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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~
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第18話(中編)

中編です。

よろしくお願いします。

 後衛から仲間の背中を見ていたリコは、背筋を寒くしていた。

 とりわけ、作戦とそれを立てたエルナに対してだ。


 打撃戦を挑み、亡霊騎士の鎧の効果を削ぐ。そこまではわかる。

 リコにも同じ考えはあった。

 だが、筋力が高いヴェルテに拳闘を挑ませ、あまつさえ自分の妹にもインファイトを要求するとは思わなかった。


 さらにエルナの魔法だ。

 あれは単なる技術――もはや曲芸の域だ。


 あらかじめ作製しておいた鉄の飛礫を、風力魔法で弾く。

 やっていることは“ただ”それだけ。


 亡霊騎士の攻撃の初動を読み、的確に封殺。さらに接近戦をしている2人の間を抜いて、当てなければならない。

 仲間に当てれば、怪我は必定。好戦している状態から一気にピンチにだってなりうる。


 高速で動く仲間の上に掲げられた果物を、絶えず狙い続ける集中力と、常人にはにわかに信じがたい魔力コントロールが必要になる。


 作戦を立てたヤツも狂っているが、それに乗る自分も、信じて戦っている2人の前衛も同じぐらい頭がおかしい。


 作戦を聞いた時のことを思い出す。




「ちょ――。あんた……。何を言っているのかわかってんの?」

「まあ……私が立てた作戦だからね」


 驚愕に目を見開くリコに、エルナは冷静に返した。

 ますます神官の少女の眉間に皺が寄る。


「そ、そんなこと出来るの?」

「出来るわ。一か八かとかいう意味じゃない。10割できる自信がある」


 自信満々に言い切るエルナに、リコはますます困惑する。

 大丈夫だよ、と声をかけたのは、接近戦をすることになったマリーだった。


「あんたねぇ。お姉ちゃんが言うことだから信頼しているのはわかるけど、接近戦をするのよ、あんた!」

「私に『妹の力を侮るな』みたいなことを言ってて、自分は侮るのね」

「ちゃちゃを入れないで! エルナ」

「大丈夫だよ、リコ。これでも接近戦はよく師匠との1対2の模擬戦でよくやってるから」

「模擬戦?」

「お姉ちゃんと2人で組んで、師匠と戦うの。私が前衛、お姉ちゃんが後衛」

「普通、逆じゃないの?」

「そうだね。最初、そうだったんだけど――」


 マリーは自分の眼鏡に指をかける。


「私、ど近眼だから、すっごく援護射撃が下手で……。間違って、お姉ちゃんに当てちゃった――なんてことが、結構……でへへへ」

「……思い出すと、腹が立ってくるわ」


 割と本気で、エルナは額に青筋を浮かべていた。


「今は、だいぶうまくなったんだよ! ……で――だから、私が前衛ってことになったの。敵が近くにいれば、よく見えるから」


 マリーは妙に得心する。

 亡霊騎士に飛び込んでいった時に、彼女は遠距離からの魔法ではなく、近距離を選んだ。


 あれは怒りに任せてというよりも、それがマリーの最大火力だったからかもしれない。


「でも、騎士の初動を抑えるなんて無理よ。しかも、魔法で遠くから……。それこそマリーみたいに仲間に当てちゃうわよ」

「その当たりは、お姉ちゃんの技術を信じてあげて」

「信じてあげて……って――」

「私も信じるぞ……」

「ヴェルテまで!」


 黙って作戦を聞いていたヴェルテに、リコは向き直る。


「どっちみち、その作戦以外にない。やらなければ死ぬだけだ。仲間に背後から撃たれたところで、同じことだろう」

「ヴェルテ……。気持ちは嬉しいけど、その言葉に信じるっていう前向きな意志が感じられないんだけど……」

「私がやることは、あの騎士に突っ込んでいくことだ。違うか? エルナ」

「ま、そうだけどね……」

「なら、信じる信じないはエルナに任せる。大いに悩んでくれ」

「さりげなくプレッシャーを与えないでよ」

「それぐらいは我慢しろ」


「ああ! もう! わかったわよ!」


 リコは叫ぶ。


「あんたたちがどれだけイカれた連中かよくわかったわ! 乗ってやるわよ、私も!」

「リコちゃん!」

「ちょいちょい“ちゃん”付けするのやめて、マリー!」

「ご、ごめん」

「まったく……。これじゃあ、勇者っていうより、賭博師よ……」

「案ずるな……。エルナはとっくに私にとっての賭博の神だ」

「ねぇ、リコ……」

「なによ……?」


 頬を膨らませたリコが、エルナに振り返る。


「もし……。この戦いに勝ったら――」

「ちょ! 気持ち悪いこと言わないでよ! そういうのはね。子供が読む偽英雄譚では、“フラグ”っていうのよ」

「フラグ……?」

「でも、まあ……ホントに勝ったら。なんでもいうことを聞いてあげるわ」

「それは良いことを聞いたわ……」


 エルナは微笑んだ。




 実は、あの時――リコにもエルナに言いたいことがあった。


 だが告げることは出来なかった。

 勝てるとは思えなかったからだ。


 けれど――今なら、勝てるような気がする。


 この仲間たちとなら――。


 リコはふと気付く。

 最初、自分が何を目指していたか、ということを。


 最強の個に、最強のパーティで挑む……。


 まさに今、この状況がそうだ。

 だが、今このパーティを率いているのは、リコではない。


 エルナ・ワドナー……。


 一度は“最強の個”として認めた相手。


 ――悔しいわね……。


 でも、嬉しくもある。


 最強の個に、最強のパーティが挑む。

 それはきっと、アヴィンが目指した理念の1つなのだから……。


「くそが!!」


 しつこいほど接近戦を挑まれ、痺れを切らした亡霊騎士が、リコに矛先を向ける。


 用意しておいたアルテラを放つ。

 光が亡霊騎士の動きを止めた。


「ぬおおおおおおおおおお!!!」


 先ほどよりも効いてる。

 鎧の耐久がなくなってきている。見れば、あちこち歪んでいた。


 なおもヴェルテとマリーが動く。

 果てしない相乗攻撃。


 体力の限界は近いが、止まれば死ぬという理解と覚悟が、2人を動かし続ける。

 極限の集中、緊張に耐えるエルナも同様。

 アルテラという大魔法を連発するリコも同じく。


 しかし止まらない。


 それどころか、洗練され、完成されていく。


 パーティとしての動きが――。


「頃合いよ!」


 エルナが叫んだ。


 ヴェルテの動きが僅かに変化する。


 少し亡霊騎士から退く。

 そこは懐よりも危険な剣の間合い。

 すかさず亡霊騎士が剣を振りかぶる。


 エルナの飛礫が襲いかかり、騎士がのけぞる。


 瞬間、ヴェルテはあらかじめ土の中に隠してあった大剣を強く蹴る。

 びょんと起き上がった愛剣の柄を握った。


 ギィン!


 金属音が響く。

 弾いたのは騎士の鎧ではなくて、魔剣そのものだ。


 驚いたのは、亡霊騎士だった。

 一瞬、硬直する。


 丸腰になった相手の背後に、マリーが回り込む。

 すると、ハウ・ブリーンで吹き飛ばした。


 背後から急襲。

 亡霊騎士はなすすべなく、空中で一回転し、前のめりに突っ伏す。

 だが、すぐに起き上がり、叫んだ。


「殺す! 殺すぞ、貴様らぁあああああああああ!!!」


 自分の剣を探す。


 だが、弾かれた魔剣の姿はない。

 と思えば、その剣を手にした少女が立っていた。


「馬鹿め! 人間が我らの魔剣に……。――!!」


 人間は魔剣を扱えない。

 魔界の空気を毒と感じるように、魔剣もまた人間にとって毒でしかない。


 しかし、その少女は立っていた。


 平気な顔というほどではないが、安定した精神状態に思う。


「まさか! お前、魔剣士か!!」


 聞いたことがある。

 優れた魔力耐久を持つ人間の中には、先天的に魔界の毒になれたものがいると。


 かつて忌々しい勇者の仲間の中に、1人いたことを思い出す。


 魔剣士が地面を蹴った。

 真っ直ぐ亡霊騎士へと向かっていく。


 今は、丸腰――。鎧だけでは剣を受けきれない。


 亡霊騎士は一旦横に回避しようとする。


 だが、そこにいたのは賢者の女。


 ――何故、ここにいる!!?


 【熱限突破】ハウ・ブリーン!


 脇腹付近を叩かれる。

 魔法使いほどの威力ではないが、亡霊騎士の動きが止まった。


 わずか数瞬の硬直。

 十分すぎるほどだった。


 亡霊騎士の前に、剣士が大上段で魔剣を構えていた。


「ひぃ」


 初めて人間に対してあげた悲鳴――。


 無慈悲に袈裟に落とされる。


 硬い鎧をものともせず、真っ二つに切り裂いた。


「くそ!」


 悪態を吐きながら、黒い霞のような気体が鎧の中から出てくる。

 亡霊騎士の本体だ。


 直上に向かって飛び出し、逃亡を図る。


 が――。


「待ってたわよ! この時を――!!」



 【神罰】アルテラ!!



 光の爆流が襲いかかった。


「――――――――――――――――――――――――ッッッッッ!!!!」


 声なき悲鳴を上げる。

 黒い気体が蛇のように悶え、光の中に消えて行く。


 ついに消滅し、この世から跡形もなくなった。


 光が収縮する。

 残ったのは、無残な鎧の残骸だけだ。

 それも少し風がなびくと、からからと音を立て、地面の上を転がっていく。


 4人の前から、脅威が消えた。


 しかし、勝ち鬨の声はない。


 マリーは荒く息を繰り返しながら、地面に手をつく。

 リコは、小さく「やった」と声を上げて、そのまま地面に突っ伏した。

 エルナも、すとんとお尻をつけると、大きく息を吸う。


 カラン――金属音が鳴る。


「ごふっ……。ごふおふ!」


 蹲り、押さえた口から鮮血を吐き出したのは、魔剣を振るった少女だった。


「ヴェルテ!」


 エルナは疲れを忘れて飛び出す。

 駆け寄ると、回復魔法を唱えた。

 魔力切れのような症状も出ていたので、袋から魔力鎮静剤を取り出して飲ませた。


 傍らの魔剣を見る。

 漆黒の剣は物言わず、刃の腹を見せていた。


「大丈夫……?」

「み…………た………………」

「え――?」

「見た……? わたしが…………魔剣を……ふる………………ってる、とこ」


 血が付いた口端を広げ、少し自慢げに笑う。

 エルナは少し呆然とした後、柔和に微笑んだ。


「ええ……。見たわよ。ありがとう、ヴェルテ」

「どう……いたし…………まして………………」


 ヴェルテは目をつぶる。

 さすがに疲れたのだろう。そのまま眠ってしまった。


 リコは草原に寝っ転がった状態で尋ねる。


「ヴェルテは……?」

「大丈夫。無事よ……。でも、一応治癒師に――」



 瞬間――――言葉が凍った。




後編は21時にお送りします。

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