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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
間章

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第2話 ~ 勇者じゃなくてヒロイン志望なの? ~

第2話です。よろしくお願いします。

「先生は確か魔法使い課程の一部の講義も担当されていましたね」


 教師を廊下で呼び止めると、エルナは尋ねた。

 パルティアは賢者課程の教官だ。本来なら、魔法使い課程の教官を引き留めて質問するのが道理だが、入学前から知っていることもあり、相談しやすい相手だった。


「え、ええ……」


 パルティアは声を上擦らせる。

 晴れて教官になったというのに、コミュ障は治っていないらしい。

 これで授業になると、意外とまともに喋っているのには驚く。


 パルティアは前までハインザルドでは負け組とされる魔法使いだったが、たまたまパーティを組んだ賢者の進言で、転職した。2つの職業を経験したことも、ゼルデ=ディファス校から依頼された理由の1つだ。おかげで、仕事も2倍になり、悩みの種の1つである。


「タチバナマサキという生徒をご存じですか?」

「た、たたたたタチバナ……。あ、ああ、タチバナ君ね。それが何か?」


 エルナは賢者。タチバナことマサキは魔法使い候補生だ。魔法使い課程に妹がいることは知っているが、彼女が気にするような生徒ではないように思えた。


「入学式から今まで、一度も出席していないとお聞きしました。理由はご存じですか?」

「ああ。……た、たたたた確かこ、『公務』とお聞きしています」

「公務?」

「はい。か、彼のことを知っているなら聞き及んでいるかもしれませんが、タチバナ君は『塚守』という職業であるということはし、しし知っていますね」

「はい」


 本人からではないが、マサキと対峙した魔族がそう言っているのを聞いた。

 後で調べてみたが、【魔界の道】を守護する職業の人間をそう呼ぶらしい。世界でも6人しかおらず、勇者にもっとも近い存在だと言われている。

 それを知った時、あの冗談みたいな強さに少し納得できたが、同時に同い年の男の子が、すでに勇者と同程度に認められていることに、激しい嫉妬に襲われた。


「お、おう、おおお王都で近く各地の塚守を集めた会議があるそうです。か、彼はそれに参加するため、ししししばらく休むそうです」


 なるほど、それなら仕方ない。

 自分の力に胡座をかいて、学業を舐めているなら、少し説教してやろうかと思ったが、勘違いだったらしい。


「た、ただ……こここ困っていることが、あ、あって」

「なんですか?」

「にゅ、入学式から今まで休んでいるので、かか、彼に渡す書類が増えていく一方で。教本すらわた、渡せてないのです。……お、おおおかげで私の机の周りは彼への書類や教本一杯でこ、こここ困ってるんですよぉ」

「え? パルティア先生が預かってるんですか?」

「ま、周りにまわってやってきたんです。……し、ししし新任教官のつ、つつ辛いところです」


 軽いパワハラだと思うが、パルティアの性格上それは言いにくいのだろう。


 ――あっ……。


 その時、エルナに良案が浮かんだ。


「良ければ、その書類や教本一式を私が彼の家に届けましょうか?」

「え? ……でも、彼の家は遠い上に危険ですよ」


 塚守権限というべきか。

 勇者候補育成校の生徒全員が学生寮で暮らしているのに対し、マサキは通学を許可された唯一の生徒だった。


「わかってます。……だから、セラフィさんに預けようかと」


 セラフィというのは、エルナが入学前に出会ったA級の賢者で、どういう経緯かは知らないがマサキの弟子らしい。ちなみに目の前のパルティアに転職を進めた旧友でもある。


「彼女がよく立ち寄る場所は知っているので」


 パルティアの暗い顔が、ぱあと明るくなった。


「な! なるほど! ではお願いします!!」


 生徒に向かって頭を下げるパルティアを見て、エルナは少し心を痛めた。






 そしてエルナはラソルの樹海の前に立っている。


 ここを抜ければ、マサキが住む家に辿り着く。


 ダンジョンのランクはA級以上。むろん、ランク外であるエルナが入れる場所ではないが、うまくギルドに提出する書類は誤魔化しておいた。


 ちなみにエルナは普通のA級のダンジョンすら潜ったことがない。

 自殺行為に等しい。


 無謀であることは百も承知だ。

 これぐらいの試練を乗り越えられなくて、マサキのライバルは名乗れない。

 公務というならちょうどいい。その間に、一歩でも距離を詰めておく。


 ――ふふ……。


 反射的に口端が緩んでいた。

 昔の自分なら決してこんな無茶なことはしなかったはずだ。

 確実に、タチバナマサキという少年は自分を変えてしまった。


 恥ずかしい言い方だが、恋に似ているかもしれない。


 そんなポエミーなことを考えつつ、エルナはラソルの樹海に分け入った。




 雰囲気、音、匂い、視界、空気の味……。


 すべて最悪だった。


 常に冷たい手で握られているような暗く重苦しい雰囲気。

 どこからか聞こえてくる魔獣の吠声。

 精神を狂わせそうな甘い匂い。

 光を遮断され、常にブラインドが存在する視界。

 血、肉、死が混じった空気の味。


 これが人間界にある土地とは思えない。

 はっきりとした意識を確保しなければ、一瞬に魂を刈り取られそうだった。

 魔界という土地が、これ以上にひどい惨状であるなら、エルナはおそらく一歩も歩けないだろう。


 魔瘴気が漂い、一歩ごとに死を予感させる雰囲気の中で歩けているのは、あのロケールの渓谷での戦いを経験したおかげと、タチバナマサキという青年の対抗意識によるところが大きい。


 今のところモンスターの姿はない。

 エルナが気付いていないだけという可能性もあるが、幸先が良いことは間違いないだろう。


 出会ったとしても、戦闘は避けなければならない。

 まともに戦って勝てるとはさすがのエルナも思っていなかった。


 エルナの足が止まる。


「さすがに、そう簡単にいかせてくれないわよね」


 それは一瞬、何か闇が剥離した(ヽヽヽヽヽヽ)ように見えた。


 違う。蜘蛛だ。

 ラソルの樹海を漂う暗闇に同化するように黒く迷彩した蜘蛛が、幹や梢、あるいは生い茂った草から、擬態を解いてエルナに立ちふさがった。


 体長は0.5ロール(1ロール=1メートル)。モンスターとしては小振りなサイズだが、それが無数にいるとなれば話は別だ。


 ――囲まれた!


 瞬時に理解した。

 モンスターがいなかったわけではない。

 この蜘蛛たちがいたからこそ、他のモンスターが近寄って来なかったのだ。


 つまり――。まんまとエルナは蜘蛛の術中にはまったというわけだ。


 名前はシュレール。

 モンスター図鑑によれば、個々の能力は魔物の中では低いが、常に群で行動し、集団で襲ってくる、と書いてあった。実力的にはB級だが、集団戦法によって、著者であるアルミアは、A級の扱いにしている。


 勇者候補でもないエルナにすれば、ランクなど関係ない。どちらにしろ、厄介な魔物であることは間違いなかった。


 ラソルの樹海に来る前に、モンスター図鑑で一通りの特徴を掴んできたが、その中でもシュレールは一番出会いたくなかった魔物だった。


 エルナは抜剣し、学校に通うようになってから採用した小盾を構える。

 なんとか囲みを破って、逃げなければならない。

 盾の裏側で隠すように、炎の魔法をセットした。


 チカッと何かが光った。


 エルナは反射的にその場から離れた。

 何かが側をかすめると、頬に焼けるような痛みが走る。手でさわると、べったりと血が付着していた。


「――――!」


 驚き、呆然としている暇はない。

 再び光った。

 それも無数――四面を囲うように、小さな光が一瞬視界に映る。


 エルナはステップを繰り返し、ともかく的を絞らせない。

 しかし装備を貫通し、少女の肢体は徐々に切り刻まれていく。


 シュレールの攻撃で間違いない。

 モンスター図鑑に記載はあった。


 曰く、シュレールは糸を吐かない。人の肉体を易々と貫く、鋼線のようなものを吐き出す、と。


 1体1発が限度らしいが、この数では制限など関係ない。


 このままではじり貧だ。


 エルナはリスク覚悟で、攻勢に転じる。



 【炎竜牙突】バル・デュシュ!!



 かざした手から炎を纏った火竜が飛び出した。


 黒曜の森と大量の蜘蛛を焼き払うとともに、炎の道を作る。

 すかさずエルナはまだ炎が燃えさかる道へと飛び込む。身体に水の魔法をヴェール状にして纏っているため、さほど熱くはない。


 シュレールの弱点属性は知っている。ズバリ――火だ!


 あちこちから黒板を引っ掻いたような悲鳴があちこちから聞こえてくる。どうやら効果覿面であったらしい。


 後は大気系の魔法で、迷彩と静音の効果を与えてやりすごせば――。


「ぁ――――!」


 エルナは一瞬、悲鳴を上げようとして、それすら躊躇した。

 喉を動かしていれば、首に傷が出来ていたかもしれない。

 それほど、それ(ヽヽ)は彼女の近くにあった。


 シュレールの鋼線が、喉にかかっていた。

 目だけを動かし、状況を確認する。すでに無数の鋼線が張り巡らされ、エルナの取り囲んでいた。


 ――誘い込まれた!!


 後悔した時には遅い。

 エルナはシュレールの巣にあった。いや、もう彼らの喉元にあるといっていい。

 後は消化されるだけだ。


 ダメージ覚悟で、全身を炎で包み焼き切るかと考えたが、それが出来るなら最初のバル・デュシュで切れているはず。


 なら――。



 【風斬りの鎌】バフ・ヴィン!



 手から風の刃を射出する。

 周りの木の幹や枝は切れても、鋼線を切ることは出来ない。


 ――やはり……。


 モンスター図鑑にあるシュレールの項目には、注意書きが短文で書かれていた。

 

 曰く【鋼線の耐魔法特性強し】。


 見逃していたわけではない。覚えていなかったというわけでも……。

 しかしラソルの樹海での初遭遇戦。焦りがなかったといえば、嘘になる。


 蜘蛛が迫る……。

 赤黒い複眼の光点が、徐々に集まり、少女を包囲していく。


 ――こんなところで……。


 軽率だったと反省しても遅い。

 すべては己が未熟だったということだ。


 でも……それで妹が悲しむような事があれば――。

 後悔せずにはいられなかった。


 蜘蛛の牙が目の前に迫る。


 エルナは目をつぶった。


 シュン!


 風切る音が聞こえた。


 身体が軽くなる。

 エルナを縛っていた鋼線がほどけたのだ。


 ついで高らかな声が響いた。



 【神罰】アルテラ!!



 無音の極光が突き刺さった。

 シュレールを包むと、黒い身体をゆっくりと溶かしていく。

 気味の悪い悲鳴が上がり、光の中で細い後肢を動かし、悶える。しかし抵抗虚しく、光に吸い込まれた。


 一瞬にして、シュレールは全滅する。


「前にこんなことがあったわよね」


 聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

 司祭服に、手には遊環が付いた槍を握っていた。


「何? あんたは、勇者じゃなくてヒロイン志望なの?」

「リコ……」


 突如現れた神官課程の生徒を見て、エルナは名前を呟いた後、絶句する。


「全くだ。……助けてほしい、と一言いえばいいのに。水くさい」


 腰に二振りの剣を下げ、軽武装した少女がリコの横に立っていた。


「ヴェルテまで……。あなたたち、どうしてここに?」

「決まってるじゃない」

「……?」

「休みがちな生徒に、書類を渡しによ」

「それと、分不相応な任務を帯びたお節介な友人の手伝いをな」


 ロケール渓谷で死線を共にした仲間2人と、ラソルの樹海の奥の再び出会った。


久しぶりに書いたので、なんかこの3人が揃うと感慨深いものが……。

話上では、そんなに久しぶりではないのですが……。


明日も12時になります。

(『その現代魔術師は、レベル1でも異世界最強だった。』は18時なので、

お間違えなきよう。しばらくこんな投稿時間だと思って下さい)

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