表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/136

第8話(前編)

物語も折り返しです。

 翌朝、陽が昇ると同時に、受験生たちも一斉にテントをしまい、火の始末をはじめる。


 それぞれに決めたルートへと足を向け、緊張と喧騒を交えながら再び道を進んでいく。


 エルナ達パーティ一行も、テントをたたむと、他の受験生と同じく出発しようとしていた。


「ガータ……」


 拳闘士の少年の背中に、声がかかる。

 ガータは魔法袋を背負ったまま、振り返った。

 ヴェルテが自分の方を睨んでいる。


 ――オイラ、またなんかやった?


 自分の過失を疑ったが、彼女の次の言葉は予想とは大きく違っていた。


「昨日は突然、中座してしすまない」

「お、おう……。別に気にしてねぇよ」

「そうか。……またお前の昔の話を聞かせてくれ。昨日は聞きそびれたからな」

「あは……。あはははは。……そんなんで良ければ、いくらでも聞かせてやるよ」

「じゃあ、まずぅ……。ガータが11歳の時におねしょをした時の話から、というのはどうですかぁ~?」

「わ! 馬鹿!」

「あれ? 昨日は、9歳って言ってなかった?」


 エルナが話に加わる。


 すると、ヴェルテはくつくつと笑い始めた。

 寡黙な女戦士が笑っている姿を見て、他のパーティは呆然と見つめた。


「ふふふ……。さすがに、11歳ないな」


「でしょぉ。……私たちの村の中でもぉ、最年長ぉ記録なのですよぉ」

「おい! ユン! いい加減に怒るぞ」

「ガータ……。さすがに今日はおねしょしなかったでしょうね」

「エルナ姉さんまで!」

「今度、私の家に伝わるおねしょをしないおまじないを教えてやろう」

「ヴェルテ姉さん! そりゃないっスよ!」


 ガータは涙目になりながら、自分の前を通り過ぎていくパーティを追いかける。


 そこには、昨日まであったパーティの硬さが消えていた。


 朝霧が立ち上るロケール渓谷に、次々の勇者候補たちは消えて行った。






 最初に異変に気付いたのは、試験官のB級魔法戦士であるカワセだった。


 彼はダンジョンに、毎年250日潜っているベテランの勇者候補だ。

 A級にも潜った経験があり、いくつもの修羅場を目の当たりにしている。仲間を失ったことも、5本指では数え切れないほどだ。

 それでも彼は、パーティ編成し、または誘われ、ダンジョンに潜る。

 勇者を目指すというよりは、ダンジョンを潜ることに一種の快楽を得ているのではないか。自問する時もあるが、詮無いことだ。


 そんなカワセが、毎年参加しているのが、勇者候補育成校の試験官だった。


 ほとんどがおいしい日給に釣られてなのだが、有能な新人を学校に入る前から唾を付けておこう、という目的で参加しているものもいる。事実、カワセもその1人だ。


 しかし、B級ともなると、E級のダンジョンに入るのは、なかなか勇気がいる。

 下位のパーティに混じって、気を遣われるのも如何なものかと思うし、逆の立場だったらカワセは鬱陶しく思っただろう。


 その点、試験官という立場であれば、大手を振ってダンジョンに入れる。


 《ロケール渓谷》はダンジョンにしておくにはもったいないほど、自然の宝庫だ。ここでしか見られない野生動物もいる。時々、年に一度ぐらいこうして眺めたいと思う時がある。


 やはり自分は勇者よりもダンジョンに憧れているのだろう。

 カワセはやはり自答する。


 そんなベテランであったからこそ気づけた変化……。


 《ロケール渓谷》の朝霧は、もはや風物詩だが、時期的に少し陽が昇り気温が高くなると、霧散してしまう。


 しかも、今日の霧は濃いと言うよりは、黒く見える。

 試験担当していたパーティも、濃霧のおかげで移動速度が鈍っていた。


 カワセが担当しているパーティは、トップ5に入るほどの強者だ。

 特に、ガルドロム王国の天覧試合――ジュニアの部優勝者であるバールは否が応でも目を引く。剣の冴えもさることながら、モンスターの硬い外皮をものともしない膂力は、おそらくすでにB級でも通じる。

 努力を怠らなければ、A級……いやS級にもなれる逸材だろう。


 他のパーティもなかなかバランスが良く、バールを中心によくまとまっている。

 やや性格に難があるようだが、強さは申し分ない。


 と値踏みをしていると、神官の1人が突如倒れた。


 セーフポイントを出て、まだ3時間も経っていない。

 彼らのペースは、B級カワセでも舌を巻くほどだが、こんなに早く山道でへばるような下位順位の受験生は1人もいない。

 しかも、しっかりとモンスターの死肉を撒き、他の受験生を攪乱するほど、移動に余裕があったにもかかわらずだ。


 最奥にあるチェックアイテムを手に入れるのは、彼らだろうとさえ思っていた。


 ――なのに、何故……? 病気か?


 背中の辺りがピリピリする。

 嫌な予感がした。


 パーティに近づいて、真相を確かめたいが、カワセは傍観を決め込む。

 仲間のメンバーが神官を囲み、治癒魔法や状態異常を回復させる薬を使っているが、治る気配はない。


 すると、今度は口論が始まった。

 おそらく進むかリタイアするかで揉めているのだろう。

 バールが進行を主張し、賢者がリタイアするよう説得している。そんなところだ。


 そうこうしているうちに、2人目の犠牲者が現れた。

 2人の口論の仲裁に入っていた踊り子が、足もとをふらつかせた後、地面に突っ伏した。


 ――まずいな……。


 カワセは介入を決めた。


 時だった。


 突然、悲鳴が上がった。


 バールと賢者が、口を開け、呆然と明後日の方向を向いている。

 視線の先にいたのは、巨大な百足――。


 カワセは足に魔力を溜め、最速で現場に向かおうとした。


 と同時に背中に寒気が走る。

 ふと振り返った。


 巨大な影と、2つの大きな目が、カワセを捉えていた。


「あ――……」


 B級魔法戦士の悲鳴は、黒い濃霧の中に隠された。


というわけで、トラブルのはじまりです。


※ 後編は本日18時になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました。↓↓こちらもよろしくお願いします。
最強勇者となった娘に強化された平凡なおっさんは、伝説の道を歩み始める。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ