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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第3章 ~~魔法使いの幼少期編~~

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第7話 ~ マサキくん、み~つけた ~

大変お待たせしましたm(_ _)m


しばらくの間だけですが、更新を再開させていただきます。



 スコーン…………。スコーン…………。


 少し遠くの方から、何かを割るような音が聞こえてくる。

 とても気持ちよい音だ。


 興味をそそられる。

 マサキは瞼を開けた。


 いつもよりもけだるいのは、ずっと眠っていたせいだろう。


 ――どれぐらい寝ていたのだろう。


 カンレンダーを探したが、ハインザルドにはそんなものがないことに気づいた。


 なんとか身体を起こす。

 側のカーテンを開けた。陽の光がマサキの瞳を圧迫したが、朝ではないようだ。いつも見える太陽が見えない。


 代わりに見えたのは、エーデだった。


 前に見た薪割りの訓練をしているらしい。

 スコーン…………という音の正体もそれだ。


 窓を開けて呼ぶことも出来るが、身体と同じく喉も本調子じゃない。

 大声を出そうとするとむせ返ってしまう。


 ――どうしようかな?


 と考える。

 そう言えば、アヴィンがいたような気がする。

 ハウスの中に、まだいるのだろうか?


「アヴィン……」


 弱々しい声が、静まりかえったハウスに飲み込まれる。

 しかし返事はない。


 もう一度、少しだけ頑張って声を張ってみるが、大きな鍔がついた帽子を被った【まほうつかい】は現れない。


「どうしよう」


 柔らか黒髪をエーデみたいに掻きむしってみたが、名案は浮かばない。

 逆に、とんでもないことを思いついた。


 マサキはもう一度、ハウスの中をよく見回してみた。


 概ね木で作られたログハウス風の家。

 家には様々なものがある。だいたいが農作業のための道具や調理道具だったりするのだが、実はマサキにはまだ入っていない部屋が2つある。


 それはダイニング兼リビングを抜けた廊下の先にあって、マサキが寝ているベッドからも見える場所にあった。


 マサキはちょっと嫌らしい笑みを浮かべる。

 いや、小悪魔ちっくと言えばいいだろうか。


 ともかく、本人も自画自賛する妙案を思いついたのである。


 ――ハウスの中を探検しよう!


 おお! と己を鼓舞するかのように拳を突き上げた。




 スコーン…………。スコーン…………。


 今一度、窓の外をのぞき込む。

 どうやら作業を始めたばかりで、まだ薪は積み上がっていない。

 まだ時間はかかるだろう。


 問題はどうやって移動するか、だ。


 正直、立って歩くのは難しい。

 ならば、ハイハイならどうだろうか?


 試しにマサキはベッドに捕まりながら、ごろりという感じでベッドから落ちてみる。したたかに背中を打ったが、衝撃は吸収できたような気がする。


 第1段階成功だ。


 次に第2段階。ハイハイが出来るかどうか。


 手の平をつけ、上半身を持ち上げる。自然と膝をつき、ハイハイの姿勢を取る。ちょっと力がいるが、立っているよりも全然バランスがいい。


 赤ちゃんに戻ったみたいで、5歳児のマサキにとって若干やるせない気持ちになったが、これはこれで楽しい。


 自分の力でどこでもいける。

 何よりそんな解放感が、マサキの心理状態を高めていった。


 手足を動かし、つま先で床を蹴って進む。


「いけるいける!!」


 思いの他、身体が動く。

 ちょっと手の平と膝が痛いが、全然我慢できる。


 すでにこの時点で、あのけだるい感じはなくなり、むしろ軽く感じていた。




 ともかく寝室から出ることに成功する。


 背の高いテーブルと、マサキ用に作られた子供用の椅子を確認する。


 やはりというべきかハウスには誰もいない。


 第3段階も問題なし。

 続いて第4段階に移行する。


 とうとう本丸へと飛び込むのだ。

 マサキは思わず「むふふ……」と笑い、何故かこみ上げてきた生唾をぬぐった。


 ――楽しい!


 自分の身体を動かして、目標に向かうことが、こんなに楽しいことなんて初めて知った。


 マサキは進んでいく。

 日当たりが悪い奥の廊下は、マサキが寝ている寝室に比べれば薄暗い。

 洞窟の中に入ったようだ。


 まさにゲームのダンジョンみたいだった。


 バンバンと床を叩きながら、ハイハイで突き進む。

 その振動が伝わったのだろうか。頭上から金属音が聞こえた。


 見上げると、鋭い刃がついた鍬や鋤、鶴嘴(つるはし)が揺れていた。

 しっかりと固定されているようだが、落ちてきたらさすがに危ない。


 マサキは頭上の道具を揺らさないようにゆっくりと進んでいく。

 危ないけど、これはこれでスリリングだ。


 薄暗く、危ない廊下を抜け、とうとう部屋の前に立つ。


 宝物庫の前にいるみたいにドキドキする。


 ノブにもたれかかるようにして、そっとドアを開けた。

 ハイハイで中に入る。


 そこにあったのは、机と大きな1つのベッドだった。

 クローゼットらしきものがあり、中には服が納められているようだ。


 どうやらアヴィンとエーデルンドの寝室らしい。


 一際、マサキの目を引いたのは、部屋の角にあった鎧だった。


 童話に出てくる騎士が着るようなフルメイル。

 相当以前のものなのだろう。ややくすんだ青は、色あせていた。


 それでも、5歳の少年の目には神々しく映る。

 鎧なんて初めて見たからだ。


 しかも、赤い宝石なんかがついていて、如何にも勇者の鎧という雰囲気を醸し出していた。

 きっとアヴィンが使っていたものなんだろう。


 突如現れた男の子の憧れ。

 当然、マサキは手を伸ばした。


 パシィン!


 強い光を放ったと思った瞬間、マサキの手は弾かれていた。


 一瞬、注射を刺されたような鋭い痛みが走る。

 すぐに痛みが消え、手の平を見るとなんともなかった。


 不思議な現象に呆然と鎧を見た後、マサキは。


「かっけー!」


 と声を上げた。


 再び手を伸ばす。


 弾かれる。


 手を伸ばす。


 弾く。


 伸ばす。


 跳ね返す!


「うはははははは!」


 いつの間にか声を上げて笑い、マサキは何度も何度も同じようなことを繰り返した。


 ようやく飽きてきて――というよりは、あまり時間がないことに気づき、マサキは鎧に触るのをやめた。


 あんまり夢中になっていると、今度はエーデルンドが帰ってきてしまう。


 もう1回触る――というのを我慢し、マサキは振り返った。


 目線の先には、大きなベッドがある。

 パパとママの寝室にあったサイズのベッドだ。確かダブルベッドという。


 ハイハイで近づき、ベッドのスプリング具合を確認する。

 マサキが使っているものとさほど変わらない。


 なんとかよじ登る。

 さすがに腕が痛くなっていたが、抑えようのない好奇心が少年の突き動かした。


「広い……」


 語尾に(確信)と付くほど、マサキの声は驚きに満ちていた。


 ごろごろと転がってみる。

 花の香りがした。エーデルンドの匂いだ。


 マサキの顔がほんのり赤くなる。


 ここでエーデが寝ていると考えると、ちょっとエッチな気分になる。


 ――エッチな気分……。


 その時、5歳児の頭に天啓ともいえるひらめきが襲いかかった。


 まだ元気だった頃を思い出す。

 そうあれは、6歳上の従兄弟のお兄ちゃんが家に遊びにきた時だ。


『いいか、マサキ……。男というのはエッチなんだ』

『エッチ?』

『そうだ。お前のパパも、俺のパパもエッチなんだ』

『ボクのパパも……』

『そうだ。そしてたいてい男はエッチな本をベッドの下に隠す』

『ベッドの下』

『よく覚えておけ! ベッドの下だ!』


 あの時は意味がわからなかったが、今ならわかる。


 従兄弟の忠告は、この時のためにあったのだ、と――。


 マサキはエーデの香りがついたベッドを見つめる。

 目を充血させ、「俺に隠された力よ。覚醒しろ!」と言わんばかりに。


 そして少年は決断した。

 このベッドの下を確認すると――。


 マサキはごろごろ転がり、自分のベッドから降りた方法を使って、床に落ちた。

 またしたたかに背中を打つが、痛みにかまっている暇はない。


 ベッドの下は空間になっていた。

 真っ暗闇だ。


 そおっと中をのぞき込むが、全く何も見えない。

 意を決して入ってみることにした。

 ちょうどマサキぐらいの子供なら、入ることが出来る。


 その時だ。

 声が聞こえた。


「マサキ? どこだい?」


 エーデだ。

 外から帰ってきたのだろう。そして寝室にいないマサキに気づき、声を上げて探している。


 ――まずい……。


 頭が痛くなるぐらいマサキは考えた。


 そして――。




「マサキ、いるかい……?」


 エーデは自分の寝室のドアを開いた。


 くるくると首を回して、部屋の中をのぞくがそれらしき人影はない。


 クローゼットを開け、服をのけながら丁寧に探すものの見つからない。

 少し苛立たしげにクローゼットをしめる。


「どこ行ったんだ、あいつは……」


 赤い髪を掻きながら、部屋の外に出て行った。




「やっ――」


 た! と思わず歓声を上げそうになった口を慌ててふさいだ。


 マサキはベッドの下にいた。

 残念ながら、エッチな本どころか何もなかったが、エーデから隠れることが出来た。


 きっと見つかれば怒られる。

 あの痛~い拳骨はもうこりごりだ。


 マサキはベッドの下から這い出ると、部屋の外の様子をうかがった。


 どうやらエーデはハウスの中にいないと考えて、外まで探しにいったらしい。


 ――チャンス……。


 マサキの口元に、悪い笑みが浮かんだ。


 そっと部屋から出る。

 なるべく音を立てず、マサキが向かった先はエーデたちの寝室の隣――つまり、第二の謎の部屋だった。


 自分の寝室に戻るのが得策なのはわかっている。

 けど、男の子には引けない時があるのだ。


 第二のドアを開ける。


 開いた隙間から部屋をのぞくと、真っ暗だった。


 仕方なくマサキはドアを開けっ放しにしたまま、中に入る。

 暗闇の中にぼんやりと浮かんだのは、部屋の中をぐるりと囲む本棚と、立派な装丁がされた本だった。本は棚をはみ出し、床にまで並べられ(うずたか)い山を作っている。


 鼻先にかかった――少しかび臭い匂いが、1度だけいったことがある近くの図書館と同じ匂いがした。


 少年マサキの瞳は輝いた。


 ――エッチな本あるかな……。


 一般的な子供の好奇心から、やや外れた気持ちを胸に進んでいく。

 本を崩さない慎重に這う。


 1つの山にたどり着くと、「おお」と声を上げながら見上げた。


 手を伸ばしてみるが、四つん這いの状態でちょうど掴めない位置に一番上の本があった。本を取るには、立つ必要がある。


 間の本を抜くことも難しい。正直、マサキの筋力では難しいだろうし、何より危険だ。


 というわけで、捕まり立ちを決行する。何がというわけかわからないけど……。

 幸い本は分厚い。マサキ程度の体重では、わざとでなければ倒すことは出来ない。


 本のちょっとした出っ張りに手をかける。

 倒さないように、力を入れないように、慎重に……。


 膝立ちになり、続いて足裏を床につけ、徐々に腰を上げていった。


 そしてようやく捕まり立ちが出来た。


「やった」


 瞬間、ふっと足の力が抜けた。

 景色が反転する。


 危ない! と手を伸ばした。

 しかし、突き出した手は本の表面を掻いただけだった。


 盛大な音が書斎に響き渡った。


「痛てて……」


 尻餅をついた臀部を、マサキは撫でる。


 その時、周りにあった闇がさらに深くなったような気がした。

 気づいて顔を上げる。


 1本の大きな影がマサキに向かって倒れようとしていた。


「うううわああああああああああああああああ!!」


 悲鳴を上げた時には遅かった。

 本の山がマサキに襲いかかる。


 尻餅をついた時よりも大きな音が上がり、ハウス全体が少しだけ振動した。


「なんだ!?」


 慌ててエーデが書斎に飛び込んできた。


 中の様子をうかがう。

 大量の書籍が散乱していた。

 その本の波の中に、少年の顔があった。


 黒の頭を振って、本を払い落とす。

 その黒目と、エーデの青い目が。


「「あ……」」


 声とともに重なった。


「何をしているんだい? マサキ」

「おはよう、エーデ。そ、そうだね……。かくれんぼ…………かな??」


 エーデは口端を歪めて言った。


「マサキくん、み~つけた」


 赤く染まった顔は、まさしく鬼のようだった。


子供にとって、初めてのダンジョンは家だったというお話です。


明日も21時に更新させていただきます。

よろしくお願いします。



【告知&宣伝】 カウントダウン投稿 2016年7月11日


ダッシュエックス文庫様より新作『嫌われ家庭教師のチート魔術講座 魔術師のディプロマ』が

7月22日発売します。。


それに伴いまして、発売日の1週間前である7月15日より

小説家になろう様にて、

作品の前日譚をカウントダウン投稿していこうと思います。


題して『嫌われ家庭教師のチート魔術講座 前日譚 ~ メゼン・ド・セレマの住人たち ~』です。


世界観と主人公は発売される本作と一緒です。

主人公鍵宮カルマが、本作の舞台となる天応地家にたどり着くまで一体どんな(ニート)暮らしを

していたのか。その実態が明らかになります。


『嫌われ家庭教師のチート魔術講座』を買うのを迷っているそこのあなた!!

よろしければ、本作を読んで決められてはいかがでしょうか!?


本作ともどもよろしくお願いします!!

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