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第2話

セラフィ編 2話目です。

よろしくお願いします。

 勇者アヴィンの功績は、魔王シャーラギアンを封印した以上に、《ジョブ》と《パーティ》の2つのシステムを生み出したことだった。


 天界と連合を組み、魔族と対抗した人間だが、その実――魔族や魔獣の力の前ではあまりに非力な存在だった。


 勇者と呼ばれる前、アヴィンはとある王国の戦史戦略室に勤める見習いだったが、戦況が進み、人間側が疲弊する中、自ら申し出て2つのシステムの有用性を説いた。


 曰く。画一的に兵士を訓練するのではなく、専門性の高い戦闘職人を育てること。そして、専門性と戦術性を高め、極小集団戦闘に特化した少数精鋭部隊を作ることだった。


 戦士の質と高機動力な部隊を作り、1対少数の状況を生み出すことによって魔族に対抗しようとしたのである。


 アヴィンの発想は、古い考えに固執する人類軍には採用されなかった。

 地位に固執する将校達からすれば、階級制を廃し、縦とのつながりをなくすシステムだと考えられたからである。


 アヴィンは自ら実験体となることを申し出ることによって、将校達を説得した。

 加えて将校達が出した条件が……。


 魔王の無力化であった。


 アヴィンが旅立った後のことは、戦史に告げる通りのことである。


 魔王封印後、アヴィンは消息を絶ったが、彼が記した有用な《ジョブ》の種類とその育成法、さらに《パーティ》における戦術については、彼の仲間であった大神官メリィに託された。


 その後、アヴィンの仲間だった者を中心として、《ジョブ》と《パーティ》を教える勇者候補育成校が各地で開校。


 卒業後は、魔獣――《モンスター》の生息地である《ダンジョン》に入る事が許される。攻略することによって、AからEまであるダンジョンの難度に応じ、ギルドから賞金をもらえるシステムを作り上げた。


 地位や身分は関係なく、当年16歳以上のものは誰でも入ることが出来ることから、発足当初から入学者が殺到し、多くの《ジョブ》と《パーティ》が巣立っていった。


 すべては次なる勇者になるために……。



 ここに勇者候補大時代が幕を開けたのである。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 翌朝――。


 拠点にしている宿で目覚めたセラフィは、少し遅め朝食を取ろうと2階から降りてきた。

 忙しそうに朝のチェックアウトの作業をしていた店主が、セラフィを見るなり、食堂の方を向いて顎をしゃくる。


 最初は朝食が出来ている――というぶっきらぼうな店主の最大限の接客だろうと理解したが――違った。


 3卓しかない食堂のテーブル。その1つを、3人組の《パーティ》が囲んでいた。


 セラフィを見るなり、3人組はこちらにやってくる。


 まがいなりにも『猫の目じるし』亭の用心棒。入ってきた客すべてにチェックを入れている。昨夜と身なりが若干違うが、覚えはあった。


 昨日、騒ぎを起こしたパーティの後ろに座っていた勇者候補たちだ。


 特にリーダー格らしき男の顔は覚えていた。

 野次馬に交じるわけでもなく、迷惑そうに批難するわけでもない。


 傍観というよりは、観察するような目つきでセラフィを見ていた。


 騒ぎを起こした連中の仲間だったのだろうか……。


 記憶と思考を巡らせながら、セラフィは少し足を広げ、臨戦態勢を取る。

 近づいてきたパーティは、彼女の動きを見て、足を広げた。手を前にかかげ、抗戦の意志がないことを示す。


「落ち着いてくれ。……別に君と戦いにきたわけじゃない。私の名前はバリン。我々のパーティ――『ワナードドラゴン』のリーダーを勤めている。《ジョブ》は君と同じ賢者」


 バリンは一歩進み出て、自己紹介をし「そして……」と他の仲間を促した。


「俺はカヨーテだ。……重装騎士をやってる」


 3人の中で一際大きな男が、袖をまくり、力こぶを見せつける。

 そのカヨーテの反対に立った女は、ブロンドの髪を揺らして頭を下げた。


「神官のクリュナです。はじめまして、セラフィさん」


 一通り自己紹介が終わる。

 だがセラフィは態勢を解かない。


 バリンは他の2人に視線を送る。カヨーテが小さく肩をすくめた。

 そして話を切り出す。


「昨日のお手並み。じかに拝見させてもらった。……この辺りでは有名なんだな、《一匹狼》のセラフィ。ネーミングセンスは最悪だが、君の場合は狼と言うよりは獅子だ」


 バリンは真顔で言う。

 褒めているのか。はたまたふざけているのか。表情からは読み取りにくい。


 無反応のセラフィを見て、バリンは痺れを切らした。


「単刀直入に言おう……。私たちは君を仲間にしたいと思っている」

「私は仲間にはならない」

「知ってる。契約者というんだろ? 君がそう望むのであれば、それで構わない」

「報酬は?」


 セラフィの淡泊な質問に、バリンは躊躇いつつ、告げた。


「今はない……」


 やっとセラフィは構えを解く。

 「話すことはもうない」と言わんばかりに背を向け、宿を出て行こうとする。

 自分よりも小さな背中に、バリンは「待ってくれ」と懇願した。


「話を聞いてほしい。……私たち『ワナードドラゴン』は1ヶ月前、1人の仲間を失った」


 今度は同情か……。


 セラフィはあからさまなため息を吐く。

 その態度はバリンにも伝わっていたが、そのまま話を続けた。


「一度はパーティを解散しようかと考えた。それぞれ違う道を歩んでいこうと。だが、気付いたんだ。……それでは死んだ仲間が浮かばれない」


 セラフィの足が止まった。


「仲間のために、今やれることを考えて、俺たちは1つの結論を得た。それは、仲間とともに潜ったダンジョンで、レアアイテムの獲得に再挑戦すること」

「レアアイテム?」

「《ドラゴンの火袋》だ」


 ダンジョンに生息するモンスターには、その体内でしか生成できない貴重な資源や鉱石、魔導具の材料が存在する。


 大概の場合、死滅と同時に飛び散った体液によって、骨すら残さず溶けてしまうのだが、一定の確率あるいはアイテムを使うことによって、手に入れることができる。


 特に高難度モンスター、低確率のアイテムは、レアアイテムと言われ、売れば家を一軒建てられるほどのものまで存在する。


 《ドラゴンの火袋》も例に漏れず、高価な代物で、耐火能力が優れた防具を作る事が出来る。攻撃力の高い炎息を持つ竜との対決には、非常に有利だ。

 しかも軽く、誰でも装備できることから、全ジョブの憧れのアイテムだった。


「高望みしすぎじゃないのか? ドラゴンは低レベルでもB級ダンジョンに出てくるような上級モンスターだ。それも《ドラゴンの火袋》を狙うとなると、B級の最奥かA級ダンジョンに潜らなければならない」

「だからこそ、君の力を貸して欲しい」


 それに、と会話に交じったのは、横で聞いていたカヨーテだった。


「パーティネームに『ドラゴン』って名前があるとおり、俺らはドラゴン専門のパーティだ。ヤツらの生態は熟知している。A級もB級のダンジョンにも詳しい。あんたの足は絶対引っ張らねぇ自信はある」

「お願いします。セラフィさん……。どうか私たちの仲間になって下さいませんか?」


 最後にクリュナが頭を下げた。


 結局、話を聞く格好となったセラフィは、熟慮する。

 改めて3人を見つめ、ひっそりと分析魔法でそれそれの能力を計測する。


 はじめは禿頭に、茶褐色の肌のカヨーテだ。

 ともかく大柄で、筋骨たくましい身体をしている。重装騎士は、《パーティ》の中でも、もっとも体力と筋力、何よりも胆力に優れている者が適していると言われるが、セラフィが見た中で、彼はトップクラスのステータスを持っていた。

 獲物は背中に担いだ大戦斧。スキルも一通り揃っている。


 2番目に見たのは、クリュナだ。

 ブロンドの長い髪に、不思議なエメラルドグリーンの瞳。色白で、女性的な肉質を残しつつも、それなりに鍛え抜かれていた。

 神官が得意とする神託魔法の9割方おさめており、信仰の値もかなり高い。

 おそらく補助および回復系魔法の効果は、セラフィよりも上だろう。


 最後にバリンだ。

 小麦色の肌に、グレーの瞳。銀色の髪を短めに刈り上げ、全体的に温厚そうな雰囲気を醸し出している。カヨーテほどではないが、質の良い筋肉に恵まれており、如何にもオールラウンダーらしい『賢者』の体躯をしていた。

 ステータスを見ても、特化した項目はないものの、全体的にバランス良く鍛え抜かれている。

 習得している魔法も、セラフィほど多くはないが、きちんとポイントが押さえられたメニューになっていて、好感を持てる。


 確かに攻守のバランスに優れたパーティと言える。

 何かに特化しているわけでも、特別弱点があるわけでもない。


 しかし――。


 たとえこの3人といえど、A級はおろかB級のダンジョンですら攻略は難しい。


 しかもレアアイテムを目的とするなら、竜種族の連戦が予想される。

 一体ぐらいなら狩る事は出来るかもしれないが、そのたびにダンジョンから離脱していては、費用がかさみすぎる。


 総合力という部分で、圧倒的に戦力不足だった。


 が――『ワナードドラゴン』にセラフィが加入した場合、全体的にレベルが底上げされることは間違いない。

 バリンの狙いも、そんなところだろう。


 少し興味はある。

 しかし――。


「私はソロで勇者候補をしてる。有り体にいえば、パーティの傭兵だ。したがって無報酬というわけにはいかない」

「その話だが、《ドラゴンの火袋》というのはどうだろうか?」

「……どういうことだ?」

「私たちの目的は、《ドラゴンの火袋》を手に入れることであって、それを所持することではない」

「信じられないな」

「なら、ギルドを介して誓約書を書いてもいい。知り合いに呪術師がいるなら、呪印を受けてもかわまない。……私たちが約束を違えれば、死ぬ呪いだ」

「どうしてそこまでする?」

「そうしてでも、あんたを手に入れたいのさ」


 とカヨーテ。


「何より、死んだ仲間の無念を晴らすためです」


 クリュナが答える。


「私たち3人で決めたことだ。……それに、《ドラゴンの火袋》を手に入れれば、私たちは解散する事を決めている。だから我々には無用の長物だ」

「売れば、貴族の屋敷を丸ごと買えるような富が手に入るぞ」

「この地方一番の『賢者』をパーティに加えられるなら、安いものだよ」


 ――狂ってる……。


 率直な感想だった。


 しかし理解できないわけじゃない。

 死んだ仲間に報いるため……。

 かつてセラフィにも、似たような感情はあった。

 《パーティ》のため。

 仲間のため。

 危険を顧みず。

 自己の犠牲を厭わず。

 身を粉にして、戦った時期があった。



 そうしてでも、セラフィは仲間を失った……。



 ――契約とかじゃなくて、ちゃんと仲間になれば良かったのよ!


 昨日の吟遊詩人の言葉が、心に刺さった。


「いいだろ……」


 自然と口に出していた。


 『ワナードドラゴン』の面々が驚きとともに、歓声を上げた。


「ただし、戦術リーダーは私だ。戦闘では私の指示に従ってもらう」

「私はそれでいい」

「他の2人は?」

「あんたが入ってくれるなら、願ったりだ」

「私も依存ありません」


 それぞれ同意する。


「出発は三日後。それまでにパーティの連携を確かめおきたい。知り合いの道場を借りて、確認しよう」

「わかった。それよりも――」


 バリンは手を差し出した。


「パーティを頼むよ。新リーダー」


 一瞬、バリンの手を見つめた後、セラフィは握手した。

 そこにカヨーテ、クリュナの手が載せられる。


「よろしくな! リーダー!」

「よろしくお願いします」


 かくしてセラフィは『ワナードドラゴン』と契約を結ぶとともに、新しいリーダーとなった。


ハインザルドの言葉と現代世界の言葉が混じっていますが、ビジュアル状で想起しやすいものに関しては、現代の言葉を使うようにしてします。

(1つ1つ描写をして、文章のテンポを悪くしないためです)


なるべく世界観に配慮しますので、ご理解いただけると助かります。

ちなみに『ワナードドラゴン』は訳すと『火袋の竜』という意味です。

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