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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~
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第14話(後編)

後半です。

 一滴――落ちた。


 音はなく、地面に黒いシミを作って、消えた。


 大量の汗が噴き出していた。

 下着もぐっしょりと濡れているのがわかる。

 なのに、喉はカラカラで、何度唾を飲み込んでも癒えることはなかった。




「モンスター図鑑」という有名な著書がある……。


 著者の名前は、アルミア。若くしてアヴィンの弟子になった青年だ。

 彼は様々な才覚に優れ、とりわけ瞬間的な記憶力と絵画に長けていた。


 アヴィン失踪後も、戦後復興に尽力し、その資金集めのために書いたのが、彼の最初にして最後の著書「モンスター図鑑」である。


 モンスターの姿から特徴、果ては内部構造まで詳しく記した図鑑は、子供から大人まで幅広い層に受けた。とりわけ勇者候補たちに対しては、飛ぶように売れ、大神官ナリィの著書『大戦史』と並ぶ、勇者候補のバイブルとして、500年経った今でもベストセラーの1つとして名前が挙がる。


 エルナの実家であるワドナー家の屋敷にも、当然のごとく置かれており、小さい頃から慣れ親しんだ。


 モンスター、とあるが、魔族に関しても言及がなされ、その姿形も精緻に紹介されている。奇怪な姿や巨大な形が多いモンスターに対して、魔族は四肢と頭を持つことが多く、姿形は人間と似ている。


 だが、その禍々しさと邪悪さは、たとえ絵であっても独特の圧迫感を感じさせる。

 幼少期――ページをめくることすら躊躇わせるほどに……。




 今、いるのは――その実物だった。


 名前は亡霊騎士。

 ガス状の霊体に、鎧を纏った中位クラスの魔族。


 よりにもよって、中位である


 エルナは思い切って、隣のヴェルテに視線を向けた。


 全く同じ反応で、口を開けたまま固まっている。

 前に立ち、背中を向けたままリコも同じだろう。

 先ほどから一言も発していない。ただ、うなじ付近の髪がぐっしょりと濡れていた。


「あれー? こいつら子供だよ、次男」

「そのようだな。まさか、こいつらが、俺たちの方陣を破ったのか、長男」

「さてな。確認したわけではないが、方陣が破壊されているのは事実だ。次男」

「方陣は人間の子供が破壊できるようなものなのか? 長男」

「この陣を敷いたのは、三男だったか?」

「そうだっけ? 次男」

「お前は仕事が粗すぎるのだ。オレなら、もっと強固な陣を敷くぞ。三男」

「はーい。あとは僕がやっておくよ。長男」

「ならば任せる。ついでにゴミも掃除しておけ。三男」

「魔力を吸い付くすのもな、三男」

「了解。長男。次男」


 2体の亡霊騎士は垂直に浮き上がる。

 すると、濃霧の中に消えて行った。


 1体の亡霊騎士だけが残る。


 ――状況が好転したと思っていいのかしら……。


 何故か笑いそうになって、慌てて口を塞いだ。


 3体が1体になったのだから、そう見るべきなのだが、素直に喜べない。

 海の水を1、2杯バケツで掬ったところで量の多さは変わらない。

 そんな心境と似ている。


「さてと……。人間」


 亡霊騎士がゆっくりと剣を抜く。

 鞘と刃が擦れる音が、絶望の前奏曲に聞こえた。


「死んでもらうよ」


 消えた――。

 黒い靄をふっと残して……。


 剣戟の音が真横で聞こえた。


 いつの間にか、ヴェルテが大剣を引き抜き、かろうじて亡霊騎士の一撃を受け止めていた。


「へー。僕の初撃を止めるなんて。やるじゃん!」


 魔族の言葉に、エルナは激しく同意した。


「でも、本気じゃなかったけどね」


 亡霊騎士が押し切る。

 あっさりと体勢を崩すヴェルテ。


 回避か。受けか。


 迷わなくとも、遅かった。

 亡霊騎士の2撃目が振り下ろされる。


 ギィン!


 不意に飛んできた槍を、魔族はあっさり弾いた。


 一瞬の間ができ、ヴェルテは構え直す。


 遊環がついた槍が、しゃりしゃりと音を鳴らして回転し、野原に突き刺さった。


 咄嗟に槍を投げたリコは、小さく息を吐く。

 そして――。


「やるしかないわよ」

「やるって?」



「私たちで魔族を倒すのよ」



 言葉は、全員に重くのしかかった。


明日は18時投稿です。

ちょっと短めですが、よろしくお付き合い下さい。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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