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第4話

モンスターと初遭遇回です!

 結局、3人に説得され、《死手の樹林》に向かうことになった。


 セラフィには、リーダー権限で目的地を変更したり、契約解除をする選択肢はあった。


 だが、たとえ自分がいなくても、バリン達は決行したに違いない。

 そう確信できるほど、『ワナードドラゴン』のメンバーの決意は固かった。


 ならば、ギリギリまで付き合い、機を見定め、退却を促した方がいいとセラフィは考えた。


 ほっとくというのも1つの手だが、関わってしまった以上、樹林へ行って死んだと聞かされれば、さすがに目覚めが悪い。


 割り切ったとはいえ、いきなりリーダーの言うことが覆されたのだ。

 はらわたが煮えくりかえっていないといえば、嘘になる。


「大丈夫だって! 作戦は必ず成功する」


 荷台にごろりと寝転がり、カヨーテはすっかりリラックスムードだ。


 ――調子のいい男だ……。

 三日も顔をつきあわせていれば、なんとなくメンバーの性格や相性などがわかってくる。


 バリンは真面目な男だ。しかし物事を四角四面に捉えず、柔軟な思考力も持っている。ただどうやら人の機微に疎いらしく、時々空気を読まない。学者肌なのだろう。


 カヨーテは一見調子乗りで、その通りではあるのだが、人懐っこく嫌味がない。

 どうやらクリュナに好意を寄せているらしい。時々、ちょっかいと出したりする理解不能な行動も、思春期に見られる子供だと思えば納得が出来る。


 そのクリュナはとかく優しく、意志が強い。大事が起きても、冷静でいられるような芯の強さを感じる。

 ちなみにバリンをいつも心配そうな目で見つめることがある。

 先ほども言ったが、バリンは人の機微というか、鈍感な男だから、この先大変かもしれない。


 そんな3人を見ながら、時々無性に眩しく思える。

 ふとした時、昔の仲間たちが重なるのだ。


「眠る……。着いたら起こしてくれ」


 セラフィは瞼を下ろした。






「うへー。なんか禍々しさを通り越して、妖気みたいのが見えるぜ」

「え? そんなの見えるの、カヨーテ?」

「ああ。見えるぜ。お前の後ろから、紫色したモヤモヤしたヤツがな」


 カアァン!

 クリュナは聖杖で思いっきりカヨーテをぶん殴ると、硬い金属の音がした。


「ひぃい! おいおい。やめてくれよ! フルアーマーを思いっきり叩かれると、中で反響して耳がつぶれちまう」


 重装騎士らしい出で立ちに変わったカヨーテは、フルフェイスの上から耳の辺りを塞ぐ。


「大丈夫でしょ。いつもモンスターの突撃を受けてるんだから。耳の準備運動にはちょうどいいわ」


 クリュナは顔を背ける。

 2人が口喧嘩する横で、神妙に山の上から《死手の樹林》を眺めていたバリンは、横のセラフィを見る。


「どうだ? セラフィ? 君の提案で、近くの山からこうして見下ろしてみた訳だが」

「なんとも言えないな。静かに見えるが、古代樹に隠れていて中の様子がわからない」


 《死手の樹林》は、5万年もの樹齢を持つ古代樹に覆われた土地だ。

 樹木のほとんどが、200ロール(1ロール=1メーター)もあるため、竜種ですら、巨体を隠せてしまう。

 絡み合うように伸びた枝葉のおかげで光はあまり届かず、中はまるで洞窟のようになっている。


「鳥はおろか怪鳥種すら見えないな」

「古代樹に止まったが最後、枝葉に隠れたモンスターの餌食だからな。故に《“死手”の樹林》と呼ばれているんだよ」

「なんだよ、セラフィ。初めてか?」

「A級のダンジョンに潜ったことは何度もあるが、ここはな。はっきり言って、近づきたくない場所だ」

「大丈夫だって。俺が守ってやるからよ」


 重装騎士のカヨーテが胸を叩く。


「カヨーテが守られる方じゃないの?」

「なんだと! もっぺん言ってみろ! クリュナ!」


 また喧嘩が始まる。


「埒が明かないな。山を下りよう」

「そうだな」


 バリンの提案に、セラフィは素直に応じた。






「よっしゃあ! 行くか!」


 元気よくカヨーテは叫び、フルフェイスのバイザーを下ろす。

 クリュナは聖杖を強く握り、バリンは柄の先に魔宝石が付いたショートソードを抜き、腕にはめたカイトシールドに緩みがないか確かめた。

 セラフィもまた、片刃の剣をすらりと抜き、バックラーよりも少し大きめの円盾を装備し直す。


 そして『ワナードドラゴン』一行は、重装騎士のカヨーテを先頭にして、サイドを賢者のバリンと神官のクリュナ、殿をセラフィに任せ、進み始めた。

 道が一本道なら、クリュナを後衛に置きたいところだが、広く開けた《死手の樹林》では、必ずしも安全とはいえない。むしろ奇襲が受けやすくなるため、経験豊富なセラフィが配置された。


「暗いな……」


 バリンが呟く。

 枝葉が天井を覆っているとはいえ、予想以上の暗さだった。


「今、明かりの魔法を……」

「待て。クリュナ」


 セラフィはクリュナの前に手をかざす。

 小さく呪文を呟くと、クリュナの目がほんのり明るくなる。

 次第に明かりは収縮し、再びダンジョン内は闇に沈んだ。


「わあ、すごい!」


 目の周りを押さえながら、クリュナは驚嘆した。

 同じようにバリンとカヨーテにも魔法をかける。


「これは? 視力を増幅する魔法か?」


 ダンジョン内を見回しながら、バリンもまた驚いた。


「こんな魔法を聞いたことがありません。……学校でも」

「オリジナルだ。……光明の魔法やたいまつをつけるより、こっちの方がいい。明かりはモンスターを寄せ付ける恐れがあるからな」

「魔法を作ったのかよ。セラフィってやっぱスゲェんだな……」

「賢者はオールラウンダーなジョブだと思われがちだが、本来はこうした魔法の研究やパーティにおける戦術の開発するための職業なんだ。実際、勇者アヴィンもそうやって自分のパーティを強くして、魔王に肉薄した」

「セラフィ……。あとで、私にこの魔法を教えてくれないか?」

「あ、私も!」


 はい! はい! とクリュナは手を挙げる。


「構わないが……。受講料はきっちりもらうぞ」


「「「…………」」」


 3人は一斉に黙り込む。


「じょ、冗談だ。そんな黙るなよ。簡単な魔法だから、いくらでも教えてやる」


 セラフィの顔は真っ赤だ。


「セラフィが言うと、冗談に聞こえないんだよなあ……」

「同感だ。ふふふ……」

「セラフィも冗談を言うんですね」

「う、うううるさい! 皆の緊張をほぐそうとだな」

「わかったわかった」


 カヨーテがセラフィの背中を叩き、先頭を歩き出す。

 妙なツボにはまったバリンは、まだ笑いながら「じゃあ、殿を頼んだよ」と声をかけた。

 最後に「頑張りましょう」と激励を送ったのは、クリュナだ。


 火照った顔を軽く撫でながら、セラフィは歩き出す。

 その口元には笑みが浮かんでいた。


 少し昔の仲間のことを思い出していた。





 北へと向かっていた一行は、カヨーテの「静かに」という合図で動きを止めた。


 勘がいい……。


 セラフィは「密集」のゼスチャーを送る。

 3人は即応し、背中を合わせて死角をなくす。周囲を警戒した。


 すでに4人には共通の理解が出来ていた。


 見られている……。


 おそらくモンスターだろう。


 モンスターにも好戦的なものと、縄張りに踏み込んだり、極度の興奮状態にならない限り襲ってこないものがいる。

 現に、ここに来るまでに何体かのモンスターと遭遇しているが、交戦には至らなかった。これは《死手の樹林》で、明かりを使わせなかったセラフィの功績が大きい。


 しかし、とうとう見つかった。


 おそらく好戦的な方の……。


 こうなると、さすがに回避するのは難しい。

 あとは如何に穏便に済まし、他のモンスターを刺激しないようにするかということだけだ。


 故にここから初動の戦闘までは、人語は禁止だ。


 人間の言葉を理解するモンスターは稀だが、人間の言葉だとわかるモンスターは上級のダンジョンには多い。さらに厄介なのは、そういう魔獣に限って、仲間を呼ぶ習性を持つ。


 枝がしなる音が聞こえた。


 セラフィは上を向く。


 古代樹の巨大な幹に、無数の黒い斑点模様が付いているのが見えた。


 病害……?

 目を凝らした。


 違う。


 斑点がうごめく。

 2点の濁った光。唾液に濡れた分厚い唇。そして異様に発達した大きな鼻と耳。


 それは顔。

 モンスターの――。


 周囲の古代樹に張り付いたすべての黒い点が、モンスターだった。


 ――囲まれてる!


 セラフィはカヨーテの背中を一度叩いた。


 カヨーテを先頭にして走れ――の合図。


 新リーダーの判断に、重装騎士は迷わず走り始め、仲間も後を追った。


 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン


 ドラミングが《死手の樹林》にこだました。


 ――やはり《黒い巨猿》ブラックバックか!


 AからB級の暗がりのダンジョンに生息する巨大な猿。

 非常に好戦的なうえ、目が退化した代わりに鼻と耳がきく厄介なモンスター。

 集団で襲ってくることが多く、ドラミングで次々と仲間を呼ぶことから、勇者候補たちからは『警報装置』と言われている。


「囲みを突破するぞ!」


 森のモンスター達に知れ渡ってしまった。

 黙る必要がなくなり、長らく閉ざしていた口から檄を飛ばす。


「ブラックバック自体は対した強さじゃない。迎え討ってもいいんじゃないか?」


 セラフィの指示に、反駁したのは先頭のカヨーテだ。


「いや、ブラックバックよりも、今ので他のモンスターも気付いてやってくる。まずは場所を移すのが得策だ」


 支持したのはバリンだ。


「クリュナ! 付いてきてんな!」

「はい! 大丈夫です!」


 カヨーテは後ろの神官を気にしながら、前を走る。


「前だ」


 セラフィの悲鳴のような声がこだました。


 一体のブラックバックがカヨーテの前に現れる。


 止まる、と思ったその時、あろうことかカヨーテは加速した。


「ぬおおおおおおおお!」


 裂帛の気合い。

 カヨーテは自分をすっぽりと隠すほどの大盾を前に掲げる。

 そのまま激突した。


 果たして吹き飛ばされたのは、巨猿の方だった。

 血反吐を散らしながら、セラフィの後方へと消えて行く。


 重装騎士のスキル――【突撃牛】オーブル・シュだ。


 カヨーテはその後も2、3体同じように吹き飛ばす。


 セラフィは上に注意を向けた。

 古代樹に張り付いたブラックバックはいない。

 囲みを抜けたのだ。


 ――よし!


 セラフィは1人反転する。


「セラフィ!」


 バリンの声が聞こえた。


 アイテム袋から、粉が入った小さな袋を取り出す。

 すると後方から追ってくるブラックバックの群に投擲した。さらに3回繰り返す。

 そして――。


【突風唱】レイク・フィル!


 風の精霊魔法を唱える。しかもごく初歩の。

 ダンジョンで滞留する空気が、ブラックバックに向かっていく。


 途端、先頭のブラックバックが倒れた。

 それを契機に、次々と巨大な猿たちが昏倒していく。


 残ったのは、黒猿の大きな寝息だった。


「眠り粉、か……」


 目を見開きバリンは驚愕していた。


 決してレアアイテムとかそういうものではない。

 ギルドが運営するアイテムショップなら簡単に手に入れるものだし、材料さえ調えば、薬師でなくても簡単に調合可能なマジックアイテム。


 それがA級ダンジョンのモンスターをあっさりと眠らせていた。


「すげーじゃん! セラフィ!」


 合流したセラフィの背中を、カヨーテはバンバン叩いた。


「静かにしろ、カヨーテ! 折角大人しくしたブラックバックを起こしてしまうぞ」

「ああ、わりぃ……。つい――」


 珍しくバリンが怒るのを見て、カヨーテは禿頭を撫でる。


「凄いなあ。まさか眠り粉が、上級のモンスターに通じるとは」

「その考えは改めた方がいいな、バリン。A級ダンジョンのモンスターでも、状態異常を引き起こす道具や魔法が有効な時がある。特にブラックバックは鼻や耳がきく代わりに、薬や音魔法に対する耐性がない。うまく立ち回れば、最小限の労力で無力化することができる」

「やっぱ凄いわ」


 またセラフィの小さな背中を叩くカヨーテ。


「それを言うなら私もだ、カヨーテ。まさかあの巨体を重装騎士のスキルだけで吹き飛ばしてしまうとはな」

「お!? 嬉しいねぇ……」


 へへ、とカヨーテは鼻の下を掻く。

 その手と反対の手を、クリュナは引っ張る。


「痛て! おい! クリュナ!」

「やっぱり怪我してる」


 見るとカヨーテが大盾を持っていた手が、あらぬ方向に曲がっていた。


「まったく……。あんなことをすれば、こうなるに決まってるわよ」

「ありゃ、ばれちまったか。セラフィに俺の実力を見せてやろうと気張ったんだが。これじゃあ冴えねぇなあ……痛て!」

「肩も亜脱臼してるわね」

「大したことねぇって……」

「ダメです! パーティのコンディション管理を預かる神官としては看過できません」

「クリュナ……。治癒には時間がかかるか?」

「指はすぐ治るけど、亜脱臼って魔法でも、結構治すのが時間がかかるのよ」

「わかった。私が先頭に出る。サイドをカヨーテとクリュナ。治療しながらでも大丈夫だな」

「ええ。問題ないわ、セラフィ」

「殿はバリンだ」

「わかった」

「ともかく一刻も早くこの場を離れよう。他のモンスターが集まってきたら厄介だ」


 3人は同時に頷いた。


初遭遇が、初戦闘にはなりませんでしたが、ガリガリ戦うのはまた後ほど……。


次のシーンですが、少し長くなってしまったので、分割して投稿します。

第5話(前編)は明日12時、第5話(後編)は明日18時にします。

ややこしいですが、ご理解いただければと思いますm(_ _)m

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