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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~

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第7話(後編)

特に百合を理解していない作者の百合回です。

「あ! いたいた」


 光の魔法で照らし出されたのは、1人の女戦士だった。


 セーフポイントのギリギリのところで座っていたヴェルテは、強い光を手で遮りながら、賢者の少女を見つめる。

 エルナは光の魔法を徐々に落とし、ついに消した。


 すとんと闇が落ちる。

 次第に目が慣れてくると、夜空の星の光が随分明るく見えた。


 エルナは戦士の横に、何も言わず三角座りした。

 ヴェルテの顔を見ながら、口を開く。


「みんなが心配していたわよ」

「そうか……」


 短い言葉で応じる。


「1人になりたいなら、そう言って……」

「追いかけてきた人間が言う台詞ではないだろ」


 エルナは苦笑した。


 しばし静寂が流れた。

 ふと耳を澄ます。

 夜のダンジョンは昼よりも騒がしい。

 沢のせせらぎに混じって、モンスターの奇声や野鳥の鳴き声が聞こえてくる。


 普段の生活では聞く事が出来ない音を、しばらく傾聴した。

 その耳に人間の言葉が混じる。


「何故、私を魔剣士の家系だと知っていた……?」


 目を閉じ、耳を澄ましながら、エルナは口端を広げた。


「ずっとそれが聞きたかったのね?」

「……」

「大した理由なんてないわよ。大神官ナリィが書いた勇者アヴィンの『大戦史』を読めば、ロードナアっていう魔剣士の記述があるからね。……まあ、記述は少ない上、他のいくつかの戦史にも書かれていないから、マイナーな知識ではあるけど。――私、これでもアヴィンオタクなのよ」


 自慢げに笑う。


「しかし、私がそのロードナアとは――」

「珍しい名前だし。それにあなた……。筋力の試験の時、実は魔法が効いてなかったでしょ? 魔剣士の家系って、スゴく魔力耐久が高いって聞いたことがあるの。あなたの魔力耐久値の試験結果は低調だったけど、あれはウソね。筋力試験の時と一緒で。――で、鎌を掛けてみたってわけ」

「――!」

「まさか1発で釣れるとは思わなかったわ」

「むぅ……」


 ヴェルテの頬が赤くなる。


「何故、そんな賭けを?」

「あなたに興味を持ってもらいたかった。ひいては、パーティになってもらいたかった。――でも、何よりも最初に言ったでしょ?」

「なんだ?」

「魔剣士が魔剣を振ってるところが見たいんだって」


 ヴェルテは目を閉じ、呆れたように息を吐き出した。


「生憎と私は魔剣を持っていない。というより、ロードナアの家にもないんだ」

「魔剣が……ない?」


 そしてヴェルテは語り始めた。


「お前の言うとおり、私はアヴィンとともに旅をした事がある魔剣士イザル・ロードナアの末裔だ」


 イザル・ロードナアは、アヴィンとともに旅をした期間は短いものの、その実力はアヴィンも一目を置くほどの剣士だった。


 魔剣とは文字通り、“魔族が鎚った”剣――つまり、魔族が製作した剣のことを指す。


 非常に強い魔力や呪力といったものが込められていて、強力な武器の一種だ。だが人間は扱えばたちまち精神が汚染され、意識を失い、最悪絶命する。

 ロードナア家は生来から類い希なる魔力耐性を持っていたため、魔剣を扱える唯一の一族だった。


 後に大神官ナリィが語ったところによると、戦鬼のごとき活躍だったらしい。


 しかしいくら抵抗力があるとはいえ、人間にとって毒であることには変わりはない。結局、魔剣を持てなくなったイザルは、アヴィンに説得されて、パーティを抜けることになった。


 ナリィが著述した『大戦史』には、ロードナアの名前が見て取れるが、ナリィ以外の仲間や関わった人間の証言を集めたレポートなどには、全く書かれていない。


 これは魔剣自体が非常に危険と判断され、イザルの偶像化を恐れたことによる対処だった。ナリィも『大戦史』からの削除自体を許さなかったが、勇者育成連盟の対応には理解を示している。


「たしか……イザルがパーティから離れた後、その功績が認められて騎士候の位を賜ったと聞いたけど」

「ああ……。そうだ」


 ヴェルテは一度、会話を切った。

 そして意を決するように胸の前で拳を握った。


「お前は、私が魔剣士だと聞いて、気持ち悪く思わないのか?」

「気持ち悪い?」


 エルナは眉間に皺を寄せる。

 ヴェルテは続けた。


「魔剣士は魔族の力を使うジョブだ。意味もなく嫌うものもいる。ロードナア家は初代こそ権勢を振るったが、今では没落した貴族だ。魔剣を売り払って、金を工面するほどにな」


 そして没落した貴族に向けられた目は厳しいものだった。

 ロードナアが、500年前に多大な功績を収めようとも、時間には勝てなかったのだ。人々の記憶から忘れられ、一族の誇りもなくしていった。

 平民の子供からも、「乞食貴族」と揶揄され石を投げられるほどの没落ぶりだった。

 ヴェルテがパーティ決めに積極的ではなかったのは、そうした人間不信からだ。


 それでもヴェルテは憧れた。

 祖母から聞かされたロードナア家の口伝。

 どれだけ開祖イザルが、『終わりなき戦争』の終結に大きな影響をもたらしたか。


 それはヴェルテにとって、アヴィンの戦史よりも眩しかった。


「私の目標は、戦士として名前を売り、国の近衛になってロードナア家を再興すること。そして売却された魔剣を取り返すことだ。『戦士』のジョブを得るのは、名を売るために必要だったからにすぎない。私にとって、いつ復活するかわからない魔王よりも、明日の名誉や金の方が重要なのだ。……どうした?」


 エルナはじっと目を広げて、ヴェルテを見つめ――言った。


「あなたって、結構おしゃべりなのね」


「――――!」

「どうしたの?」

「……お前は、私を浅ましい女だとは思わないのか?」

「浅ましい? ……何が? 名誉やお金を得たいなんて、人間として至極当たり前だと思うけど」

「…………!」

「そもそも私も似たようなものだし。アヴィンみたいに、自分の名前が後世に残ったら素敵だなって思ったから、賢者を目指したの。……それってあなたがいう名誉や名声を求める事とそう変わりはないでしょ?」

「……」

「むしろ私なんかよりよっぽど具体性があるじゃない。浅ましいっていうよりは、羨ましいわね。なんか一歩先んじられたって気がするわ」


 でも――。


「自分の目に狂いがなかったことは確かね。ますます気に入ったわ。私もうかうかしてると、首席をあなたにとられちゃうかもね」

「首席か……。薄々気づいてはいたが、お前、本当に首席合格を狙っているのか?」

「もちろん。だって、アヴィンみたいになりたいんだもん。それはつまり勇者候補の中でナンバーワンになるってことでしょ? だったら、こんなところで次席なんて取ってられないわ」

「なら、どうして私をパーティに引き入れたのかわからん。魔剣を振るのが見たいからなどと、あまりにも興味本位を過ぎるだろう。首席を狙っているなら、もっと徹底すべきだ」


 エルナは誤魔化すように金色の髪を撫でた。


「そう言われちゃうと、まだ私って甘ちゃんだなって思うわよ。でも――」

「でも――。なんだ?」



「あなたとこうして話してみたかった……じゃ、ダメ?」



 上目遣いで、魔剣士の末裔を見上げる。

 ヴェルテの白い顔が、みるみる上気していくのがわかった。


 ふと顔をそらす。


「お、おおお前! ……そ、そういうのはだな。もう少し茶化していうものだ」

「そうかしら?」

「と……ともかく、お前の真意がわかった」

「私もあなたという人間が少しわかったような気がするわ。……ちょっとだけでいいから、人に対して胸を張りなさい。あなたのやろうとしていることは、至極当たり前のことなのよ」


 一陣の風がそよぐ。

 エルナは立ち上がって、金髪を押さえながら、一身に受ける。

 川縁から昇ってきた風は、涼があり、火照った顔に気持ちが良かった。


 肩の辺りで切りそろえた髪を押さえる少女の姿を、ヴェルテはぼうと見つめた。

 自分とは全く違う華奢な身体。

 同い年とは思えないほど達観した雰囲気。

 目標を真っ直ぐと見定めるブラウンの瞳。

 自信に溢れた端の広い唇。


 そんな少女が、自分を羨ましいと言う。

 違う――。

 そうじゃない。


 ――本当に羨ましいのは、私の方だ……。


 ヴェルテもまた、エルナ・ワドナーという少女に興味を持った。

 行き着く先を、近くで見届けたいと思った。


 イザルも、アヴィンのパーティにいた時、こんな気持ちだったのだろうか?


 ふとそんな疑問が沸いて出て、ヴェルテは微笑んだ。


「そろそろ寝ましょう。明日は、陽が昇ったらすぐに出発よ」

「待ってくれ、エルナ……。魔剣士のことは――」

「わかってる。今は私の胸の内に収めておくわ」

「すまない」

「それはいいけど、少しパーティを信じなさい……。ガータもユンも、あなたを邪険にするような人間じゃないわ」

「……わかった」


 エルナはそっと手を差し出す。

 その手を一瞥した後、ヴェルテは握り返し、そのまま立ち上がった。


 2人は何も言わず、設営したテントの方へと戻っていった。


さて、物語も次が折り返し地点です。


※ 明日も前後編でお送りします。

  前編12時。後編18時です。

  よろしくお願いします。

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