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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第14話 ~ あ、あたしはアヴィン一筋だ! ~

今週もよろしくお願いします。

第3章第14話です。

よろしくお願いします。

「マサキ、見えたよ」


 暗闇の中でエーデルンドの声が聞こえた。


 マサキは瞼を持ち上げる。

 どうやら寝ていたらしい。


 空の上で、と思うだろうが、実は昨日全く眠れなかったのだ。

 微妙な震動と一定の風を切る音。

 妙に気持ちよく聞こえて、少年を眠りに誘った。


 顔を振って、覚醒を促す。

 前を見ると、エーデルンドが笑っていた。


 そして指をさす。


「おお……!」


 マサキは声を上げる。


 村――いや、もはや町だ。


 大きな鐘塔を中心に、ベージュ色の壁とオレンジ色の建物がまるで渦を巻くように連なっている。

 東西南北に大きな道が貫き、それぞれ街道とつながっていた。


 人もいる。

 それもたくさんだ。


 今はありんこ(ヽヽヽヽ)のように小さい人影が、町に溢れていた。


 ちょうど昼食を準備する頃合いなのだろう。

 家々の煙突から、白い煙が吹き出していた。


「すごいすごい!」

「何がすごいんだい?」

「町だよ! 人がいるよ!」


 ぶんぶんと手を振って、町の方向を指さした。

 勢い余って背中から落ちそうになるのをなんとか持ちこたえる。

 エーデルンドは声を上げて笑った。


「そりゃそうさ。町には人がいるもんさ。当たり前だろ」

「でも――」


 実は言うと、半分疑っていた。


 ハインザルドに来て、マサキはアヴィンのハウスのことしか知らない。


 本当はこの世界にはマサキとアヴィン、エーデルンドしかいないんじゃないか。

 そう考えていたのだ。


 つまり、長年秘めていた少年の推測は、ようやく崩されたことになる。


「そろそろ降りるよ。おしゃべりしていると舌を噛むからね」

「え? う、うん……」


 マサキは慌てて口を手で押さえた。




「うわあー」


 少年は大きな声を上げた。


 とうとう村の入り口に降り立ったのだ。


 キョロキョロと辺りをうかがう。

 人はもちろん、物、建物で溢れていた。


 すべてマサキが知らないものばかりだ。


 上京してきたばかりの田舎者みたいな反応――。

 道行く人は苦笑して通り過ぎていった。


 エーデルンドは少し頬を染め、マサキに自重するように促す。

 だが、好奇心というスイッチが入ってしまった子供を止める手立てはない。


 一際、マサキの目を引いたのは、石のような硬い皮膚に覆われた動物だった。

 首をニュッと伸ばし、舌をチョロッと飛び出して、水を啜っている。

 昔、図鑑で見たアルマジロを大きくしたみたいだった。


「あれ、なんていう動物? アルマジロ?」

「あるまじろ?」


 エーデルンドは首を傾げる。

 落ち着いて説明した。


「あれは鎧トカゲだね」

「鎧トカゲ……。おお! なんか強そう!」


 マサキの瞳が、ピカーンと星のように光る。


「実際、強いよ。あれでもモンスターだからね」

「モンスター? え? 大丈夫なの? モンスターが町の中にいて」

「全部のモンスターが人を襲ったりするわけじゃない。鎧トカゲはこっちが手出ししないかぎりは、大人しいモンスターなのさ。あれを見てみな」


 エーデルンドは指さす。


 そこには幌付きの馬車があった。

 側には御者らしき男が、煙草をくゆらせている。


「鎧トカゲを引いてもらって、冒険者はダンジョンに行くんだよ」

「ダンジョンってモンスターがたくさんいる場所だよね」

「そうさ。馬だとモンスターにビビってダンジョンに近づけないからね。鎧トカゲはちょうどいいのさ。足は遅いが、1度にたくさんの冒険者を乗せても引くことができるからね」

「へぇ……」

「さ。こんな場所に突っ立ってないで、もっと中心地に行くよ」

「うん!」


 元気よく返事した。

 満面の笑みだった。




 マサキはしばらく異世界の町を堪能した。


 屋台を回ったり、噴水を覗いたり、鐘塔から町を眺めたりした。

 町の人も元気だ。

 笑顔が絶えない。

 時々、顔を赤くしたりする人がいたが、みな充実しているようだった。


 少年の心を射止めたのは、そこかしこで見る冒険者の姿だ。


 剣や杖、あるいは鎧や盾を持った冒険者が集まり、談笑している。

 つい耳をそばだてると、モンスターやダンジョンの話だ。


 たった二言三言聞くだけで、マサキの想像力は膨らんだ。


 絵本なんて目じゃない。

 本物の剣と魔法の世界だ。


「ねぇ。エーデ」

「あん?」

「ボクも冒険者になりたい!」

「ほう。冒険者になってどうするんだい?」

「うーん。アヴィンとエーデがおじいちゃんとおばあちゃんになったら、養ってあげるよ」

「ふ、ふーん。……それは頼もしいね」


 ――この子のませた知識は一体どこから来ているのだろうか。


 エーデルンドは苦笑するしかなかった。




 鐘塔近くの食堂で昼食をとる。


 マサキはハインザルドの町中の味にちょっと苦戦した。

 それでも全部平らげた。


 2人は次なる目的地へと向かう。


「今度はどこに行くの?」

「あたしの友人のところさ」

「エーデって、友達いるの?」

「なにげに刺さる言い方だね」


 子供は残酷だ。

 言い回しのミスだと思って、エーデルンドはスルーした。


 町の中心から北西の方向。

 狭い路地を縫うようにして現れたのは、周囲と比べて大きな建物だった。


 町にある他の建物とは違って、壁が白い。

 中心地にある鐘塔よりも小ぶりの鐘がつるされ、屋根の上には何か意匠が掲げられていた。


 ひっそりとして、心なしか空気が澄んでいるような気がする。

 さほど怖くはないのに、背筋がぞわぞわした。

 わけもわからず、エーデルンドの腕を取る。


 すると――。


 不意に建物の奥から歌が聞こえた。


 しかも子供……。

 おそらくマサキと同い年ぐらいの少年少女が歌っている。


 洗練されてはいないが、楽しそうであることはわかる。

 元気な声だった。


「おお。早速やってるね」


 ニヤニヤと笑いながら、エーデルンドは勝手に入り口のドアを開ける。

 さらに声が大きくなった。


 そこは聖堂だった。


 茶色の長机と、長椅子が整然と並んでいる。


 奥には祭壇があり、綺麗な女神の像が置かれていた。


 その前に子供たちが整列し、歌を歌っている。

 シスターらしき老齢の女性が、手を振って指揮をとっていた。


 その女性がエーデルンドたちに気づく。

 老眼鏡の奥の青い瞳は、つぶらで澄んでいた。


 口端によった皺が曲がる。

 ニコリとシスターは微笑んだ。


「はい。やめぇ」


 しわがれた声で言う。

 手を下ろすと、子供たちの歌声がふとやんだ。


 突然の中止に、「もっと歌いたい」と子供から不平が漏れる。

 シスターは短く声を上げて笑った。


「また今度さね。お客さんが来たんだよ」


 子供たちは一斉に振り返る。

 エーデルンドとマサキを見つめた。


 たくさんの視線――。

 日本にいた時ですら体験したことがなかった多くの視線に、少年は戸惑う。

 ついエーデルンドの後ろに隠れてしまった。


 シスターが近づいてくる。


「珍しいじゃないか。エーデ」

「ちょっとご無沙汰だね、ミル」


 エーデルンドとハグをかわす。


 背骨が曲がった老シスターは、上目遣いで赤茶色の大女の背中を2回叩いた。


「相変わらず、いい女だねぇ。私が男ならほっとかないよ」

「あたしは御免被るね。いくらなんでもあんたは範囲外だ」

「は! 減らず口を……。私より年寄りの癖してさ」

「それは言いっこなしってなもんさ」


 エーデはシスターの肩を叩く。

 お返しにシスターはエーデのお腹辺りをこついた。

 その表情は、マサキが見てきたどのエーデルンドとも違って見えた。


「で? この子は?」

「ああ、この子が例の――」

「アヴィンとあんたの子かい?」


 エーデルンドの顔が真っ赤になる。

 この表情も見たことないものだった。


「ち、ちが――」

「その割には似てないね」

「あんた、まさか――」

「ち、ちちちち違うわ! あ、あたしはアヴィン一筋だ!」


 その告白は、聖堂内に大きく響き渡った。


 さらにエーデルンドの顔が赤くなっていく。

 頭から湯気が昇っていた。


「なははは……。冗談だよ。あれだね。例の預かってるって子だね」

「そ、そうよ。もう! からかわないでほしいね」

「私よりも一回りも二回りもばあさんのくせして、いつまで生娘を気取っているのさ」

「き――気取ってなんかない!」

「はいはい」


 全力で否定する一方、ミルと愛称で呼ばれた老女は、軽くあしらった。


 腰を傾け、エーデルンドの腕を取ったマサキを見つめる。


「私の名前はミルクリス。ミルクリス・モントーリネ。ミルと呼んでくれ。くれぐれも『おばあちゃん』とか『おばさん』とか付けないように」

「いい年したババアが何を言ってんだが……」


 エーデルンドは息を吐く。


「外野は黙ってな。子供ってのは最初が肝心なんだ」


 どこかで聞いたことがあるアドバイスを言う。


「坊や。お名前は?」

「…………」

「どうした、マサキ?」


 エーデルンドは一向に口を開かないマサキの様子を見た。


 顔が真っ青だ。


「どうしたんだい?」

「エーデ……」

「ん?」


 マサキの声は震えていた。

 そしてエーデルンドの腕を掴む。

 勇者の妻である彼女が「う」とうめいてしまうほど強くだ。


「どうしたんだい、一体?」


 すると今度は突如泣き始めた。


「え……? ええ?」


 エーデルンドは訳もわからず、戸惑うのみだ。


 様子を見ていたミルも驚きを隠せない。

 後ろの子供たちは遠巻きに見つめ、ひそひそと何か話している。


 エーデルンドは屈んだ。

 やはりマサキは手を離してはくれない。

 掴んだ手とは反対の手で、涙を払っている。

 それでも泣き止むことはなかった。


「どうしたんだい、マサキ……」

「あのね」


 マサキはようやく顔を上げる。

 その目は真っ赤になって腫れていた。


「エーデは、ボクが嫌いになったの?」


 マサキの言葉は、ぐさりと突き刺さった。

 エーデルンドをさらに慌てさせる。


「ちちちちち、違う違う。そんなことを思ってないぞ」

「だって、ボクは魔法を教えろってうるさいし、わがままだし。だから――」

「そんなことで嫌いになったりなんか」

「じゃあ、なんでボクをここに連れてきたの?」

「あたしはね。あんたに友達を――」

「ボクをここに捨てていくために、ここに連れてきたんでしょ」


 というと……。


 わああああああああああああああああああああああああんんん……。


 大きな声を上げて、泣き始めた。

 聖堂一杯に響き渡る。


「ちょ――ちょっと……。マサキ、誤解だって!」


 あわあわとエーデルンドはますます慌てた。

 助け船を求めるようにミルを見つめるが、老シスターは深い皺を刻んでニヤニヤと笑っている。


「ボクはいらない子なんだああああああ」

「いや、その……。絶対そんなことない」

「アヴィンとエーデにとって邪魔なんだあああああああ。2人っきりになりたいんだ、ホントはあああああああ!!」

「ふたり――。どさくさに紛れて、何言ってんだい、この子は」

「ぷははははは!」


 マサキは泣き。

 エーデルンドは慌て。

 ミルが笑う。


 そんな寸劇が、しばし広い聖堂の中で繰り広げられるのであった。


明日も18時に投稿させていただきます。

よろしくお願いします。


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よろしくお願いしますm(_ _)m

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