第15話
3人の少女 VS 魔族 開戦!!
「僕を倒すね。人間が? しかも子供が……? 面白い事を言うね」
亡霊騎士は剣を肩に担ぐように持ちあげる。
兜の奥は、黒い気体のようなものに満たされていて、表情こそうかがい知れないが、笑っているような気がした。
「勝算は?」
「馬鹿ね。……訊かないでくれる」
リコは薄く笑う。
「そんな大口をよく叩けたわね」
「こういうのはね。言ったもん勝ちなのよ、エルナ」
「ここで倒さなければ、確実に我々は――」
みなまで言う必要はない。
やらなければ、死ぬだけ――。
それは、全員一致の共通理解だった。
勝算は?
とエルナが訊いた時、リコは笑った。
そして「訊くな」とも言った。
つまり、勝算はあるけど、魔族には聞かれたくないということだ。
そして、エルナにも勝算と作戦があった。
ヴェルテも何となく気付いているはずだ。
「ヴェルテ、死ぬ気で一緒に仕掛けるわよ。リコは魔法を」
エルナの指示に、2人は同時に頷いた。
全員共通の認識だと確認し、エルナはショートソードを抜き、接近戦に備える。
「天神モントーリネよ……」
この世でもっとも有名な呪文の一小節目を唱えられる。
それが合図。
ヴェルテとエルナは弾かれるように飛び出す。
魔族は「あはっ」と笑って、迎え討つように剣を構えた。
エルナは走りながら魔法を唱える。
ヴェルテの足に加護を与えると、スピードが上がった。
目にもとまらぬ速さで、背後に回り込む。
急なスピード変化――。騎士が動きについていっていない。
間髪に入れず、ヴェルテは横に薙ぐ。
亡霊騎士は叩きつけるように剣を弾いた。
奇襲が失敗。だが、体勢は崩した。
次にエルナが襲いかかる。
ショートソードの切っ先を兜の隙間に向けた。
「甘いね!」
亡霊騎士は、片手で軽々漆黒の剣を持ち上げると、一気に振り上げた。
剣線がエルナを引き裂く。
賢者の少女が、股下から脳天にかけて真っ二つに割れた。
前途ある若者の死――。
「――!」
驚いていたのは、魔族だった。
空中でショートソードを構え、身を2つにされた少女の姿が陽炎のように。
消えた――。
「残像魔法よ……」
気がつけば、自分の脇の下あたりに、少女が立っていた。
【颶風の暴獣】アル・リュノ!
まさしく風が爆発した。
いかな魔族でもその衝撃に耐えられるものではない。
真横にカッ飛んでいくと、木の幹に突き刺さり止まる。
ダメージは0。
今はそれでいい。
ヴェルテに補助魔法をかける。
戦闘態勢は整った。
「くっそ! 油断した!」
亡霊騎士は立ち上がる。
ヴェルテは走った。
さらにスピードを増した動きは、亡霊騎士の間にあった距離を侵略する。
振るう!
亡霊騎士は難なく受けるが、体勢がまだ整わないので押し返せない。
かと言って、深追いはしない。
反撃を予想して、立ち回る。
エルナはちらりとリコを盗み見る。
最終から3小節手前。もうすぐ終わる。
確実に当てなければならない。
お膳立ては、自分がする。
「なんか! 企んでるな、君たち」
亡霊騎士がヴェルテの3撃目を受けたところで、方向を変える。
「エルナ、そっちへ行ったわ!」
ヴェルテも追いかける。
エルナは迫り来る亡霊騎士に対してショートソードを投げた。
捨て鉢のような攻撃を、魔族はあっさりと弾く。
その身に突き立てるように剣を振り下ろす。
「今度は、残像じゃないだろ!」
剣線が閃く。
金色の髪が数本、大気に揺られた。
エルナはかわしていた。額に血の線が引かれる。
いつの間にか、賢者の少女は魔族の懐に入り込んでいた。
【熱限突破】ハウ・ブリーン!
胴鎧の上から全力の拳を打ち付ける。
再び亡霊騎士は吹っ飛んだ。
しかし、今度は堪える。
野原を滑りながら、5ロールほどの位置まで下がる。
「くぅぅぅぅぅぅ! かっっっっったあああい!」
拳をかかげながら、悶絶する。
でも、さすがにオーバーなリアクションはとれない。
「大丈夫。エルナ?」
「ええ? なんとか……」
涙目で応じる。
「仕掛けは?」
「オーケーよ」
エルナはリコを見る。
向こうも準備万端だ。
「そんな攻撃で僕を倒せると思っているのかな、人間」
「思ってないわよ」
エルナは呪文を唱える。
一小節で済む初級の魔法。
【土竜】マグブラ!
手を地面に置いた。
限定された範囲内で、小さな揺れを引き起こす魔法。
むろん、これも魔族に通じるものではない。
しかし――。
亡霊騎士を中心に亀裂が入る。
地面が隆起すると、あらかじめ魔法で掘削していた大穴に、騎士は落下した。
「こんなものを用意していたのか! 面白いね……」
自分を中心に集まってくる流土を押しのける魔族。
鬱陶しげに手で掻いていると、それは突如、天から降り注いだ。
【神罰】アルテラ!
土で身動きがとれなくなった亡霊騎士に、光の罰が降り注ぐ。
対魔術最強攻撃呪文が、見事に突き落とされた。
「うぐああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
断末魔の悲鳴が、光の柱の中心から聞こえる。
光の拷問に、魔族といえどなすすべはない。
「やった!」
思わず歓声を呟いた。
奇跡的な連携だった。
アルテラの呪唱時間を稼ぐために、最初にエルナとヴェルテが相手をした。
補助魔法と、エルナが魔族の隙をつくるための手段を講じるための時間を稼ぎ、さらにヴェルテが数合打ち合うことによって、さらに時間を稼ぐ。
魔族がエルナを襲った時には、すでに仕掛けは終わり、万策尽きたかのように剣を投げて、素手の魔法で仕掛け位置まで誘導――とどめのアルテラ……。
エルナの極端に短い呪唱速度と多彩な魔法。
魔族と打ち合う事ができるヴェルテの剣技。
そしてリコのアルテラ……。
すべてが見事に絡み合い、若干15歳の少女たちは、魔族を駆逐することに成功した。
「――かに見えた?」
アルテラの光の奔流が消えた後、その絶望的な一言は、どんな攻撃よりも少女たちの心を抉った。
ぽっかりと空いた穴の中心……。
そこに立っていたのは、亡霊騎士だった。
「残念だったね」
兜の隙間から見える霞が、ちろりと舌を出すように噴き出した。
次回は作者がもっとも悩んだ回です。
※ 明日18時に投稿です。




