第4話(前編)
2016年2月7日午後0時をお知らせします。
「――というわけだから、マリーは私のパーティよ」
エルナが、ことの顛末を妹と、リコ・モントーリネという少女から聞いたのは、実技試験でパーティ作成時間が始まってすぐだった。
パーティが出来た組から、実技試験会場となるE級ダンジョン《ロケール渓谷》へ向かうことになっている。すでに入試がはじまる前からパーティを決めていた組は、もう出発を始めていた。テストの性質上、早めに出発すれば、有利になるからだ。
そんな中で告げられたマリーの決断。
エルナが動揺しなかったといえば、嘘になる。
妹を加えることは、計算のうちだったからだ。
何よりマリーはエルナの妹……。
エルナはそっとリコという神官志望の少女を見つめる。
覚えている。
筋力試験の時に、一緒にバールの試技を見ていた少女だ。
改めてマリーを見つめる。
すると、さっとリコの後ろに隠れてしまった。
「なにを今さらびびってんのよ!」とリコに肘でつつかれている。
表面上は、いつもの妹だ。
でも、昨夜あたりからマリーの様子がおかしいことには気付いていた。
正確には、自分が取材を受けて、育成校の中央広場に戻ってきた時だ。
その時に何かあったのだろう。
何気なく探ってはみたのだが、マリーははぐらかしてばかりだった。
受験生のために用意された寄宿舎では同室にはならなかったから、時間をかけて詳しく聞くこともできなかった。
それが――。
――まさか別のパーティに入ると言い出すとはね……。
エルナは目をつむり、さざ波のように揺らいだ心を落ち着けた。
そして瞼を持ち上げる。
「いいわ」
一言で応じた。
エルナの反応に、一瞬眉尻を動かしたのはリコだった。
「意外とあっさりね? ……別に“私の”パーティに入りたいんだったら検討してあげてもいいのよ。その代わり、『お願いします。リコ様』って土下座したらね」
「ちょっと! リコ!」
「マリーは黙ってて。……どうなの?」
「悪くないかもね」
「お、お姉ちゃん?!」
「信仰の評価で、私より上だった神官志望者。そのパーティの誘いであれば、土下座の1つや2つやすいものよ」
「……へ、へぇ」
「でも――」
“入ってあげない!!”
それはエルナからの宣戦布告だった。
リコは笑う。
そう来なくて面白くない――とでも言うように不敵に……。
対して妹はというと、今までにない姉の雰囲気を察して、森鼠のように震えていた。
「妹をよろしくね、リコさん……。もし何かあったら、“わかってるわね”」
やんわりと向けられた威圧を感じ、妹はますます縮こまる。
リコはふんと鼻を鳴らした。
「妹さんは私が責任をもって守ります、とでもいうと思った? おあいにく様。……マリーはね。誰かに守ってもらうほど弱くはないわ」
「……!」
エルナは何も言わず振り返った。
「お姉ちゃん!」
幾度と見た姉の背中に、マリーは声を掛けた。
やや目を泳がせながら、静かに尋ねる。
「怒っ……てる……?」
「……いいえ」
「はあ、良かったぁ」
心底ホッとした様子で、胸をなで下ろす。
「マリー……。あなたはもう私の妹なんかじゃないわ」
「え……?
そしてエルナは、勇者候補志望者たちでごった返す人混みの中へ消えて行った。
もう私の妹なんかじゃないわ――。
姉の言葉はマリーの心に波紋を広げた。その揺らぎは大きくなり、津波のように爆発した。
「おね――!」
「待ちなさい」
リコがマリーの手を取る。
「で、でも! お姉ちゃん、怒ってるよ!!」
「そうかしら?」
「だって、あんなこと一度も言われたことないよ! 妹じゃない……なんて……」
姉がどんどん離れて行く。
涙が出てきそうだ。
心がバラバラになり、今にも身体が崩れそうになる。
それほど姉の発言は、マリーにとって破壊的な力を秘めていた。
「落ち着きなさいよ。……あんたは、あの女の言葉を額面通りに受け取りすぎてんんのよ」
「え?」
「妹じゃないってことは、やっとあんたをライバルとして認めたってことでしょ」
「ら、ライバル?」
「本当に妹が可愛くて仕方なくて、あんたのことが心配なら、あの女が言ったとおり、私に土下座してでもパーティに入ったと思うわ。……でも、断った。それはあんたを一人前の勇者候補のライバルとして認めたってことじゃない」
「そ、そうなのかな……?」
「あんたが心配しなくても、姉妹の関係なんて簡単に断てるもんじゃないわよ。ま! ……私には兄弟なんていないけど」
「説得力ないよ、それ!」
「つまり、今からあの女に追いついたところで、結論は変わらないってこと。むしろ怒るわね。……私なら怒る」
マリーは言葉を詰まらせた。
リコの言わんとしていることは、なんとなくわかる。
一度口にした言葉を、姉が撤回したことはない。少なくともマリーの前では……。
ああ見えて頑固なのだ。そして怒ってるなら、なおさら意固地になるはず。
今から、マリーがどんなに謝ったところで、許してはくれないだろう。
「じゃあ、どうやったら許してくれるんだろう……」
「あなたが許しを請う必要なんてない。……あの女が許しを請うように、実力を見せればいいのよ」
さらりと無理難題を言い切る。
マリーはずっと心では思いながら、切り出せなかった疑問をリコにぶつけた。
「ねぇ。リコ……。あなた、本当に神官志望なの? なんか言ってることが、怖い王様や独裁者みたいだよ」
リコは自慢げに鼻を鳴らした。
「よく言われる!」
非常ににこやかな顔で神官志望の少女は応じた。
ただそう一言だけが返ってきた。
ここら辺のやりとりは、書いてて楽しかった。
マリーはしんどそうだけど……。
後編は、本日18時に投稿します。




