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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
間章

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54/136

第1話 ~ お姉ちゃんはいつも怖いよ ~

大変長らくお待たせいたしまして、申し訳ない。

今日から来週月曜まで投稿を再開させていただきます。


エルナとヴェルテ、リコ、ちょっとだけマリーの話です。


 連絡および講義内で使われた資料を複書されたものを、特定の人間に届けよ。



 エルナ・ワドナーに託された任務は、非常に単純なものだった。

 任務と呼べるものかどうかすら怪しいものだ。いや、実際怪しい。


 大げさにいってみたところで、要約すれば――休んでいる人間に、その間に配布された連絡事項、授業で使われた資料を渡してきてほしい、ということなのだ。初等学校に行き始めた子供でも出来ることである。


 ただ――場合によって、とても困難を伴う。


 たとえば、場所が遠い。あるいは、特殊な許可がなければ入れない。およそ並の身体能力では立ち入れない場所にある。想定を並べるなら、枚挙に暇がない。


 並の身体能力では立ち入れない場所――エルナが直面している困難とは、まさしくそれだった。


 今、目の前には、黒い葉と幹が生い茂る樹海が広がっていた。


 繁茂している木は【黒妖木(マクロス)】と呼ばれる木で、空気中に微量に存在する魔瘴気を吸って生きる――元々は魔界の植物である。人間界では6つある【魔界の道】近くの土地でしか確認できていない。


 樹海には【ラソルの樹海】という名前がついている。


 【ラソル】とは古代のハインザルドの言葉で、【魔界】を意味しており、【魔界の森林】と呼ぶ者もいる。


 中身はダンジョンだ。

 クラスはA級――しかし、それ以上ランクがないだけだ。近くにあるA級ダンジョン【死手の樹林】と比べても、格段にはびこる魔物は強くモンスターは強く、知能を持つ魔族の亜種とも言うべきものも存在する。


 おそらく【魔界の道】を除けば、人間界でもっとも危険なダンジョンの1つに挙げられるだろう。

 その証拠に、エルナの足を助けた街道は、ここで止まっている。

 つまり、人間が来るところではないのだ。


 エルナの勇者候補のランクは暫定のB級。

 しかし、師弟制度を利用した暫定的なランクがB級までしかないだけで、その強さは限りなくA級に近い。師のお墨付きももらっている。


 が――ラソルの樹海は、A級の勇者候補とて簡単に踏破できるような場所ではない。まして、若く、経験もないエルナなど一溜まりもない。


 それでも行かなければならない。

 このラソルの樹海を抜けた先へ……。


 すでにエルナが握った各種の書状は、じっとりと汗を吸っていた。




 エルナ・ワドナーが何故、ラソルの樹海へ入り込もうとしているか。

 それは順を追って、説明しなければならない。


 勇者候補育成学校に入学して、はや2週間。

 授業内容の説明やカリキュラムの組み方を説明するオリエンテーション期間は終わり、本格的な実技、講義が行われていた。


 正直に言うと、エルナは舐めていた。

 自分のランクは暫定のB級。魔法も卒業に必要なものはすべて修得し、育成校で学ぶべきものはないと思っていた。勇者候補のライセンスを取るだけの踏み台にしか考えていなかったのだ。


 だが、実態は違った。

 高度な実戦訓練、魔法大学校に通用するほどの高いレベルの講義。特にパーティ戦に置けるやりとりや戦術の練り方、個々のモンスターの対策などは、目から鱗が落ちるほど、細かいものだった。


 それ故に覚えることは膨大で、エルナですら悪戦苦闘していた。


 総合首席を取った彼女ですらこうなのだ。

 他の候補生たちは、さらに苦戦していた。すでに退学を決めたものもいる。

 戦闘教官からは身体的にいじめ抜かれるし、座学を担当する教官も毎日山のように課題を課した。


 そんな状態では遊ぶことも出来ないし、頭に浮かびもしない。


 唯一気が紛れることといえば、週に1度だけ入試でパーティを組んだ仲間たちとお昼をすることだった。


「さすがにキツいわね」


 豊かな金色の髪を草原に広げて、リコ・モントーリネは寝転がった。

 神官指定の制服よりも白い肌は相変わらずだが、やや隈が残る瑠璃色の瞳の輝きは鈍い。


「育成校、舐めてたわ。勇者候補になるための必要な知識とか埋め込むだけなのかと思ってたけど、この私が課題ぐらいで苦戦するなんて……」


 手を太陽にかざしながら、悔しそうにぐっと握り込む。


「私も……。午後の授業の課題、まだ出来てないよう……」


 寝言のようにはっきりしない言葉でいったのは、エルナの妹マリーだった。

 トレードマークの眼鏡と、学校指定のとんがり帽子を脇に置き、リコの隣で目をつぶっている。三つ編みにした赤毛が草原を走ってきた風で揺れ、鼻をくすぐる。すると、大きく3回ほどくしゃみをした。


「あんた、それ――大丈夫なの?」


 リコは心配になって尋ねる。

 マリーは「大丈夫。大丈夫」と手を振った。


「ヴェルテはどう? 戦士課程って厳しそうなイメージがあるけど」


 目の前の武装した戦士の少女に、エルナは尋ねた。


 黙々と食べ物を口に運んでいたヴェルテ・ロードナアは、手を止め、並の人間ではすぐに鼻白んでしまう強い眼光を眼鏡の奥から放つ。

 食事の邪魔にならないよう後ろでしばった綺麗な黒髪を揺らし、否定した。


「基礎訓練などは、自分でやっていたよりも温いぐらいだ。だが――」

「なに?」

「正直、集団戦術講義がちんぷんかんぷんだ。……どうやら元来は私は個人行動に根ざした思考の持ち主らしい。将や参謀には向いていないようだ」


 たはは……と聞きながら、エルナは微苦笑を浮かべた。


 ここにいる全員、数ヶ月前に行われた入試において高い成績を収めている。マリーを除けば、各課程の首席合格者だ。

 そんな彼女たちを「キツい」と言わしめるのだから、勇者候補育成校のカリキュラムは相当厳しいのだろう。


「あんたはどうなの? エルナ?」

「そうね……」


 フォークに野菜を突き刺したままエルナはしばし考え。


「厳しいけど、やりがいはあるわね」


 と答えた。

 リコは肩を竦める。


「さすがは、総合首席様は違うわ」


 エルナの眉間がピクリと動く。

 ほんの些細な感情的な動き。だが、化け物みたいな動体視力を持つヴェルテは気付いていた。


「顔が怖いわよ、エルナ。……やっぱりキツいんじゃない?」

「え? そう?」


 思わず顔に手を当て、全体的にもみ上げる。


「お姉ちゃんはいつも怖いよ」


 マリーは微睡みながら毒舌を吐く。


「ちょっと! マリー! どういうことよ」

「ふふふ……。それは一理あるわね」


 油断すれば、眠ってしまいそうな春の日差し……。

 その下で、少女たちの談笑が響き渡った。


 エルナが一瞬吐露した感情の意味を、死線を共にした仲間たちも知らない。


 強い憤りと悔しさ……。あの屈辱は決して忘れることは出来ない。


 ――そう言えば、あいつは一体何をしているのだろう。


 ふとそんな疑問が持ち上がる。

 自分と同じように育成校のカリキュラムに苦戦を強いられていたりするのだろうか。あまり感情としてはよくないが、そうであるなら少しは心の荷が下りるというものだ。


「そういえば、魔法使いの課程でずっと休んでいる人がいるんだ」

「休んでる? 厳しすぎてやめちゃったんじゃないの?」


 マリーの唐突な話題に、側のリコが応じた。


「ううん。その人、入学式からずっと休んでて、学校に来てないの」

「学校デビュー前に引き籠もったなんて――まあ、あり得ないわよね」


 リコは笑う。


「ねぇ……。マリー」


 少し暗い声で話しかけたのはエルナだった。


「その人の名前って……」

「えっと? 確か変わった名前だったよ。えーと……」



 “そう! タチバナマサキって名前だったと思う”



 名前を聞いた瞬間、エルナからどっと殺気のようなものが漏れる。

 それを敏感に察したのは、マリー以外――ヴェルテとリコだった。


 エルナはおもむろに広げていた弁当を包む。

 すっくと立ち上がった。


「お姉ちゃん?」


 姉の様子が変わったことに気付いていないマリーは、首を傾げる。


「ちょっと課題を残していたのを思い出したわ。……先に教室に戻るね」

「え? あ、ちょっと……」


 妹が制止するのも聞かず、エルナは校舎の方へと戻っていった。




 講義用の白い制服を着た教職員は、やや物憂げな顔で学校の廊下を歩いていた。


 とろんとした瞳に、寝癖みたいにピンと跳ねた髪が、歩くたびに揺れている。如何にも幸薄そうな顔を下に向け、大きく溜息を吐いた。


 ――随分と講義内容が変わったわね……。


 カリキュラムが厳しいと思っているのは、生徒だけではない。教官側も思っていた。自分が学校に出た時と比べれば、雲泥の差だ。


 数ある勇者候補育成校の中でも、ゼルデ=ディファス校は優秀な勇者候補を排出している。そのため厳しいのかと思ったが、古参の教官に聞けば今年から大きくカリキュラムが刷新されたのだという。


 理由は明白だ。

 先日の魔族の同時多発的な襲撃事件――。


 中央部はどうやら近く魔族による大規模な侵攻があると考えているらしい。

 下手をすれば、500年ぶりの魔族との戦争になるだろう。

 厳しく育てなければ、生き残ることはできない。


 ――何も私が先生に転職してからならなくてもいいのに……。


 泣き言をいう。


 冒険者から試験官、そしてロケール渓谷での状況判断が認められて、ゼルデ=ディファス校の教官の依頼を受けた。冒険者よりも安定しているが、人に教えるという立場は教えられる立場よりも、数段やることが多い。


 生徒も大変だろうが、教師も倍ほど大変なのだ。


「パルティア先生」


 新任教官パルティア・バルラッドの憂鬱な背中に声がかかる。


 振り返ると、金髪に、ブラウンの瞳。雪で出来たような白い肌をした生徒が立っている。賢者課程の生徒であることは、胸についた職業証でわかるのだが、見る前からパルティアには誰かわかっていた。


「え、えええエルナ、さん?」


 細い腰に手を当て、教え子であるエルナを見て、途端にパルティアの目が泳ぐ。


「ちょっと……。お時間よろしいですか?」

「ふぇ」


 コミュ障の教師は、教え子の薄笑を見て、思わず変な声が出てしまった。



折角、入学したのに不良主人公ですなw


明日も12時に投稿します。よろしくお願いします。


【告知】

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以上、露骨な宣伝でしたw

よろしくお願いします~\(^^)/


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