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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第24話 ~ 【ミロ・ダ・レオノ】の初クエストだ! ~

今週末もよろしくお願いします。

第3章第24話です。


 朝起きて、顔を洗う。


 朝食を食べて、少し休む。


 その後は、薪割り。

 エーデルンドとの組み手。


 昼食の後は、自由時間になる。


 虫を捕まえて遊んだり、本を読んだり、昼寝をしたり……。

 午前の組み手が気に入らない時は、エーデルンドと追加で組み手をしたり、ハインザルドのことを教えてもらったりもする。


 のどかな日常。

 7歳の少年にとって、退屈に思えるかもしれない。

 だが、ここは異世界だ。

 ボタン1つ湯を沸かせた現代世界とは違う。

 薪割り1つとっても、刺激的ことだった。


 今日、マサキは「本」を選んだ。


 アヴィンが推薦してくれた動物図鑑。

 自分の両腕よりも分厚い本が2冊。

 なかなかやりがいがありそうだ。


 マサキは腕をまくった。


 調べたいのは、むろん――あの“ヤマアラシ”だ。


 マサキよりも物知りなバッズウでも知らない珍しい動物。

 その正体を突き止めるため。


 いや……。少し違う。


 心の中で微細に残ったしこり。不安……。


 それを払拭するための確認作業だった。


 作業は熾烈を極めた。


 単純に種類が多いのだ。

 現代世界でも、膨大な量の動植物がいたが、それに匹敵する――いや、それ以上の種類が、ハインザルドに生息しているらしい。


 おかげで2日かかっても、まだ1冊目の図鑑の半分しか進んでいなかった。


「うーん」

「あんた、図鑑なんて見て。学者にでもなるつもりかい?」

「あひゃ!」


 いきなり後ろから声をかけられた。

 マサキは弾かれるように背筋を伸ばす。

 はずみで座っていた椅子から、ずり落ちてしまった。


 マサキはお尻の辺りをさすりながら、なんとか立ち上がる。

 主犯である保護者をキッと睨み付けた。


「エーデ、驚かさないでよ……」

「悪い悪い。よっぽど作業に集中していたんだね」

「……ま、まあね」

「で? 目当ての動物を見つけることはできたかい?」

「それが、ま――」


 言いかけて、マサキは口を噤む。

 慌てて弁解した。


「ちちち、違うよ。ただハインザルドにいる動物が気になっただけなんだ」

「ふーん」


 目を細める。

 明らかに疑っている。


「あんた……。なんか危険なことをしようとしていないかい?」


 ――ギクゥ!!


 思わず顔がつり上がりそうになるのを、少年は寸前のところで押しとどめる。

 筋肉を無理矢理動かし、笑顔を作った。


「や、やだなあ……。エーデを怒らせるより危険なことなんてしな――」


 ポカン!!


「うー」


 マサキは頭を抱えて蹲る。

 割れるような痛みだった。


 エーデルンドはやや腫れた拳に、ガンマンのようにふっと息を吹きかける。


「子供が生意気言ってんじゃないよ。見終わったら、元に戻しておくんだよ。一応、借り物なんだから」

「借り物?」


 初耳だった。


「ああ。仲間が持っていたのをアヴィンが借りパクしたんだよ」

「勇者が借りパクって……」


 マサキは苦笑する。


「アヴィンの仲間ってことは、勇者の仲間ってことだよね。どんな人?」

「うーん。どんな人ね……。一言でいえば、くそ真面目ってことかね」

「へー」

「絵がうまいヤツでね。ほら、それ――」


 エーデルンドは図鑑を指さした。


「図鑑に挿絵が入ってるだろ? その絵を描いたのって、その仲間なんだよ」

「え゛っ!?」


 自分でもびっくりするぐらいのど元から変な声を出た。


 無理もない。

 これほど分厚い図鑑なのに、すべての動物に挿絵が添えられていた。

 並大抵のことではない。


 図鑑を見ながら、マサキは感心していた。

 実は、なかなか作業が進まないのは、1枚1枚の絵が精緻で上手だったから。

 つまり、作業時間の大半が絵に見ほれるというものを含んでいたのだ。


 その作者が、アヴィンやエーデルンドの仲間だという。

 これほど驚くことはない。


「いつかこの人に会えるかな?」

「さてね。見つけるのは難しいだろうね。根無し草であっちこっち行ってるから」

「ねなしぐさ?」

「特定の住居を持たない人ってこと……」

「ふーん」

「まあ、時々ここに来たりするから、その時に挨拶をすればいい」

「うん!」


 マサキは元気よく頷いた。


 エーデルンドは洗濯かごを持って出ていく。

 ドアベルが揺れた。


 ホッと胸をなで下ろす。


 別に悪いことをしているわけではないが、やはり良心が痛む。


 マサキは前を向いた。

 椅子に座り直す。

 図鑑をめくり、作業に戻る。


 作業する少年の頭にちらついたのは、あの動物の姿。


 村の中で見つけた小さなヤマアラシ……。

 村の外で見た大きなヤマアラシ……。


 もし――と少年は自らに問いかける。


 心中にある推測が正しければ、それは間違いなく恐ろしいことだ。

 きっと見つかれば、大騒ぎになる。

 エーデルンドも怒るだろう。


 いや、悲しむかもしれない。


 絶対、イヤだ。

 もう誰かが悲しい顔をするのはイヤだ。


 だから、少年はエーデルンドに何も言わなかった。


 せめて確信を持てるまで。

 自分の力でなんとかしたい。


 自分は強くなった。

 上級生をあっさりとのせるほど。

 おそらく大人にだって負けないだろう。


「もう子供じゃないんだ、ボクは……。いつまでもエーデに頼ってばかりじゃダメなんだ」


 少年は呟く。


 その声はどこかで暗い影を落としたような気がした。




 7日後。


 マサキはエーデルンドに連れられて、村を目指していた。


「ふわー」


 大きな欠伸をする。

 目には少し隈が出来ていた。


「寝不足なら、寝ていればいいのに。無理してついてこなくてもいいんだよ」

「教会に行く日なんだからそういうわけにはいかないよ」

「だったら、図鑑なんて見てないで早寝すれば良かったんだ」

「わかってるよ。子供扱いしないで!」


 ちょっと強い調子でいう。


 ――言い過ぎたかな……。


 と反省したが、エーデルンドは少し肩をすくめただけだった。


 ギリギリだったが、図鑑を読破することが出来た。

 結果は芳しくない。


 似たような動物はいたが、完全に一致するものはいなかった。


 ますますマサキの推測が現実味を帯び始めた。


「ねぇ、エーデ」

「なんだい?」


 山々を見下ろせるほどの上空で、エーデルンドは振り返った。


「モンスターにも子供がいるの?」

「うん? ああ、まあ……いるね。それがどうしたんだい?」

「そう。ありがとう」

「?」


 我が子の様子を見ながら、エーデルンドは首を傾げる。

 そしてすぐ前を向き、風を切った。




 マサキの予感が当たったのは、教会についてからだった。


 ミルと軽く挨拶をかわし、いつも通りエーデルンドと別れた。


 するとバッズウが手招きしているのが見えた。

 側にはじゃがいも(テレサ)頭のミュースがいる。

 アニアの姿はない。


「?」


 マサキは首を傾げながら、近づいていく。


 バッズウは挨拶もそこそこに手を引いて、今は使われていない裏納屋へとやってきた。小さな勇者の武器庫だ。


 薄暗く狭い納屋に入ると、アニアとゴッツが座っていた。


「マサキくん」


 アニアの言葉に力はない。

 理由は明白だ。

 彼女は泣いていたのだ。


 状況が飲み込めない。

 アニアの対面にいるゴッツの方を見る。


「…………」


 こちらはいつも通りだった。

 ただマサキの方を向いて、軽く会釈をする。

 そして自分の膝の前に置かれた寝わらを見つめた。


 マサキも視線を向ける。


 そこには小さなヤマアラシがいた。

 寝わらの中で、まるで病にかかったように苦しそうにしている。


 ――あれ?


 マサキはすぐにその変化に気づいた。


 気のせいではない。

 ヤマアラシの大きさが、一回り小さくなっていた。


「いつから?」

「身体の変化に気づいたのは、2日前ぐらい。それよりマサキ……。これ」


 バッズウが差し出したのは、大きな図鑑。

 マサキが読んでいた図鑑よりもさらに大きい。


 表紙には「モンスター図鑑」と書かれていた。

 目を大きく見広げる。


 マサキの反応を見て、バッズウは神妙に頷いた。

 図鑑をめくり、あるページを開いた。


 そこにいたのはヤマアラシだった。


 いや、正確には今自分の前で弱っているヤマアラシではない。


 村の柵の外。

 山のようにそびえる大きなヤマアラシと同一の絵が描かれていた。


「あいつはモンスターだ」


 バッズウは言った。

 その言葉はどこか冷たい。


 ――やっぱり……。


 マサキは驚かなかった。

 なんとなく……。あの大きなヤマアラシを見た時からわかっていたことだ。


「マサキも薄々気づいてたんだな?」

「うん……。でも、これは」


 モンスターだとわかってはいたが、小さなヤマアラシがこんなに苦しそうにしている理由がわからなかった。


「知らないのか、マサキ。モンスターってダンジョンから出ると、途端に弱り出すんだよ」


 ミュースは得意顔で説明する。


「お前だって、さっきまで知らなかっただろ?」

「ま、まあな」

「まあ、そういうことだ。モンスターは元は魔界の生物だ。瘴気の薄い場所では生きていることはできない」

「モンスターがおいらたちの村や町に滅多に現れないのは、それが理由らしいぜ」

「けれど、ダンジョンから出てこれないわけじゃない。マサキも聞いたら。前にこの辺りでモンスターが目撃されたって」

「あ。うん」

「たぶん、それってこいつの親だったんだよ」


 バッズウは図鑑を掲げる。

 マサキに見せつけるようにページを向けた。


「トーバック……。D級のモンスターだ」

「知ってるか? モンスターにはAからE級までランクがあるんだ。つまり、こいつは下から2番目に弱いモンスターってことさ」

「でも……。子供の俺たちには倒すのは難しい」

「……うん」

「けど――」

「え?」

「倒せないなら、倒さなくていい方法を考えればいい」

「どういうこと?」


 バッズウは図鑑を下ろした。

 真っ直ぐマサキを見つめる。


 いつも以上に真剣な表情だった。


「マサキ、協力してくれ」

「――――!?」

「トーバックの子供を親元に返すんだ」

「それはいいけど……。まずはミルやエーデに相だ――」


 突然、バッズウはマサキの肩に手を置いた。

 パシン、と小気味よい音が鳴る。


 その音に少しだけ小さなトーバックは反応したように思えた。


 ゆっくりとバッズウは首を振る。


「大人達の力は借りない」

「でも――」


 バッズウはにやりと笑う。


「これは……。俺たち【ミロ・ダ・レオノ】の初クエストだ!」


 力強く宣言するのだった。


さて、どんな意味なのでしょうか?

明日18:00投稿に続きます。


今日と明日の話ですが、

体調を崩した中で、朦朧とチェック作業をしております。

もしかしたら、見苦しい誤字脱字があるかもしれません。

何かあれば、感想欄にてご指摘いただければ幸いです。

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