第19話 ~ 最強の職業! ~
第3章第19話です。
よろしくお願いします。
鎧トカゲに舐められたり、髪をぐちゃぐちゃにされているマサキを見ながら、ポーラは他の3人に尋ねた。
「ところで君たちは一体何を――って、まあわかるか……」
パーティごっこであることは明白だった。
幼少期を思い出しながら、ポーラは目を細める。
「えっと……ジョブはなんだい?」
「俺は賢者!」
「おいら、魔剣士!」
「わたしは神官……」
それぞれ手に持った獲物を振り上げる。
「な、なるほど……。魔獣使いはいないんだね」
3人は顔を合わせ。
「「「いないよ」」」
三つ子のように声を揃えた。
ポーラはがっくり項垂れる。
「そっかー。まあ、マイナーだしなあ……。でも、意外と勇者候補の間では重宝されるんだけどなあ」
「そうなの?」
「そうだよ。……魔獣使いって案外才能がものをいう職業だからね。何せモンスターと仲良くならなくちゃいけないから。そういう人って、決まってるもんなんだ」
子供3人組は顔を見合わす。
すると、いまだ鎧トカゲで戯れているマサキを見つめた。
ポーラはすぐに意図を察した。
「そうだね。もしかしたら、マサキには才能があるかもしれないね」
「え? なに?」
マサキはようやく鎧トカゲから離れる。
モンスターの方が離れたくないらしく、必死に長い舌を伸ばした。
黒髪はすでにトカゲの唾液でベトベトだ。
「何か言った?」
「マサキくん、その前にこれ?」
アニアがハンカチを差し出す。
鼻を摘まみ、ややしかめっ面だ。
他の2人も同様。ポーラは慣れているのか、ただ苦笑いを浮かべていた。
マサキはお礼を言って、アニアのハンカチで唾液を拭う。
それを見ながら、ポーラは話を続けた。
「マサキはなんの職業なの?」
「魔法使いだよ」
「…………」
ポーラは言葉に詰まる。
あまりにさらっと答えられたので、聞き間違いかと思いもう一度質問した。
「えっと……。もう一度言ってくれる?」
「魔法使いだよ」
一字一句。抑揚も含め、マサキは同じ言葉で答えた。
ポーラは「うーーーーーん」と腕を組み、ギュッと瞼を閉じた。
そして言った。
「マサキは魔法使いがどんな職業が知ってる?」
「え――?」
訊かれている意図が推測できたのだろう。
マサキは言葉に詰まった後、こう答えた。
「最強の職業!」
「え?」
これにはポーラはおろか他の3人も「ギョッ!」と目を剥いた。
「いや、ちょっと!」
「それは違うぞ、マサキ!」
「ミュースの言うとおりだ」
「最強は魔剣士だぞ!」
「それも違うだろ」
「なんだと」
と今度は、バッズウとミュースが睨み合う。
「2人とも喧嘩しない。同じ教会の仲間同士だろ。僕からすれば、賢者も魔剣士も強いよ」
会ったばかりのポーラが子供たちをなだめる。
「マサキくん……。気持ちわかるけど、嘘はよくないよ」
「うん。ごめん。今の嘘」
マサキはすんなりと認めた。
「でも、ボクがいつか最強の職業だって言われるようにするよ」
「うーん。志は高い方がいいと思うけど、難しいじゃないかな。確かに魔法使いの精霊魔法って便利だけど、正直賢者がいればそれだけで事足りるからね」
「けど――」
「魔獣使いにしなよ。君には才能がある。うちの子《鎧トカゲ》とこんなにも遊んでくれるなんて、大人でもいないよ」
「けど!」
マサキは大声を上げた。
ちょっとビビりなポーラは、思わず仰け反る。
「エーデはとても強いよ……」
少年の黒目は燃えさかっていた。
ポーラは思わず喉を鳴らす。
そして帽子を脱ぎ、灰色の頭を掻いた。
「確かにね。あの人は強いね」
「でしょ」
「でもね。覚えておいた方がいい。君が真剣に勇者候補を目指して、そしていつか復活するシャーラギアンを倒す勇者になりたいなら……。悪いことは言わない。他の職業にした方がいい」
「どうして?」
「簡単だよ」
ポーラはマサキの真っ黒な瞳を見据えた。
「精霊魔法は魔族には通用しない。このアドバンテージはとても大きいからね」
と忠告するのだった。
「またね」
ポーラは手を振る。
子供たちも手を振った。
村の東の方へと向かう。
宿屋街の通りに1人ぽつねんと取り残される。
相棒の鎧トカゲは、マサキとの別れを名残惜しむように嘶いた。
とても珍しいことだ。
「よっぽど彼の事が気に入ったんだね」
ポーラはちょっと叱りつけるような口調で、相棒に言った。
当の鎧トカゲは再び欠伸をし、うつろうつろと瞼を閉じたり開いたりしている。
その様子を見て、ポーラはため息を吐く。
そしてもう一度、マサキたちが歩いて行った方へと向いた。
「本当にもったいないな。あの才能は……」
目を細める。
すると、いきなりポンと手を打った。
「そう言えば、最近この辺ではぐれモンスターが出るっていう風に聞いたけど……」
ポーラは左右に首を振る。
「あれって西だっけ……。東だっけ……」
最後には首を傾げるのだった。
「マサキくん、臭い」
アニアはまだ鼻を摘まんでいる。
「ええっ! そんなに臭うかなー」
マサキは歩きながら、前髪を摘まむ。
ある程度、唾液はとれたが、髪の毛が糊のようにくっついている。
「くさい」
「くさい。マサキ」
ミュールとバッズウも口々に言う。
――弱ったなあ……。
マサキは思った。
というのも、この状態でエーデルンドの腰に捕まって帰るのだ。
赤茶色髪の女性の渋い顔が目に浮かぶ。
「ぷぷっ……」
「……? マサキくん、どうしたの?」
「なんでもない?」
これはささやかな復讐の機会かもしれない。
そう考えると、マサキは思わず笑ってしまった。
もしかしたら、エーデルンドのことだから、どこかでお風呂に入れさせるかもしれないけど、その時はその時だ。
バッズウを先頭に小さなパーティ一行は、東門へと向かう。
その時、珍しくミュールが神妙な顔をしていることに、アニアは気づいた。
「どうしたの? ミュール」
「いやー、考えてたんだけどさ。おいらたちに欠けてるものがあると思うんだよ」
「なになに?」
「このパーティの名前だよ」
「パーティの名前?」
マサキは頭を傾けて、ミュールを見つめた。
バッズウが後ろに顔を向けて頷く。
「そう言えば、まだ決めてなかったな」
「だろ! ――で。おいら、決めたんだよ」
「ミュールが決めることなの?」
「リーダーの俺が決めることだろ?
アニアもバッズウも口々にミュールを非難する。
「違う違う。あくまで提案だけだよ。……本当はそうなってほしいけど。でも、かっこいいぜ!」
「本当かしら」
「ミュールだからな」
「信用ねぇな、おいら」
「ぷははは……」
3人のやりとりに、マサキだけ笑っている。
「いいか! 聞いておどろけよ。このパーティの名前は」
「おい! お前ら……」
「そう! オイオマエラって――。名前じゃねぇよ、それって!」
振り返る。
「え――――」
ミュールは凍り付いた。
じゃがいも頭の彼だけではない。
バッズウも、アニアもだ。
マサキだけが驚いたというより、少し神妙な顔をしている。
立っていたのは、数人の少年たちだった。
年の頃はマサキたちと同じ。
いや、少し上かもしれない。
同じく木剣や木刀、杖などを持っている。
バッズウは周りを見た。
東に歩くことに夢中になって、裏路地に入り込んでいたのだ。
「しまった」
バッズウが言った時にはもう遅かった。
後ろにも同じく子供たちだ。
リーダー格らしき少年が進み出る。
ローブを目深に着、フードからは赤髪にはみ出ていた。
背丈はあまりないが独特の危うさがあった。
「見つけたぞ。お前たち」
少年は笑う。
まるで地獄にいる子鬼のようだった。
何やら不穏な気配がということで、今週はお開きです。
お付き合いいただきありがとうございます。
次話は10月8、9日の更新を予定しています。
今後ともよろしくお願いします。




