋の薄い天井を突き抜け、深い青空へと広がっていった。


さーて、次回から《ミロ・ダ・レオノ》の出立です。


次回は10月29、30日に更新予定です。

来週末もよろしくお願いします。


《蛇足》

もうすぐ10月も終わっちゃう……。

早く更新しなきゃ……。何を……?

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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