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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~
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第17話

短めですが……。

お付き合い下さい。

「おい、三男。 起きろ!」


 こんこん、とひしゃげた兜が叩かれる。


 ほんのわずかな衝撃は、精神体である亡霊騎士に火を入れた。

 赤い魔力光が兜の奥で光り、その身をゆっくりと動かす。


「やあ、長男……」

「やあ……ではないぞ、三男。共感覚が切れたので、来てみればこの有様だ」

「しかも、我が主より賜いし、鎧を傷つけるとはな。無様だぞ、三男」

「何があった?」

「何があった――。…………?」


 亡霊騎士は少し考えるような仕草をする。

 何かを思い出し、周囲を窺うが、倒木した幹が並んでいるだけだった。


「どうやら、人間どもに逃げられたらしいよ。長男」

「自ら志願しておきながら、ざまあないな、三男よ」

「…………」

「ん? 何が言いたげだな、三男」

「なんでもないよ。しかし、僕たちは3つで1つの存在のはずだ。僕を貶すことは、次男を貶すことにもなるよ」

「なんだと! 三男」

「よせ。次男……。ならば、今度は全員でかかろう」

「その必要はないよ、長男」


 亡霊騎士は起き上がり、ひしゃげた兜を力尽くで修復した。


「あいつら、僕がやる……」


 まだ歪な形のまま兜から、炎のように霞が噴き出る。


「いいだろう、三男。仕留めてこい」

「よいのか? 長男」

「問題あるまい。我らは我らの任がある。早く方陣を完成させ、我らが主を召喚するという大任がな」


 そう言うと2体の亡霊騎士はどこかへ言ってしまった。


 小うるさいヤツらが消えるの見計らい、亡霊騎士は垂直に浮き上がった。

 霧を抜けると、渓谷全体を見渡せる高度で静止する


 すると剣を軽く振る。


 衝撃波は波となり、灰色の霧が払われた。

 久しぶりに渓谷に陽の光が当たる.木々や川が色づき輝き始めた。


 自然の光景を睥睨しながら、亡霊騎士は人間がやるみたいに息を吸い込む動作をした。



「主より賜いし兜を傷つけた人間ども! 出てこい! 我はお前ら許さぬ。今すぐ出てこなければ、この地形が変わるとしれ!!!」



 渓谷どころか国境の向こうまで聞こえていそうな大音声だった。


 野獣、魔獣が騒ぎ始める。

 木々がざわめき、土や木の中に隠れていた小さな野生動物まで住処から這いだし、逃げ惑う。野鳥、鳥型のモンスターが羽を広げて一斉に飛び立っていく。


 亡霊騎士はしばし《ロケール渓谷》の眺望した後、剣を構えた。

 狙うはセーフポイント……。


 さすがの亡霊騎士もモントーリネの加護を突き破ることは出来ないが、脅しぐらいにはなる。


「待ちなさい!!」


 獣の声に混じって聞こえてきたのは、明らかに人間の言語だった。


 亡霊騎士はすぐに声のもとを特定する。

 空中で反転すると、下降する。


 数人の勇者候補が、待ち構えていたように騎士を取り囲んだ。


「見つけたぞ、勇者ども……」


 兜の奥の霞が、笑ったような気がした。






 《ロケール渓谷》の入口前は騒然としていた。


 治療師の叫び声が、職員の指示の声が、保護者の罵倒の声が、記者が質問する声が、渾然一体となっている。


 一体誰が誰に向かって叫び、誰に指示し、誰を罵り、質問をしていたのかすらわからない。ダンジョンから奇跡的に生還した受験生や試験官が現れる度にどよめき広がり、四者の声が交わっていく。


 つい先ほど、イエッタとポポタ、パルティアたちもそんな声に揉まれた組だ。

 ユンとガータは治療師たちに任せた。幸い、命の別状はなく2、3日休めば回復するのだという。


 様々な人に付き従われるように身体検査が行われる事務局に入り、検査の順番を待っている。

 子供の名前を呼び、再三にわたって「見かけなかったか?」「知りませんか?」と話しかけてきた母親の声が、いつまでも耳について離れなかった。


 一方、セラフィは試験本部に自分が見た魔族のことについて報告していた。


「に、にわかに信じられません。何かの間違いでは?」

「この目で見たんだ! 早くギルドに連絡しろ! A級以上の勇者候補を50人ほど寄越せとな」


 机を叩き、セラフィは詰め寄る。

 青白く如何にも事務屋という感じの男は、額に浮かんだ汗をレースが付いた布で拭う。


「しかし、ゼルデ=ディファスには、確かに《魔界の道》がありますが、魔族がこんな人里近くまで現れるなんて、ここ100年で一度もなかったんですよ。それがよりにもよって、今日なんて」

「とりあえず、忠告したぞ! 1時間以内に、ここにA級ライセンスの勇者候補たちがいなかったら、今のやりとりを文屋に漏らすからな!」


 念押しして、セラフィは部屋を出る。


 廊下に出ると、そこは野戦病院さながらだった。


 どうやら、すでに「魔族が出た」という噂は広まっていた。セラフィ以外にも目撃者がいるのだろう。


 セラフィが強行に試験本部長に訴えたのは、とある噂を聞いたからだ。




「困ったな……。今回は《塚守》が当てに出来ないかもな……」


 パルティアたちを送り届けた後、ふと耳に届いた噂話に、セラフィは食いついた。思わず記者らしき男の胸ぐらを掴む。


「待て。……《塚守》が当てに出来ないとはどういうことだ?」

「お、おお落ち着けよ、姉さん……」

「どういうことだと訊いている!?」


 さらに詰め寄る。

 記者は、仰け反りながら何度も自制を促す。


「あくまで噂レベルの話だ。王都付近にも、ここみたいに魔族が確認されたって」

「なに!」

「王都はパニック状態らしい。……その討伐のために、自慢の王立近衛兵団ではなくて《塚守》の派遣が先に決まったらしいからな」

「な――――!」


 目を見開き、呆然となる。

 混沌とした状況の中、1人セラフィだけは少し楽観視していた。


 マサキが来れば、なんとかなる――そう思っていたからだ。


 しかし事情から察するに、マサキが来ないことも十分考えられる。

 何故、試験会場にいないのかという疑問を置いておくとしても、大本営である王都に侵攻されれば、そちらの防衛に回るのは当然のことだ。


 ――ならば、ここは……!


 セラフィは決意を固め、今一度霧深いロケールの谷を見つめた。


 そして、魔族のあの大音声が聞こえてきたのは、この直後だった。


明日は前中後編の3部でお送りします。

前編は12時。

中編は18時。

後編は21時になる予定ですので、

お付き合い下さい。


※ 恒例の質問が飛んできそうなので、あらかじめ言っておくと、

  アイツはまだ現れません。でも近いうちには……。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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