第18話(前編)
まずは前編です。
よろしくお願いします。
「本当に出てくるとはね」
亡霊騎士は重い音を立てて、地面に降り立つ。
「嬉しいよ……。本当はね。出てきてくれないんじゃないかと思ってたんだけど……。さすがは勇者だね、と褒めてあげるよ」
「あんたたちの狙いは何?」
後列に立つリコが尋ねた。
「それを言ったところで、どうなるって言うんだい? 君たちはここで死ぬっていうのにさ」
亡霊騎士は漆黒の魔剣を抜いた。
瞬きすら許されぬ緊張感が、4人にのしかかる。
「いい加減、君たちとこうして語り合うのも飽きてきたんだ」
“だから……死ね――!”
殺意が膨れる。
開戦の合図だった。
先手は、エルナたちだった。
定石通り、リコが補助魔法をかける。
ヴェルテと、もう1人はマリーだ。
2人は迷わず魔族に向かっていく。
仕掛けられた亡霊騎士は「はっ」と笑った。
「今気付いたけど、1人増えているねぇ……。もしかして君かな、僕の兜をこんな無様な形にしてくれたのは」
鋭い殺意が、魔法使いに向けられる。
後退したい気持ちを必死に堪えながら、マリーは距離を詰める。
先に相対したのはヴェルテだ。
手には剣を持っていない。補助魔法によってブーストされた無手だけ。
「あれ? 君……戦士じゃなかったっけ?」
躊躇わずヴェルテは突っ込んだ。
馬鹿が! 亡霊騎士は躊躇せず魔剣を振り下ろす。
瞬間、剣が弾かれた。
「なに?」
戦士の女がやったのではない。
何か高速で打ち出されたものが、剣先に当たり弾かれた。
なんとか剣は離さない。
万歳をするような姿勢になった騎士の懐に、ヴェルテが潜り込む。
迷わず拳を打ち込んだ。
ゴン、と固い音が響く。
魔法の補助を受けた拳が、わずかだが鎧に傷を付けた。
「くそ!」
亡霊騎士は無理矢理身体をひねって、ヴェルテに振り下ろす。
だが、再び剣が何かによって弾かれた。
悪態を吐きながら、目の端で捉えたのは、魔法使いの少女――。
後ろに回り込んだ瞬間。
【熱限突破】ハウ・ブリーン!
人間でいう肝臓がある部分を狙い撃ちする。
強い衝撃に、亡霊騎士はぐらりとのけぞった。
同時に確信する。
先ほど、自分が受けた打撃だと――。
騎士は怒りをみなぎらせて、身体を一回転させながら、横に――。
――薙ぐはずが、今度は肩に何かが当たり、回転が止まる。
マリーは隙を見て、後退する。
何が起こったのか、確認する必要があった。
亡霊騎士は前衛のヴェルテ、マリーの奥を見る。
エルナが大量の鉄の飛礫を持って狙い付けていた。
――あれか!
エルナに直進した。
「ば~か」
罵詈が聞こえた瞬間。
【神罰】アルテラ!
光の奔流が亡霊騎士に落ちてきた。
「ぐうぅ!!」
魔族は呻き声を漏らす。
兜や鎧の一部分の魔法耐性が機能しなくなり、アルテラの効果が浸透する。
それでも鎧の上から火をあぶられる程度のものだが、亡霊騎士は足を止めた。
「効いてる!」
リコが声を上げる。
アルテラの光がなくなった瞬間、再びヴェルテ、マリーが突っ込む。
「なめるな!」
痺れが残る身体を無理矢理動かし、魔剣を振るう。
再び弾かれる。
ヴェルテの拳が先ほどと同じ位置に突き刺さる。
魔族は蠅を振り払うように、剣を持つ手とは逆の手を薙ぐ。
が、戦士の女はすでにいない。
現れたのは、魔法使いの女!
【熱限突破】ハウ・ブリーン!
また打撃。
今度は堪えきれず、吹っ飛んだ。
木の幹にぶち当たり、倒れる。
「くそ!」
倒木の音を聞きながら、立ち上がる。
目の前には戦士と魔法使い。
亡霊騎士は剣を振るう。
初動の前に、鉄の飛礫が剣を弾く。
二者の拳が鎧を貫いた。
後衛に目をやる。
また神官の女がアルテラの準備をしていた。
亡霊騎士は逃げるようにその場を離れる。
――なんなんだ、これは……。
実は、ダメージはそれほどない。
少し火傷をした程度だ。
が、攻撃が全く出来ない。
すべて初動から封じられる。
賢者の女を攻撃しようにも、後衛を潰そうとすれば神罰魔法が降ってくる。
このまま打撃を受ければ、鎧にかけられた魔法が完全に停止するかもしれない。
――くそが!
また悪態を吐く。
苛立たしい。全くピンチでもないのに、焦る自分に腹が立つ。
兜や肩、腰の部分から黒い霞を吐き出しながら、亡霊騎士はそんな事を考えていた。
次の中編は18時投稿予定です。