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異世界の「魔法使い」は底辺職だけど、オレの魔力は最強説  作者: 延野正行
第2章 ~~勇者候補育成校入試編~~

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第6話(前編)

第2章初戦闘です。

 試験会場である《ロケール渓谷》は、E級ダンジョンの中でも比較的難しいとされている。


 6本もの川が走る渓谷は、最初は緩やかだが、沢伝いに登っていくと切り立った崖が多くなる。支流に加え、さらに小さな川が蟻の巣のように複雑に絡まり、移動は困難を極める。


 加えて、ブッシュが多いため死角が多く、モンスターの待ち伏せに遭う可能性が高い。ここから半日ほど獣車に揺られて存在する『死手の樹林』ほどではないが、全体的に暗く、ほぼ獣道なので体力と精神力が試される。


 モンスターはランクこそ『E』だが、奥に行けばD級ダンジョンに出てくる魔獣も現れる。だが、温厚なモンスターが多く、人間や天敵がいないことから、野生動物も棲み着き、大きなビオトープにもなっていた。


 だが、大量の人間が入ってくると、温厚なモンスターたちも変貌する。

 縄張りを守ろうと簡単に殺気立ち、勇者候補を夢見る若者達に襲いかかった。


「ユン! ガータにブースト!」

「はい!」


 真っ白な修道服を着用し、サイドテールの女神官は、詠唱を始める。


「ガータ、あいつらの防御を壊して!」

「おおよ!」


 神託魔法の加護を受けた短髪の拳闘士は、大盾を持ったゴブリンの群に突っ込んでいく。


「ヴェルテ! ガータが、防御を崩したらスイッチ! 一気に切り込んで!」

「わかった」


 拳闘士の少年の後を追うように、大剣を構えた戦士ヴェルテが走る。


 盾を構えるゴブリンの後ろで、仲間のゴブリンが弓を引く。

 矢の雨が、ヴェルテと拳闘士に降り注いだ。


 賢者エルナは即時に魔法を組み上げる。


 【炎の飛礫】バル・レグ!


 炎が散弾銃のようにエルナの手から射出される。

 あっという間に、すべての矢を落とした。

 消し炭になった矢が降り注ぐ中、拳闘士ガータは吠える。


 【防護突破】ガラッダ!


 拳闘士の防御破壊スキルが発動。

 振り上げた拳に、拳神ドーガの加護が宿る。


 次の瞬間、一振りの拳はゴブリンのすべての盾を吹き飛ばした。


 本来なら、1体にだけ通じるスキルだが、神官ユンの神託魔法の加護もプラスされ、全体に効果が及ぼす。


 スキルの衝撃で、ゴブリンはのけぞる。

 盾を失い、体勢を崩したモンスターの隙を、ヴェルテは見逃さない。


 振りかぶると、大剣をなぎ払った。


 前衛にいた4体のゴブリン全員が、真っ二つになる。

 悲鳴を上げ、絶命していった。


 後衛のゴブリンたちが、騒ぎ立てる。

 矢をつがえ、体勢不十分のヴェルテに狙いを定めた。


 【氷矢】レイ・アス!


 1体のゴブリンの脳天に氷の矢が刺さる。

 瞬間、全身が凍り付けになると、空気の些細な流れで消滅した。


 残った2体のゴブリンが「ぎゃひ」と下品な声を上げて驚き、動きを止める。

 2人にはその一瞬で十分だった。


 ガータはストレートを振り切り、ヴェルテは袈裟に切って落とす。

 それぞれ残ったゴブリンを攻撃し、撃退していった。


「ふう……。これで最後でしょうかぁ?」


 気の抜けた声を上げたのは、神官志望のユンだった。

 エルナは周囲を再度確認した後、ショートソードを鞘に収める。


「そうね。……初戦闘ご苦労様、ユン」


 エルナは動物の皮で出来た水筒を、ユンに差し出す。


「あ、ありがとうございますぅ……。はあ、緊張しましたぁ」

「誰だって最初はね。でも、ちゃんと私の指示に聞いてたし、問題なかったわよ」

「とりあえずぅ。皆さんの足だけはぁ、引っ張ったらダメかなぁって思ってぇ……。必死でしたぁ~」


 なんかとても必死にやっていたとは思えない間延びした言い方だった。

 こういうしゃべり方なら仕方ないのだろうが、親は何も思わなかったのだろうか、と、エルナは思う。


「おーい!」


 手を挙げて戻ってきたのは、ガータとヴェルテの前衛組だった。


「お前ら、大丈夫か?」

「は~い。大丈夫ですよぉ。ガータ君もお疲れ様でしたぁ」

「いい加減、君付けはやめろ、ユン」

「でもぉ。ガータ君とは幼い頃からのお友達なのでぇ。癖が抜けないのですよぉ」


 ユンとガータのやりとりを見ながら、エルナは笑う。


「ヴェルテもお疲れ様……」

「ああ……」

「ところで、手を抜いたでしょ。あなたなら前衛を切るのに大ぶりせずに、すぐ後衛のゴブリンに斬りかかることできたんじゃない?」

「……」

「沈黙は肯定と受け取るわよ」

「お前こそ、倒そうと思えば、3体同時でもいけただろう」

「あなたがズルしようとしていたからね」

「うわー。なんか高度なことを喋ってるよ、2人で」


 少々険悪なムードを察して、ガータが割り込む。


「でも、お二人とも強くて助かりましたぁ~。ガータ君と私だけじゃあ~、きっと今頃ぉ、モンスターさんのお腹の中だったのですよぉ」

「不謹慎なこというなよ、ユン! そもそもお前が寝坊して、試験会場に行くのが遅れたんだろ?」

「だってぇ~。寄宿舎のベッドとぉお布団がぁ、ふかふかのモフモフで気持ちよかったのですよぉ」

「だからって、こんな大事な時に寝坊すんなよ!」

「そういうガータだって、寝坊したんでしょ?」


 今度はエルナが二人の間に入る。


「いや、それは違う! そもそも今日はユンが起こす番だったんだ!」

「あれぇ? でもぉ、昨日ユン君が起こすからってぇ。聞いたようなぁ~」

「捏造すんな!」

「まあまあ、2人とも。子供じゃないんだから、自分で起きようね」

「う! エルナさん、顔が怖い」

「……自覚が足りないんじゃないか?」

「ヴェルテ姉さんまで……」

「姉さんはやめろ」


 拳闘士志望のガータ・アルバーは、総合で37位という上位成績者。志望者の中では、3位とかなりの逸材だ。

 神官ユン・ミーニャは、総合こそ103位とガータよりも一歩劣るが、神官の筆記試験では上位トップ10に入る。


 エルナがヴェルテを仲間にし、パーティ編成に本腰を入れ始めたのは、他の受験生からかなり後だった。


 その頃には、ほとんど有能な人材はパーティを決め、残っていたのは下位成績の受験生ばかり。そんな状況で、上位成績者の2人を仲間に出来たのは、偶然だ。


 理由は2人とも寝坊し、遅刻して会場に入ってきたからだった。


 お互い理由は違えど、パーティ編成に出遅れたもの同士、すぐに意気投合した。

 遅刻はともかく、2人とも能力的にも性格的にも問題ない。状況としては、かなり贅沢な人材といえた。


 幼なじみという2人のコンビは、自然にエルナたちになじみ、エルナもすぐに2人になじんだ。おそらくガータとユンが持つ独特の空気によるものだろう。


「ともかく、先を急ぎましょう。だいぶ他の受験生と差が開いてるし」


 エルナが号令をかけると、他のメンバーは同意した。

 自然とエルナをリーダーになり、パーティは結束を深めていった。






 一方、リコと組んだマリーはというと……。


「ふぇぇぇん……。リコ、べとべと……。気持ち悪いよぉ……」


 大型のスライムに捕まっていった。


「ちょと待ちなさい! こっちも取り込んでるのよ!」


 ゴブリンの斬撃を、リコは槍で受け止める。先端に遊環が付いた槍は、じゃらりと激しく音を鳴らした。


「早く助けて~」

「うるさい! たまには自分でなんとかしなさいよ」

「だってぇ……」

「ちょっと! イエッタとポポタは何をしてるのよ! 後衛の私が、近接戦闘してどうすんの!」

「無茶言うなよ! こっちも精一杯だ。なんだよ。このモンスターの群!」


 人食い大鼠に取り囲まれたイエッタが、ナイフを振るう。


「ミーが思うに、先を行く勇者候補が倒したモンスターの死骸に引き寄せられたのだろう。……うむ。なかなか良いスメル。お腹が空いたのである」


 ポポタが、モンスターの手や足、胴体の遺骸を見ながら涎を垂らす。


「誰よ! こっちの道に行くって決めたのは!」

「おめぇじゃねぇか、リコ!」

「ミーは忠告したのである。モンスターの血肉の臭いがすると」

「だから、モンスターがいないって思ったのよ!」

「うぇぇぇん。お姉ちゃん助けてぇ」


 ……もはや、バラバラである。


「だーもうー! 埒が明かないわ!」


 ゴブリンの攻撃をかわしながら、リコは呪文を唱え始めた。



 ――五分後……。



「はあはあ、ど、どんなもんよ」


 メンバー仲良く、地面に四つん這いになって、息を吐いていた。

 周囲にはモンスターはおろか、転がっていたモンスターの死体もなくなっていた。


「す、スゴいね。リコ! 光がパーって、一瞬にしてモンスターがいなくなったちゃった。なんの魔法?」

「き、企業秘密よ。後で教えてあげる……。今は、や、休ませて……はあはあ」

「と、ともかくマドモアゼルのおかげで助かったのである。……げこげこ」

「な、なあ……。今思ったんだけどさ」

「なに?」

「このパーティの弱点なんだけど……」

「弱点? そんなの――」

「戦略を決める賢者がいないってことじゃね?」


「「「………………」」」


 お腹や胸を上下させていたメンバーの動きが、同時に停止した。

 そして批難の目は、リーダー的な存在であるリコに向けられる。

 視線に気付いた金髪美少女は、顔を真っ赤にし怒りを露わにした。


「し、仕方ないでしょ! 賢者なんていると、私がパーティを仕切れないじゃない!」


 なんとも身勝手な答えが返ってくる。

 イエッタとポポタは息を吐き出し、がっくりと俯いた。


「で、でも! リコは頑張ってるよ」


 マリーが立ち上がる。

 すると、今度は皆の視線が、マリーに集まる。

 ……目が点になった。


「ま、マリー」

「なに? リコ?」

「あなたは人を励ます前に、自分の格好を鏡で見てきた方がいいわよ」

「え?」


 マリーは自分の身体に視線を向ける。

 魔法使いの黒のローブがすっかり溶けきり、中に着ている衣服どころか下着やお臍まで見えていた。慎ましい乳房も若干露わになっている。


「着エロってオレの趣味じゃなかったんだが……」

「マドモアゼルの芸術に傷をつけるような前衛的な姿……」


「「しかし、悪くない!!」」


 マリーの顔が沸点に達する。


「ふええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇl!!!!」


 バシン、という小気味よい音が、高い崖がそびえる渓谷で鳴り響いた。



ユンみたいなおっとりキャラを書くのは初めてなので、書いててかなり楽しいです。これからも贔屓にしたいですね。


※ 後編は18時に投稿します。 

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