第6話(後編)
これも無双といえるのかもしれない。
「というわけで――」
リコ一行は、現場を離れ、行進を始める。
横目で激流と大きな岩や石が転がった沢を見ながら、周囲を警戒し進んでいた。
スライムによって、服を溶かされたマリーは、魔法袋から予備のローブを取り出し着替えていた。姉から忠告されて持っていたのだが、早速役に立ってしまった。この時ほど姉の偉大さに感謝したことはない。
しかし半裸を見られてしまったことが、相当ショックだったらしい。
「およめにいけないようぉ」とさっきから何度も繰り返し、三角座りして落ち込んでいた。
「歩きながら作戦会議をはじめるわよ」
「作戦会議?」
辺りを見回しながら、何か金目のものでも落ちてねぇかな、なんて思っているイエッタが反応する。
「そうよ。とりあえず、フォーメーションだけでも決めましょう。前衛はポポタ。あんたよ」
「うぇ……」
長い舌を出し、蠅を巻き取るように捕まえると、ポポタはなんの遠慮も無しに咀嚼した。
ごくりと音を立てて飲み込むと蛙族の雄は発言する。
「断るのである」
「なんでよ! あんた、戦士志望でしょ!」
「ミーは蛙族の王子である。……なんで一番の危険なポジションをとらねばならぬ。そういうのは、下々の役目ではないか……」
「下々って――!」
リコは拳を強く握り、怒りのボルテージを上げていく。
「じゃ、じゃあ……。イエッタ、あんたが前衛よ」
「ええ? やだよ。遺跡ダンジョンでもねぇのに、なんで技術官志望のオレが前なんだ?」
トラップが多い遺跡ダンジョンでは、技術官を前衛に配置して回避するというのが、常套手段の1つとして取られることがある。
だが、人工のダンジョンではなく、ここは天然の要害だ。トラップなど皆無に等しく、技術官を前に置くのは適切ではない。
「ポポタとあんた以外で、誰が前衛やるっていうのよ!」
ムキーと猿のように躍り上がって、リコは怒鳴った。
「お前がやればいいじゃん。さっきみたいな力が出せるなら、前衛でも問題ないだろ!」
「あれは最終手段よ! そもそも神官が前衛なんて聞いた事がないわ!!」
「仕方ないだろうが!? だいたいお前が中途半端に能力だけでパーティを組んだから、こうなったんだろ? ここに賢者がいてみろよ! 前衛に配置して、サイドはオレとポポタ、中央をリコ、後衛をマリーって出来たんだぞ」
「う。……うるさいわね。今さらそんなこと言ったって、仕方ないじゃない!」
「なら、責任取って、お前が前行けよ!」
「2人ともストップ!」
険悪になっていくリコとイエッタの間に、マリーが割り込む。
「け、喧嘩はよくないよ」
「そうであるぞ、ユーたち。おそらくどこかに潜む試験官が、ミーたちを見張っておる。喧嘩なんぞしたら、コミュニケーションが円滑に行われていないと判断されて、減点になるぞ」
「「お前が、最初に前衛を断ってきたからこじれてるんだろうが!!」」
リコとイエッタが仲良くポポタに詰め寄る。
大声を出して、少しすっきりしたのか。リコは、金髪を撫でて考える。
矛先を変えた。
「マリーはどう思う?」
「え? 私? わ、私なんかがそんな……その……意見なんか……」
「マリーが普段どんな生活しているかは知らないわ。でも、ここはマリーの家でもないし、あんたの姉が側にいるわけでもない。私のパーティの中で、マリーはその一員なの。メンバーが意見を求めてるなら、堂々と言いなさい」
「たまにはリーダーらしいことをいうんだな、リコ」
「“たまには”は余計よ、イエッタ! で? どうなの、マリー」
「うんと……。そうだね。……私としては、イエッタさんに前衛をお願いしたいかな?」
「え? オレかよ!」
「い、イエッタさんの言い分はわかるんだよ。でも、パーティの安全を確保するなら、イエッタさんの方がいいって思うんだ」
「いや、マリーちゃん。……ここは遺跡ダンジョンじゃねぇんだぜ。天然の――」
「うん。わかってる。トラップなんてあり得ないっていうんだよね。……で、ででも! こ、こうは考えられないかな……。さっきのモンスターの死骸って、実は先を行く受験生がわざと残したって――」
「それは考えすぎじゃね? 確かに死骸は、モンスターを寄せ付けるが、それをいちいち片付けるヤツもいないだろう」
「いいや。マドモアゼル・マリーの推測は正しいかもしれんぞ」
みんなの顔がポポタに向けられた。
「ミーはモンスターの死骸をずっと観察しておったが、遺骸の部位と数があっておらんかった」
「それって、つまり――。受験生が倒したモンスターの遺体の一部を持ってきて、故意に置いたってこと?」
「ミーの蛙の勘は肯定しておる」
「おいおい! 待てよ! 受験生に対して直接的な危害を加えるのは、御法度のはずだろ」
「うん。イエッタさんの言うとおりだと思う。……けど間接的に、つまり故意に特定の受験生を狙ったものでないなら、規定には引っかからないんじゃないかな?」
「でも、試験官の心象が悪くなるだろ」
「どうかしらね。……むしろ想定内じゃない。だって、本番でも似たようなケースはあるはずよ。むしろ、それに注意を払っていない私たちの方が減点されてるかも」
………………。
一同は沈黙した。
モンスターだけではない。
ダンジョンでは、他の受験生も注意しなければならないとわかり、リコのパーティは戦慄する。
口火を切ったのはイエッタだった。
「わかった。オレが前に出る。その代わり、進む方向はオレが決めるぞ。受験生が通ってない道を選ぶつもりだから、歩きにくさは覚悟しろよ」
「お願いします」
「マリー、私たちは?」
「私とリコは、サイドを。ポポタさんには、しん――。……いえ、後方でデンと構えて下さい」
「心得た」
マリーを見ながら、リコは笑った。
――この子、なかなか考えてるじゃない。
狭い道ではどうしても一列になることが多い。
故に、前衛と後衛は同じぐらい危険地帯なのだ。
リコはマリーの洞察力に感心した。
おそらくずっと姉を見続けてきたからだろう。物の考え方が染みついているのかもしれない。
物言いまでエルナに似ていて、少しイラッとするぐらいだ。
「じゃあ、そういうことで! 改めて気合い入れ直すわよ!」
気勢を上げ、3人+1匹は拳を振り上げた。
ところで、主人公はいつ出てくるのだろう……(自問)
※ 明日も前後編。少し長めになりそうですが、よろしくお付き合い下さい。
前編12時。後編18時に投稿します。




