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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~
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第14話(前編)

ちょっとだけよ……。

「くっそ! これじゃあ、ジリ貧だぜ!」


 イエッタはオークが振るってきた斧をかろうじてかわす。


 懐に潜ると、両腕の腱を切り裂いた。

 オークの太い腕はだらりと垂れ下がる。


 そこにポポタが飛び込み、細剣を振るう。頭を刈り取った。

 オークは重い音を立て、その場に突っ伏す。


 一体のモンスターを倒すことに成功した。


 イエッタが振り返る。

 まだ多くのモンスターが待ち構えていた。


 ゴブリン、オーク、スライムは群れをなし、いつもよりも激しく動きながら、牙を剥きだしている。おまけにC級、D級のモンスターの姿までちらほら存在し、制空権まで鳥型のモンスターに奪われていた。


「ふ、2人とも! と、とと突出しないで下さい」


 パルティアはうまく病人のガータとユンを守りながら、なんとか立ち回っていた。


 まがいなりにもB級ランクの賢者。

 それなりの修羅場をくぐり抜けていた。

 何度か撤退戦も経験している。しかし、その時周りにいたのは自分よりも強いプロの勇者候補たち。目の前にいるのは、勇者候補ですらない受験生なのだ。


 幸運なことに、イエッタとポポタの技術はしっかりしている。

 放っておいても、育成校には入学できただろう。

 それを救いと思いながら、2人に指示を出す。


「パルティアさんよ。……このままじゃまずいぞ」


 モンスターは徐々に増えていっている。

 それはそうだろう。モンスターの好物である魔瘴気が、山を覆い尽くすほど漂っているのだ。


 まだ確認できるところでC級が最高だが、その上のBやA級が出てくれば、ちょっとした災害になる。


「お、おおお落ち着いて下さい」


 というパルティアが落ち着いているように見えない。


 一発逆転の大魔法を打ち込み、駆逐できればいいが、上級魔法を練り上げる間、ポポタとイエッタの負担が重くなる。

 ただでさえ、先ほどから彼らは動きっぱなしな上、移動時もガータとユンを担いでもらっている。おそらく疲労はピークのはずだ。


 ――ならば、一か八か私が囮になって……。


「2人とも、お話があります」


 はじめてパルティアがはっきりと口にした。


 瞬間だった。



 【雷颯・臥陣】ブロム・ジル!



 雷が滝のように迫り来るモンスターすべてに突き刺さった。


「広範囲の雷属性魔法!」


 パルティアは思わず前のめりになる。


 激しい雷撃の光を目に焼き付ける。

 体皮が黒く変色するまで、巨大な熱量を受けたモンスターたちは、次々と倒れていく。

 あれほど、絶望的な状況下が、たった一撃の魔法によってひっくり返った。


 一行の前に現れたのは、1人の女性だった。

 軽装の武具に、片刃の剣を帯び、腕にはバックラーのような円盾を装備している。


 特徴的な薄桃色の髪を、馬の尾のようになびかせていた。


「大丈夫か? 君たち……」


 アメジストのような紫色の瞳がこちらを見つめた。


「せ、セラフィ……?」

「もしかして……パルティアか?」


 トレードマークともいえるピンと跳ねた寝癖のような髪を見て、セラフィは首を傾げた。


「セラフィィィィィイ!」


 迷子の子供が親に飛びつくように、パルティアはセラフィを抱きしめる。

 勢い余って2人とも地面に倒れ込む。


「ちょ! パルティア!」

「う、うう……。セラフィ……セラフィ…………。わたじぃ、わたじぃ……! じぃ、じぃをぎゃぎゅじだどおおおお!」


 セラフィの胸に埋めた顔を上げると、すでに涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになっていた。

 正直「汚ねぇ……」と思ったが、セラフィは押さえても押さえても立ち上がってくる寝癖の頭を撫で続けた。


「パルティアさん……。感動の対面で悪いが、知り合いか?」

「う"ん"!」


 顔面が体液だらけの顔を向けられ、イエッタも若干引き気味に「そうッスか」と返事するのみで留める。


「君たちは学生だな?」

「受験生っスよ」

「そうだったな。……私はセラフィ・ヤーマンド。賢者をしている。パルティアとは以前、パーティが一緒だったんだ」

「ぞう゛!! ぜラフィはズっごグ強いの! わたぢが知る限りでバ! 最強のソロ勇者候補なんバから!」


 涙ながらに訴える。

 今のより、前のおどおどしたしゃべり方のほうが聞きやすかったな、とイエッタは思った。


「お前、なんでここにいるんだ? それにお前、魔法使いだったんじゃ」


 かつての仲間の質問に、パルティアは何度も何度も涙や鼻水を袖口で拭き取り。


「け、げんじゃはね。でんじょぐしダの。――でね。そ、それがね。……あなたが契約破棄された後、戦士のバーガと神官のクレットが分け前の取り分を巡って、仲間割れが起きちゃってぇ。げ、結局ね。あのパーティはガいザんしじゃったどおおおおお!」


 また泣き始めた。


「ああ、そうかそうか。そいつは大変だったな」


 若干、うざく思えてきたのだろう。

 次第にあしらい方が、雑になっていく。


 パルティアの方は「ここであったが百年目」という感じで、セラフィの両拳を揃えるとがっしりと掴んだ。


「ねぇ! セラフィ! また私とパーティ組んでよ!」

「その話はまた今度な――。今は病人を運ぶ方が先決だろ?」

「ぞ! そそそうね! わ、わわわ私、試験官だったわ」


 ――わ、わすれとったんかい!


 イエッタとポポタは胸中で、妙な方言を使ってツッコんでいた。


「そうだ! 君たち、受験生だろ?」

「そうッスけど」

「タチバナマサキという名前に聞き覚えはないか? 君たちと同じ受験生だ……」


 イエッタとポポタは顔を見合わせ、同時に首を振る。


「そうか……。――たく、何をやっているんだ、あいつは! こういう時こそ、《塚守》の役目を果たす時だろう……」


 奥歯を噛みしめながら、悪態を吐く。

 しばらく考えごとをしていたセラフィだったが、気を取り直した。


「ともかく、安全な場所まで送ろう」


 パルティアたちの顔が、安堵に輝いた。






 一方、マサキはというと――。


「君ねぇ……」


 いかにも役人という感じの男性が、マサキの受験票をのぞき込み、声を漏らした。


「これ、ゼルデ=ディファス地方の勇者候補育成校の受験票じゃないか?」

「へ?」

「ここはね。ファー=インデル地方の勇者候補育成校の実技試験本部だよ。ゼルデ=ディファス地方は、もっと東でしょうが!」

「え? マジ?」

「ともかく、一刻も早く戻りなさい。まあ、その頃には試験が終わってるかもしれないがね」


 受験票をマサキに返す。

「一体……500ファル・ロール(1ファル・ロール=1キロメートル)も離れたところから、どうやってここに辿り着いたんだ」とぶつぶつ言いながら、本部の方へと戻っていく。


 自分の受験票に目を落としながら、マサキは前衛芸術家もかくやという微妙な顔を浮かべて、佇んだ。


 …………場所、間違えた――。


お約束ですいませんm(_ _)m


※ 後半は本日18時です。

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最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
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