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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第9話 ~ ボクに魔法を教えてほしい ~

第9話です。

よろしくお願いします。

 そして、1年が経った。


 エーデのしごき――もとい、懸命のリハビリによりマサキは、日常生活に支障を来さない程度に回復していた。


「はい……。ラスト!」


 スコーン…………。


 小気味よい音が快晴の空の下、響き渡った。

 斧を振りかざし、薪を唐竹に割ったのは、マサキだった。


 切り株を使った即席の作業台に乗った薪が、真っ二つに割れる。


「終わったぁあ!」


 暑くて半裸になった少年は、草原に寝転んだ。

 青白かった肌は、少し焼けて健康的な色に戻り、細かった腕や肩は、ベッドで寝たきりだった頃に比べれば、1・5倍ぐらい大きくなっているように見えた。


 作業台には無数の傷がつき、斧が突き立っていた。

 それを引き抜き、肩に担いだのは赤髪の女性――エーデだった。


 草色のワークパンツに、タンクトップみたいな服を着ている。パンツをともかく、タンクトップは短いらしく、胸の谷間はもちろんのこと、ちょっと角度を変えると下乳が見えそうになる。


 おかげでマサキはちょっと目のやり場に困っていた。

 実は、ちょうど今、その角度なのだ……。


「ちょっと休憩した後で、昨日の続きやるよ!」

「え? まだやるの? ボク、もう疲れたよ……」

「減らず口をきけるなら、まだ大丈夫さ」

「むぅ」


 頬を膨らませる。


 子供のわがままに全く取り合わず、木で作った水筒を差し出した。


 マサキは起き上がって、水筒の中の水を飲む。

 ひんやりとして気持ちがいい。

 頭から被りたいところだが、その頃には中身がなくなっていた。


「じゃあ、そろそろやろうかね」

「……え? もう――」

「さあ、どっからでもかかってきな」


 自然体の姿勢のまま、エーデは「かかってこい」というように、指を曲げた。


 不満げな顔を崩さず、マサキは立ち上がる。

 お尻についた葉っぱを払う。


「エーデ、確認だけど」

「あたしに1発でも当てることができたら、この修行は終わりだ」

「1つ忘れてるよ」


 エーデは肩をすくめた。


「はいはい。『はんばーぐ』を作れっていうんだ――」


 ろ。


 エーデが最後まで言うことが出来なかった。

 すでにマサキがその時には駆け出し、間合いに入り込んでいたからだ。


 少年から繰り出される真っ直ぐな拳――。


 あっさりエーデは体を切って、かわす。


「奇襲なんてしゃらくさいねぇ」

「何をしてもいいっていったのも、エーデだよ」

「確かに」


 マサキは身体を反転し、体勢を整える。

 再び突っ込んだ。


 拳を連続で繰り出す。

 マサキの拳打は明らかに素人の動きだった。


 上体が浮き、手を振り回す。


 対してエーデの動きはプロの動きだった。

 足を使い、マサキの側面に回ったり、時にはバックステップで距離を取り、スウェイだけでかわす。


 そのすべての動きに余裕があり、何より見ている分には面白かった。


 しかし、やってる本人(マサキ)としてたまらない。

 すでにこの修行を初めて4日が経つが、当たる気配すら感じられないのだ。


 空振りを連発するマサキの息が切れる。

 とうとうその動きは止まった。


 なのに、エーデはけろりとして、口端を広げた。


「どうした? もう終わりかい?」

「やっぱり『はんばーぐ』をいいや」

「おや、どういう心境の変化だい?」

「その代わり、違うお願いがあるんだ」

「ほう」

「ボクに魔法を教えてほしい」

「…………」


 エーデは顔ががらりと変わった。

 眉間に皺を寄せて、険しい表情になる。


 声のトーンを抑え、異世界の母親は言った。


「それはダメだ」

「自信がないの? ボクの攻撃をかわし続けられない。自信が――」

「安い挑発だね。あたしがそんな手に乗ると思うかい?」

「むぅ」

「そんな顔をしても無駄だよ。あんたにはまだ魔法は早すぎる」

「聞き飽きたよ。……もうそれを言って、1年になるんだよ」

「1回使って、気絶したのを忘れたのかい?」

「う……」


 マサキの顔が苦虫をかみつぶしてしまったかのように歪んだ。


「まずは魔法に耐えられる身体作りが重要だ。そのための修行なんだよ、これは……」

「いつまで続けるの?」

「ざっと2年かね」

「2年! そ、そんなの待てないよ!」

「それでも早い方だよ。……あたしだって、最初に魔法に触れたのは10歳の時だったんだから」

「ボクとエーデは違う!」

「はっきり言ったねぇ……」


 赤髪が盛り上がっていく。心なしかその背後には炎のようなオーラが見えた。


 エーデが本気で怒った証拠だ。

 ようやくマサキの挑発に乗ったらしい。


 先ほどまで防戦一方だったエーデが、初めて攻勢に転じる。


 攻勢といっても、マサキに向かって突進することしか出来ない。

 マサキへの直接攻撃は、彼女自ら禁じているからだ。


 だが、猛牛の突進を思わせるそれは、十分驚異だった。


 対してマサキが取った行動は――。


「こっちにおいで! お尻ペンペン」


 と小さなお尻を突き出し、叩く。


 さらなる挑発。そして逃亡だった。


「逃がすか!」


 大人の足と、子供の足。

 その速度にはまさに大人と子供の差がある。


 だが、マサキがギリギリ逃げ込んだのは、ハウスの中だった。


 自分の襟首に迫ったエーデの手をするりとかわし、寸前でハウスの中へ入り、ドアを閉める。


 エーデは急ブレーキをかけたが間に合わず、したたかに鼻面をぶつけた。


「痛っ~いぃ!」


 真っ赤になった鼻を抑え、少し涙が溜まった目でドアを睨む。正確には、ドアの向こうにいる悪ガキ(マサキ)を、だ。


 そのマサキはドア側にある窓から外の様子をうかがっていた。

 エーデと目が合うと、「あっかんべー」と舌を出した。


 ――ムカッ!!


 エーデは怒りの釜に、さらなる薪がくべられた。


 その表情を見て、マサキは窓から顔を引っ込める。

 エーデはドアを蹴破るみたいにハウスに入ってきた。


 荒く息を吐き出し、ハウスの中をうかがう。


 しかし、一転――彼女を迎えたのは、耳が痛くなるような静寂だった。


「どこ行った!」


 怒鳴り散らす。


 入った形跡は残っているが、息も物音もない。


 ――一体、こんな技術どこで習ったんだ?


 気配を絶つというのは技術的なものではあるが、天性の素質として備わっている場合がある。環境によるところもあるので、マサキの数奇な人生も関係しているかもしれない。


「けど、子供のかくれんぼだね」


 マサキの寝室に行く。

 布団が盛り上がって、置かれていた。

 子供1人ぐらいなら入っていそうな。


 エーデは掴んだ。

 布団ではなく、ベッドごとだ。


 軽々と持ち上げる。拳闘士でもある彼女にとって、これぐらい朝飯前だ。


「ここだろ!?」


 エーデは叫ぶ。

 だが、マサキの姿は影も形もなかった。


 瞬間、真横のクローゼットが大きく開かれる。

 小さな影が飛び出してくる。


 拳を振り上げ、マサキが突撃してきた。


「こっちだよ!」


 マサキは勝利を確信したように笑みを浮かべていた。


 しかし――。


 その顔が一瞬にして引きつる。

 床をこすり、ブレーキをかける。上体がつんのめりながら、マサキは攻撃を中止した。


 何故なら、エーデはベッドを上げたままこっちを見ていたのだ。

 白い歯をむき出し、暴力的に口端を歪めていた。


「だから、子供のかくれんぼだっていったろ」

「げっ」


 エーデは豪快な音を立てて、ベッドを下ろすと、向かってくる。


マサキは壁伝いに走りながら、脇をすり抜ける。

 なんとかエーデが伸ばした腕をかいくぐった。


「この! ちょこまかと!」


 背中でエーデの舌打ちを聞きながら、マサキは部屋を出て行く。

 廊下を駆け抜け、今度はアヴィンたちの寝室の方へと向かった。


「は! そっちは袋小路だよ」


 赤髪の振り乱し、憤怒の形相のエーデが追いかけてくる。


 寝室はともかく書斎の方には、マサキが出入り出来ないように魔法で鍵をしてある。


 たとえ、寝室に逃げたとしても、同じ轍は踏まない。


 エーデは心に決める。

 ところが、マサキは一転――振り返った。

 腰を落とし、迎え討つような体勢を取る。


「観念したかい」


 悪ガキを捕まえるため、エーデは加速した。

 真っ直ぐに向かってくる。


 そう――真っ直ぐ(ヽヽヽヽ)にしか向かってこれない。

 廊下は狭く、壁に囲まれているからだ。


 マサキは掲げた手をエーデに向けた。


 【風斬りの鎌】バフ・ヴィン!


「なに!」


 エーデは急停止する。


 風の二枚刃が容赦なく襲いかかってくる。


 だが、最初こそ驚いたエーデだったが。


 【魔法破壊】ギア・エルド!


 猛禽のように飛来した風の刃を叩き落とす。

 1つは床に、1つは天井に見えない刃が突き刺さった。


「えっ! 魔法って素手で落とすことができるの?」

「これであんたの手札は切れたのかい?」


 手の甲から湯気のようなものを上げて、エーデはにやりと笑う。


 その両拳を組むと、ぼきぼきと骨を鳴らした。


今月はこれにて終了です。

短くて申し訳ない。


なるべく1ヶ月に数話だけでも投稿しようと思っています。

引き続きお楽しみいただければ幸いですm(_ _)m

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